農地と住宅が隣接する環境で農家が農薬を使用し、住民からクレームがつく・・・というのは以前からずっと存在する問題で、今になっても結局のところは「お互いよく話し合う」以外に解決の方法は存在しません


 農薬使用はその方法が適切であれば安全である、と常日頃から主張している私ですが、当然のことながら適切でなければ危険はありますし、その適切の範囲だって「ラベルに書かれている」が全てではありません。近隣の方に迷惑がかからないように作業する、と言うのは農薬取締法云々以前のマナーであり、当然、適切な使用範囲に含むでしょう。また、飛散しやすい粉剤をやめて、DL粒剤や液剤にするなどの配慮も必要でしょう。
 ただし、農薬はその本来の姿よりもはるかにリスクが高いものと誤解されていて、そのため使用マナーの程度について農家と住民の間に齟齬が発生することはあります。


 まあ農家がこういう話をしだすと住民側の無理解がどうとか言う話になりがちなんですが、出来るだけそういう話にしないようにとりあえず農家側を攻撃しておくと、農家ではないふつうの人は農薬のことなんか知らなくて当たり前です。そのため、もし農薬を誤解した住民の方が来た場合は、ちゃんと農薬の安全性・リスクについて説明できることが必須です。
 ところが私が知る限り、農家でそういう話をちゃんと出来る人はかなり限られています。正直5%もいればいい方です(実感値)。これは相当由々しき問題だと思っています。
 また、これも実際のところ農家なんて世間知らずのお山の大将みたいのばっかりですから、そもそもマナーとか言うものに欠ける人も残念ながらいます。私は例外だとか言うつもりはありませんが、それにしても話の通じない酷いヤツと言うのは少なからず存在します。


 もっとも逆に、話にならない地域住民というのもいる、そうです。そうですと伝聞形なのは、幸運にも私自身は会ったことがないからです。まあ経験談自体はよく見ますし、ネット界隈でこの手の話題でどうしても話の通じない人をチラホラ見ることが出来ますので、実際存在するのでしょう。


 話し合いが行われるとして、お互いに歩み寄りコストを払いつつ決着できればいいし、実際にしているところもあるでしょうが、できないことが多い点が、この問題をいつまでたってもなくならないケースにしています。


 たいていはまず住民側からの提案になることが多いでしょうが、最も大きな要求は「農業を辞めろ」を別にすれば「農薬を使うな」でしょう。ただしこれはほとんど受け入れられません。農薬は使っても使わなくてもいいというようなものではなく、やむにやまれず使っているので、それをやめろと言うのはとうてい無理です。
 では農薬の使用回数を減らせと言うのはどうでしょうか。これなら実現の可能性はあります。ただし物によるわけで、例えば病気が蔓延しているのに殺菌剤を使うなてのはこれまた無茶です。
 私が思うに農薬の種類の中で、最も人の手で代替しやすいのは除草剤です。雑草を手で取ればいいわけです。ただし草引きは、それがために若者が農業を嫌がり農業人口が減った過去があるくらいつらい仕事です。なので、農薬を減らせ!と仰る住民の方々は草引きの手伝いくらいはしてくれてもバチは当たらないんじゃないかと思います。また、田んぼの近くに住む人が遠隔地から来る農家の変わりに水回りを手伝ってくれるとか、そういうことが少しでもあれば気持ちはものすごく楽です。


 ただ、一部の過激な嫌農薬家に見られる傾向ですが、農薬なんか使わなくて当然、使わないことによって何か負担が生じてもそれは農家が負担して当然、そもそも農家だったら安全にかかるコストなんかいくらでも支払って当然、と言う人がいます。そういう人相手に、じゃあ草引き手伝って、と言っても応じるわけがないでしょう。
 こういった、安全・安心のためのコストは製造者が支払って当然・むしろ私が支払うなんて夢にも思ってない、という考えは特に過激な人でなくても最近よく見られる気がします。それは食の分野に限りませんが、しかしそうは言われてもできないことはできないし、さらにもっと悪いことに今一般的に、安全のためのコストを消費者から取ろうとすると叩かれると言うわけの分からない風潮まであるように感じます。もっともそちらのほうは主にマスコミの煽りで、ちゃんとした消費者ならそんなことは無いって人が多数だと思うのですが・・・。


 話がずれましたが、ほかにありうる条件として、農薬を使う日を近隣に事前に通知してくれ、と言うのがあります。それなりに現実的に見えるしうまくやればいいのではないかと思えるのですが、それでも難しいところもあるようです。
 例えば、どこかに掲示板を用意してそこに書くとか紙を貼るなどして通知するとか、だれか町会の代表者を決めてそこに連絡し、後は連絡網をたどらせて通知するとかしたらいいんじゃないかと思いますが、実際にあった話で近隣の家一軒一軒全てに農家が直接回って通達しろ!と言うのがあったそうです。いくらなんでも無理!です。ここでもやはりコストの問題に行き当たります。農家側がコストを払うのがおかしいと言っているのではありません。ただ、住民側はコストを払わなくてもいいというのもおかしいです。


 あまり無茶な要求をされるならどちらも感情的になります。農家側が感情的になって出る定番の反論は、住民は近くに田んぼがあることを知ってて引っ越してきたんだろう、うちの田んぼはお前の家が出来る前からあるんじゃ、嫌なら出て行け!です。もちろん交渉の流れから言えばこんな話が出たらもうオシマイです。ただし農薬を全廃しろ!と言う主張に感情以上の理由があるのか疑問ではあります。


 それ以前に最も話が通じないのは、農薬を使っている農家に直接話をするのではなく、消防署や警察に話をつけてそちらからクレームを回すパターンです。それは気分よくないです。なにしろ、具体的に何がどう困っているかクレームをつける理由が分かりませんし、対処のしようがありません。理由はどうあれ人が困るようなことをしないようにするのは常識だろ!という人はいるでしょうが、困る程度によりますし、そもそも農薬使用をやめたら今度は農家のほうが困ります。人が困るようなことをしてはいけません。


 なんにしても、それでも結局は話し合いをしないと解決しない問題ですし、特効薬みたいなものはありません。


 近年、遊休農地の増加が問題になっていますが、農業業界以外ではあまり話されていないことですが実のところ、近隣住民があんまりうるさいのでこのあたりでは農業できない、と言って農家が撤退してできた遊休農地というのはあります。そういうところはいくら田んぼそのものの条件がよくても(もっとも、そういうところはたいてい田んぼの条件も悪いんですが)、また農地として復活させることは難しいでしょう。


 ・・・が、実は実は、このあたりは本当に酷く嫌なヤツが多くて仕事も面倒で・・・というのは住民よりむしろ同じ農家の方が多かったりもします・・・。