格安米:一部に「くず米」 本来は加工用原料 産地表示、来年7月義務化・・・ 2010年12月15日

http://mainichi.jp/life/food/news/20101215ddm013100160000c.html


◇市民団体が調査


 ディスカウントストアなどで販売されている格安米を市民団体が調べたところ、加工用の原料になることが多いくず米が多く含まれている商品が見つかった。来年7月からは産地表示などの義務付けが始まる見通しで、消費者団体は細かい表示を求めているが、流通業者は「時期尚早」と反発している。背景にある米の表示の問題を探った。【小川節子】


 食の安全を調査している市民団体「家庭栄養研究会」(東京都三鷹市)が今秋、都内で販売されていた格安米10銘柄(5キロ1200~1700円台)を調査機関に依頼し、米の厚みが1・85ミリ以上の「高品質米」、同1・7ミリ未満の「くず米」の比率を調べた。


 一番安い「1290円」の米では、高品質米はわずか18%、くず米は37%含まれていた。高品質米が50%を切ったのは調査した10銘柄中3銘柄で、同じ「1580円」でも高品質米が93%のものと、32%のものがあり、価格と品質が必ずしも連動しているわけではなかった。また、試食したところ、産地直送の「単一原料米」と比べて、明らかに米粒が小さく黄色みを帯び、味も香りも悪い米があったという。


 今回調査した格安米のうち9銘柄は「複数原料米」と表示されており、8銘柄には何年産かの表示もなかった。調査にあたった同会の古山成江さんは「多くの消費者は、安い米にくず米が混ざっているとは考えていない。商品には細かい表示もなく、袋も透明でないため、粒の大きさや欠けた米があるかどうか、判別することは難しい」と指摘する。


 背景には米の表示ルールの問題がある。日本農林規格(JAS)法では、「単一原料米」は産地、品種、産年、「単一原料米」の表示の記載が義務づけられている。一方、「ブレンド米」は、複数の原料を使っていることと、国産か輸入原産国とその割合の表示が義務づけられているだけだ。ブレンドした米の産地別の内訳の表示は任意で、しかも農産物検査を受けていない未検査米は産地、品種、産年の表示をしてはいけないルールだ。古山さんは「米の規格、産地、産年表示はどんな米であっても必要だ」と指摘する。


 農薬やカビで汚染された米が食用に不正転用された問題を受け、取引記録の保存などを義務付ける「米トレーサビリティー法」が今年10月に施行された。来年7月からは、産地表示の義務化なども導入される予定。消費者庁が、パブリックコメントを募集したところ、消費者団体からは「未検査米に対しても産地、産年、品種の表示とその義務化」「くず米使用の場合はその使用率も書いてほしい」などの要望が寄せられた。一方、生産者や、流通関係者からは「義務化は時期尚早」などの声があった。消費者庁の平中隆司・食品表示課課長補佐「未検査米を含むすべての米に都道府県名を表示するようにしていきたい」と話している。



 安いものの中身に疑問を持って調査してみる試みは良いと思います。そもそも私は、激安米にはくず米や外米などが当然のように入っていると思っています。「どうせ消費者にはわからないだろう」と言うような不心得な業者は確かに存在します。
 この調査の出発点はおそらく、「なぜこの米は安く販売できるのだろう?不安だ」と思ったところからなのでしょうけど、今の社会はこの「不安だ」で止まっていることが非常に多く、「不安だからお前ら何とかしろ」ではなく「不安だから調べてみる」という方向へ進んだのは評価できます。


 ところがこの記事の中身には私から見て少し疑問があります。そのあたりをいくつか指摘・解説してみます。初めに言っておきますがこれは批判やイチャモンではなく、どうせやるならこの辺も考慮した方がイイヨというようなことです。


