やや古い話で恐縮ですが、食料自給率ではなく食糧自給力こそ重視していくべきだとの話が政府から出ました。


食料自給力強化を強調 農業白書
http://sankei.jp.msn.com/economy/business/090519/biz0905191047002-n1.htm



 政府は19日の閣議で平成20年度「農業白書(食料・農業・農村の動向)」を決定した。白書は、昨年9月に起こった保管中にカビが発生したなどの事故米穀の不正規流通問題が起こった経緯と、その対策について冒頭で2ページを費やして説明し、今後も農林水産省改革を実行していくことを宣言する異例の構成となった。また、トピックスと第1章の冒頭で「食料自給力の強化」に向けた水田フル活用などの取り組みについて強調したのも特色だ。


 事故米穀関連では、ミニマム・アクセス米については輸入時の検査で食品衛生法上問題があるものは、輸出国への返送や廃棄することとし、政府が保管中に問題が生じたものは廃棄することにした再発防止策を説明。米や米関連製品について流通経路や原産地が分かるように「米トレサビリティ法」など対策のために法律も整備した経緯を説明している。


 一方、昨年は原油、穀物価格の高騰で世界の一部地域で食料危機が起こった。日本が食料の安定供給を確保するためには、米をはじめとした国内農業の食料供給力を構成する農地・農業用水など農業資源、担い手、技術を確保して食料自給力を強化し、結果として食料自給率を向上させることが重要と白書は指摘している。水田フル活用によって米粉や飼料米など米利用の新たな可能性を追求することも必要とした。



 さてこの話とは直接関係ないんですが、なんか最近、食料自給率に騙されるなとかいうような本が出たようです。
 読んでないので内容はわかりませんが、しかし、食料自給率をカロリーベースではなく金額ベースで計算すれば現在の日本でも数字はそれなりであり、40%云々というのは欺瞞だ、という話は以前からあります。果たしてそうでしょうか。


 いきなり医療系の話をしますが、日本の医療費(GDP比)はOECD諸国中最低ランクだという話があります。先日発表されたHealth Data 2009にもあります。
http://www.oecd.org/document/16/0,3343,en_2649_33929_2085200_1_1_1_1,00.html
 ただしこの数字はあくまで指標であって、よそと比べるためには便利な数字ではありますが、実際に予算を取る仕事をしている人たちにとってさほど意味のある数字ではないのではと思います。
 具体的には、例えば医療費の目標はOECD加盟30カ国の平均値を目指す、とするべきではありません。日本国としてどういう医療体制が必要で、そのためにはいかなる人員・機材・システムが必要で、そしてそれを実現するにはいくらの予算が必要なのかという観点から決められるべきで、「OECD諸国中最低ランクだから日本の医療費は足りてない」という批判は細かく言えば的外れです。
 だいたいが、OECD最低がそんなに悪いなら、ではOECD諸国中最高の医療費を誇るアメリカの医療制度がそんなに素晴らしいかというと、決してそうではないことからも明らかです。


 ・・・という脱線をしましたが、食料自給率だってしょせん指標でしょう。計算方法を変えて、実は70%くらいあるよ~と言っても、それが何?みたいなものです。食料自給率に騙されるなというのは良いですが、実は意外と高いんだぞ、と言うのは実際にはそれでもまだ「食料自給率」に騙されているのではないでしょうか。見た目の数字がいくら高くなっても、農業問題が何か解決するわけでは、決してありません。


 今一番危惧するべきは、5年後の食糧自給力です。食糧自給力の今後の予測みたいなものを作るのかどうか知りませんが、もし作るとしたら、おそらく急カーブを描いて下落する図になります。今現在の食料自給率を数字合わせで高くしてみても、それの5年後を見ればきっと恐ろしい数字が出ていることでしょう。