私はビジネスジャンプに連載されている「ソムリエール」を読んでいるのですが、この連載の楽しみの一つに監修の堀賢一氏によるコラムがあります。堀氏は日本のワインジャーナリストとしてはトップクラスの人物で、このコラムシリーズ「ワインの自由」は単行本にもなっていますが、非常に面白いです。
 で、先日のBJに載っていたコラムでは、バイオダイナミクス(ビオディナミ)が取り上げられていました。


 バイオダイナミクスとは一言で言えば超特殊な有機農法で、つまり「農薬や化学肥料に頼らず自然の力を活かしたブドウ作りをする」に飽き足らず、超自然なパワーをも利用しようと、土壌に水晶の粉を撒いてみたり、潅水や施肥の日時を星の運行状況で決定したりとほとんど魔術か占いの領域にまで来ていると思わせるものです。もちろん科学的根拠などありません。正直、胡散臭いものです。


 ただし堀氏は、胡散臭げだということは認めつつも、全否定はしません。堀氏はバイオダイナミクスに携わる人を3パターンに分類します。それは、


1:バイオダイナミクスの理念・理論に賛同(しばしば、妄信)する人
2:「有機農法」「バイオダイナミクス」の名前そのものをノレン・付加価値として利用する人
3:試してみて良い結果が出たなら理屈はさておきとりあえずそれをもって良しとする人


 コラム本文にはもっとうまく書いてあったと思うんですが、雑誌は立ち読みしただけなんで(笑)うろ覚えで書きました。簡単に言えば1は信者、2は良く言えば商売人(悪く言えば詐欺師)、3は職人とでも言えるでしょうか。


 1と2は行動面から見ればよく似たような事を行うと思います。共通するのは、「バイオダイナミクス」というネームが必ず表に出る必要があることです。過程こそが重要であり、その結果(生産物)については1の人は妄信しているがゆえにバイアスがかかり、2の人は結果などはじめからどうでも良いものです。
 ところが3は違います。結果が出なければ、あるいはそれよりもっと良い結果が出る方法がほかにあるならば乗り換えることができます。バイオダイナミクスにこだわりなど無いからです。結果こそ優先されるべきものですから、方法なぞいちいち喧伝する必要がありません。そもそも、理屈では怪しいことを最初から分かっている場合もあります。なんでかはわかんないけど良いものができた、科学者はこれでは困るかもしれませんが農家なら充分です。


 で、3のような意味でバイオダイナミクスに取り組むワイン生産者もいて、堀氏はそういう人のことはちゃんと評価しています。もちろん、美味しいワインができているからです。ちなみに1や2のようにバイオダイナミクスに嵌まる生産者は3のパターンよりはるかに多く存在しますが、そのワインはたいてい美味しくないか、またはだんだん落ちてきています(例えば、ルフレーヴ)。


 JBPressの2つのホメオパシー記事世界で最も安全な医療 自然治癒力を高める「ホメオパシー」何のためのホメオパシーか 西洋医学が見放した人を前に、それでもノーと言えるか を読んでこのバイオダイナミクスのことを思い出しました。というか、まんま同じです。
 ホメオパシーを「おまじない」「気休め」のように善用することはできます。が、それは必ずしもホメオパシーである必要はありません。日本には伝統の、イワシの頭があります。筆者の長野修は「レメディは驚くほど安い」と言っていますが、単なる飴玉や小麦粉を使ったほうがもっと安いです。というかレメディなんか砂糖玉にしちゃ驚くほど高いだろう。


 胡散臭いワインを飲んでも不味いだけですが、病人に善意でホメオパシーを薦めたら死ぬ事だってあります。ホメオパシーを薦めるときの多くは既存の医学を否定する道から入るからです。ホメオパシーは副作用無く安全??いや患者にとっては病状が改善しない分危険でしょう。
 あと、「プラセボ効果はある」といちいち言うのも、正しいけど、でもやっぱりおかしいような気がします。プラセボも無いとしたらそれはそれで逆にすごいし、わからない人にとっては「プラセボ」と言う言葉自体に何か特別な響きやイメージを感じるらしく、なぜか「効果アリ」と受け取るようです。「気のせい」と言うほうがよほど正確でしょう。