○くず米や高品質米の大きさによる規定は無い


 記事中に「米の厚みが1・85ミリ以上の「高品質米」、同1・7ミリ未満の「くず米」の比率を調べた」という表記があります。確かに1.70mm未満の米はくず米といっていいでしょうし、これは調査機関(この調査機関っていうのは何なのかよくわからないんですが)の独自の基準なのかもしれませんが、農産物検査法の農産物規格規定にはそういう基準はありません。まあ記事にも「基準である」とは書いていないのですが、誤解しそうな文面なので。


 くず米は別名を「ふるい下米」と言いますが、ふつう米の収穫の手順は、稲刈りして乾燥した後に籾摺り(籾殻を外す)した後にふるいにかけて餞別をします。そのふるいの目の大きさは生産者ごと・米の品種ごとに違い(大きい品種もあるので)、良い米を作ろうとする生産者は荒い網を使ったりします。うちのコシヒカリの場合は1.90mmです。
 で、そのふるいからこぼれ出た米のことをくず米と言うので、人によっては1.85mmの米でもくず米になりうるわけです。


 また、話は少し変わりますが米は高品質米とくず米の2種類しかないわけではなく、もう少し細かく言えば等級があります。普通に食べる米には1等から3等までの上位等級米と等級外の4つの格付けがあります。等級は大雑把に言って整粒(大きさ、形、つやなどが整った米粒)が全体に占める割合で決まります。等級外は整粒が45%未満で、はっきり言ってくず米とほとんど変わりませんが、形の上ではくず米ではありません。


○選別は玄米で行う


 実は一番気になったのはこの点なのですが、ふつう店頭で売っている激安米は白米だと思います。が、くず米と普通の米をふるいにかける選別は玄米の状態で行います。白米を調べて「これってくず米じゃん」と言うのはちょっとどうかなあ、と思いました。というのは、大きさも変わりますが、欠けた/割れた米は精米段階で出ることの方が多いからです。
 といっても精米段階で割れる理由は玄米の状態の問題があることが多く、具体的には胴割れ米というヒビが入った米は割れやすいのですが、これは大きさどうこうではなくヒビの有無で決まるので、等級が下がる要因にはなりますがくず米にはなりません(玄米の状態からすでに割れている米はくず米になることもある)。


 というわけで、どうもこの消費者団体では「くず米」というものの定義が普通の米業界でのそれとは少し食い違っているのではないかな、と思いました。
 色が黄色くて味や香りも悪い米があったという話ですが、それはどうもくず米ではなく古米っぽいです。これはこれで調査する術があるはずです(記事には書かれていませんが、したのかもしれませんけど)。また、もっと簡単なスクリーニングになりそうな調査項目は米の水分で、長期間保存された米は水分が飛びますから、例えば水分が13%未満だったりすれば相当あやしいです。水分は簡単に測れます(私でも自宅で出来る)。


○未検査米の産地表示などありえない


 くず米云々のほかに気になったのはここです。この消費者団体は、未検査だろうがくず米だろうが規格、産地、産年表示は必要だという主張のようですが、検査はまさにこれらについて正しいかどうか検査しているわけで、「未検査でも産地表示」はほとんど矛盾みたいなものです。
 産地・産年表示が出来ないのは未検査農産物のリスクです。消費者団体の方々には、「産地・産年の表示が無い米は売るな」と主張するのではなく、「産地・産年表示の無い米は買わないでおこう」と判断していただきたいです
 それにしても消費者団体はまだしも、消費者庁の課長補佐は何言ってんでしょうかねえ。


 トレーサビリティ法においては、産地・産年の情報においてくず米や中米であっても厳しくなったのは確かで、今年は中米であっても産地表示が無いものは扱えない(くず米同様として扱う)と言う業者が多かったです。個人的な考えですが、全てを明らかにせよと言うのもいいですが、先ほども言ったように「不確かなものは避ける」というのも一つの見方として勧めて欲しいです。


 激安には激安なりの理由があり、もちろんその理由として業者は「くず米の使用割合」なんか表示できないわけです。