Yosyan先生の、TPPに関するエントリを読みました。もちろん開業医らしく、医療に関係する話題が中心になります。
 私はやっぱり仕事柄、農業が気になるのですが、農業の場合TPP推進の方々は、損失分は補助金で補填すればよいだろうとの考え方でほとんど統一されています。
 TPPにあわせて出された農業振興策(TPPとは関係ないと念押しされていますが)にも、10倍の規模拡大や輸出振興などと並んで戸別所得補償の拡充が載っています。


 そもそも、所得再分配の最たる例と言える年金すら破綻させようとしている現在、そんな仕組みが今さら簡単に作れるのかの疑問が先に立ちますが、それよりもっと根本的な指摘に、TPP第3章11条に「いかなる形式の農産品輸出補助金の再導入も阻止し、あらゆる形式の輸出補助金を撤廃する」というものがあり、戸別所得補償はこれに引っかかるのではないかという可能性があります


 個人的にはこの解釈は少々強引かなと思うので、あくまで可能性ととどめていますが、先に挙げた農業振興策をまとめると「補助金で農産物の価格面での国際競争力を付けて輸出を促進する」とも読め、となるとこれは形を変えた輸出補助金ではないかと言う解釈も出来ることは出来ます。


 もし実現すると、日本で(補助金の下駄のおかげで)生産が増えてきた小麦や、もちろん米も即死し、アメリカのほうは小麦や大豆、トウモロコシの輸出補助金が消えて高騰しますからそれらを世界一輸入している日本の食品(特に肉関係)はいきなりコストアップになります。それらに対して補助金でどうにかする策はその時点で潰されているので、手のうちようがありません。


 米や小麦がなくなっても、野菜を作ればいいじゃんと言う考え方もあるにはありますが、米麦大豆は野菜などに比べて圧倒的に面積を食う作物で、なくなってしまえば現在の軽く半分を超える農地が一気に耕作放棄地となります。やったあ事業転用だ、と喜ぶ所はあるかもしれませんが。
 それとそうなった時にはたして、農薬や農業機械、農業資材、農業土木を扱っているメーカーや販売店はやっていけるのでしょうか。稲作農家という最大のユーザーが消えて、まだ市場がもつとはちょっと思えません。


 まあ一瞬で全てが消えるわけではありませんけど、少なくとも農業は農家だけでやってるわけではないので、米だけの影響なら大丈夫とはとても言えません。極一部のきわめて優秀な農家だって農業資材を全部個人輸入しなくてはいけないような状況ではやっていけるわけが無いでしょう。言い忘れましたがJAはもちろん即死です。

 もちろん、TPP3章11条で本当に農業補助金が禁止されるかどうかわかりませんが、その可能性を検討するそぶりすら見えないのはどうなのでしょうか。


 そこまでして、儲からずジジイばかりの農業など守らなくてはいけないのか、という意見も安住大臣に限らずたくさんあります。個人的には、工夫が無かったり努力が無かったりで潰れる農家はどうでもいいと思っています。というか今どきそういう所が潰れるのは必然でしょう。正直、このまま黙っていれば農業はソフトランディング的に縮小します。が、なぜ政治や財界の都合でいきなり殺されなくてはならないのでしょうか
 なんだか、農業を潰せという主張を見るとき、まるで農業が潰れたら農業関係者はどこかへ消え去ってしまうかのような印象を受けるのですが、もちろん現実には無職となった人間が残るのです。この不況下に元農家をそれほど雇う会社もないでしょうし、自己破産で生活保護か自殺しかないでしょう。先日、生活保護受給者は史上最多になったとのニュースを見ましたが、ここからさらに何割も増えて、果たして維持していけるのでしょうか。


 TPPは農業問題ではない、というのは賛成派も反対派にも共通した考えで、私もほかにたくさんの問題があるのは知っていますが、それは農業に影響がないのではなく、農業は当然のように深刻な影響があった上で他所にも被害があるという話です。


 先日twitterで、主に震災関係の話ですが、政府が情報公開をしないのは隠蔽しているだけでなく単に知らない、わかってないだけではなのではないか、という指摘を読みましたが、TPPに関してはさらにもっとその匂いを感じます。
 11日の質疑でもISD条項を知らないとか、国際条約が国内法整備に繋がる事がわかってないとか、GDPを(10年で)2.7兆円押し上げる試算が農産品の関税や諸制度を維持したままの試算だった(損失を繰り入れてない)ものだったとか、なんか嘘だろう?というような衝撃的な話が挙がっているのですけど、本当に今後どうなるのでしょうか。