農水省から、2010年版の農林業センサスが公表されました(速報値)。農林業センサスとは、国が農林業の実態を5年ごとに調査している統計データです。
 とりあえず概要はこちら。
> http://www.maff.go.jp/j/tokei/sokuhou/census10_zantei/index.html


 さてこれは報道でも取り上げられました。最も関心を呼んでいたのは農業就業人口の推移で、5年前に比べ22.4%も減少して約260万人(△75万人)、平均年齢は65.8歳となったそうです。



時事ドットコム:農業人口、5年で22%減=減少率最大、高齢化が要因-農水省調査
http://www.jiji.com/jc/zc?k=201009/2010090700156


 農林水産省が7日発表した2010年農林業センサス調査の速報によると、2月1日現在の農業就業人口は260万人となり、前回調査(05年)に比べ22.4%減少した。減少率は比較可能な1985年以降で最大を記録した。
 就業者の平均年齢は63.2歳から65.8歳に上昇した。同省は就業人口減少について「高齢により農業をやめた人が増えたのが大きな要因」(統計部)とみている。


 山田正彦農水相は7日の閣議後会見で、農業就業人口の大幅減少に関し「平均年齢も65歳になっており、早く戸別所得補償制度を本格実施したい」と強調。恒常的にコスト割れしているコメや畑作物を対象にした同制度の実施を通じ、就業者を増やす必要があるとの認識を示した。


 就業者を男女別にみると、男性が16.6%減なのに対し、女性が27.5%減と落ち込みが際立った。これについては「農業で補助的な仕事をしていた女性がパートなどに出て行った可能性がある」(同)としている。
 農業で一定以上の収入(年間50万円以上など)を得ている販売農家数も16.9%減の163万1000戸と大きく減少した。一方、耕作放棄地は40万ヘクタールと2.6%増加した。(2010/09/07-11:13



 就業人口が22.4%も減ったとなると数字としてかなりのインパクトです。ただしセンサスの内容を見てみると、概要の図4に経営耕地面積規模別農業経営対数の増減率という項目があるのですが(なんちゅうややこしさや)、要するに経営面積別の農家の数をみると、5ha以下の農家の数は減っていて、特に面積が小さくなればなるほど減少率も大きいのですが、5haを超える規模の部分だけをみるとむしろ数は増えています
 (ただし30ha以上の大規模農家は21.8%も増えていることになっていますがセンサスの概要に示されている図は増減「率」なので、もともとものすごく少ない大規模農家はちょっと増えただけで率が跳ね上がるので注意は必要です)
 1経営体当たりの経営耕地面積も増えており、これらを総合すると、小規模農家がものすごく減って、残った農家は辞めた農家の土地を借りて大規模化を志向したという結果が読み取れます。自給率もほとんど横ばいで、生産力がそれほど大きく減ったわけでもありませんし。


 農業人口の減少の原因ですが、農水省は農業人口の高齢化が主だと考えているようです。たぶん正しいと思うんですが、ちょっと考えると面白い話で、つまり辞めた農業者の大半が高齢者(農業現場で言う高齢者は最低70代から)とすると、その層が20%ほども減ったら農業人口の平均年齢は下がってもおかしくないはずですが、むしろ2歳以上も上昇しています。ということは若い人が全く入ってないって事ですね。


 さてこの農林業センサスはあくまでデータであって、それを見る人、あるいは立場によって中身の価値は変わるはずです。
 つまり読んでいる人間が何者かが問われる、みたいな事ですが私が気になっているのは山田農水相です。


 先ほど、私は今回のデータから「小規模農家がものすごく減って、残った農家は辞めた農家の土地を借りて大規模化を志向した」ということを読み取りました。これは過去にブログで何度か書いてきましたが、本間正義などの農業経済学者たちが「こうするべきだ」と常々主張していた方向です。つまり、もともとそういう主張をしてきた人たちにとっては今回得られたデータは喜ばしい結果のはずです。
 今回、農業経済学者たちのコメントは見ていないんですが、私は農水省もどちらかというとこの方針だと思っていました。(今はありませんが)財政諮問会議でも農業関係は「もっと大規模・低コストにして海外競争力をつけるべきだ」のような意見が多かったですし、加工用米の大増産などは低コストでやらなくては意味がありません。


 ところが新聞記事の山田農水相のコメントを見る限り、彼はこの(農業人口が減少した)事態を「問題だ」と考えているようです。まあ、問題だと思うこと自体はかまわないんですが、つまり何がいいたいのかというと、農水省としては結局どういうスタンスで農業政策を進めていくの?という根幹の部分が全くわからないのです


 「農業に携わる人々の頭数を増やして、地域の特色を生かした個性豊かな農業を目指したい」のか、「時代の流れに沿って大規模・低コストの農業を導入し海外製品との価格差を少しでも縮めて自給率を高めるような農業を目指したい」のか、まあこれは今考えたのでこんな意見ばかりあるのではありませんが、なんにせよ(別に山田だけに限りませんが)農水省からそういう哲学が見えてきたためしがない。
 というかもっと正確に言えば、口では「小規模農家も全てが幸せになるよう保護していきたい」といいつつ実態は「大規模、効率、切り詰めろ!」のように言ってることとやってることが正反対な態度ばかりで、もうこうなると信用するとかどうとか言うレベルの話ではないのです。


 だいたい、上に挙げた記事で山田農水相が言っている戸別所得補償の話がまさにそうで、彼はこれが農業人口を増やす策だ!と思っているようですが、何を言ってるのやら。戸別補償で出てくるお金なんて、そのぶん米価が下げられてしまえばあっという間にパーです。この制度は米価の値下げ材料にしかならないでしょう


 農水省は、山田は、もっと農政に対して態度を明確にすべきだと思います。もっとも明確にすると、例えば小規模農家の票を失ったりするんでしょうけど、そんなのがほかの分野でももうどんだけ色々なものの足を引っ張ってきたのか・・・