安井至先生は、環境問題についての発言に関しては相当有名な方で、特にウェブページ「市民のための環境学ガイド」http://www.yasuienv.net/ には1997年からログがあり、もしかしたら環境問題に限らず全てのウェブページの中でも最古参に位置するかもしれません。
 そんな「環境学ガイド」から、現在の新型インフルエンザに関する記事。


新型インフルエンザ5   05.06.2009
http://www.yasuienv.net/NewFlu5.htm


発熱患者の診察拒否が続出
 全く理解できないことが起きている。海外渡航歴がない人まで診察拒否をする医療機関が続出しているらしく、都に92件の苦情があったとのこと。
 病院側の当直職員らが、すべての発熱患者は「相談センター対応」と誤解しているケースが多いと見られるとのことだが、発熱相談センターから一般医療機関での受診を奨められたのに、診察拒否をされたケースもある。



 言っておきますがこれは一部の抜粋で、全体的には(こういう言い方は非常に失礼ですが)まともな内容ばかりだと思います。が、この部分はなんとなく、新聞などの報道をそのまま鵜呑みにしてしまったような、らしからぬ箇所かと思います。
 こういうのを見ると、医療問題への理解はまだまだなんだなあとか、それ以前にマスコミによる刷り込みは本当に根が深いなあと思ってしまったりもします。


 つまり、医療機関による診療拒否があったとして普通は、ではなぜ診療拒否なんてするんだという理由を考えると思うんです。で、件の新聞記事ですが、



発熱患者の診察拒否続出…過剰反応?都に苦情92件
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20090505-OYT1T00661.htm


 海外渡航歴がなく、新型インフルエンザ感染の可能性の低い発熱患者が、医療機関から診察を拒否されるケースが相次いでいる。


 東京都の場合、2日から5日正午までの間に「きちんと対応してくれない」との苦情が92件あった。「成田空港で働いているだけで発熱相談センターに連絡するよう求められた」「国内の観光地に出かけ、外国人観光客が多かったと言ったら、診察してもらえなかった」――など。相談センターから疑いなしとされたのに、拒否されたケースも数件あったという。


 政府の方針では、新型の確認された国からの帰国者が高熱などを発症した場合、自治体の発熱相談センターに電話で相談し、指定された発熱外来で受診することになっている。ところが、病院の当直職員らが発熱患者はすべて「相談センター対応」と誤解しているケースが多いとみられ、都は「診察拒否が広がれば、患者が海外渡航歴などを正しく申告しなくなる恐れがある」と懸念を深めている。


 横浜市や大阪市の発熱相談センターにも、苦情や相談がそれぞれ数件ほど寄せられている。横浜市健康安全課は5日、医師会や病院協会に診察拒否をしないよう文書で要請した。厚生労働省結核感染症課は「相談センターが『疑いなし』とした患者の診療を拒否するのは問題」としている。


(2009年5月5日23時54分 読売新聞)



 ほかにも巷では毎日変態新聞の記事が話題ですが、



新型インフル:東京の病院、過剰反応 発熱患者の診察拒否
http://mainichi.jp/select/today/news/20090505k0000m040115000c.html

2009年5月5日 2時30分 更新:5月5日 13時41分


 新型インフルエンザへの警戒が強まる中、東京都内の病院で、発熱などの症状がある患者が診察を拒否される例が相次いでいることが分かった。都によると、2日朝~4日朝だけで計63件に上る。新型への感染を恐れたためとみられるが、感染者が出た国への渡航歴などがない患者ばかりで、診察拒否は医師法違反の可能性がある。大学病院が拒否したケースもあり、過剰反応する医療機関の姿勢が問われそうだ


 患者から都に寄せられた相談・苦情によると、診察拒否のパターンは(1)患者が発熱しているというだけで診察しない(2)感染者が出ていない国から帰国して発熱したのに診察しない(3)自治体の発熱相談センターに「新型インフルエンザではないから一般病院へ」と言われたのに診察しない--の三つという。


 拒否の理由について都は「万一、新型インフルエンザだった場合を恐れているのでは」と推測する。拒否されたため、都が区などと調整して診療できる病院を紹介した例も複数あった。「保健所の診断結果を持参して」と患者に求めた病院や、成田空港に勤務しているとの理由で拒否した例もあった。友人に外国人がいるというだけで拒否された患者もいたという。


 国や自治体は、熱があって、最近メキシコや米国など感染が広がっている国への渡航歴があるといった、新型インフルエンザが疑われる患者には、まず自治体の発熱相談センターに連絡するよう求めている。一般の病院を受診して感染を拡大させることを防ぐためだ。だが、単に熱があるだけなどの患者は、その対象ではない。


 都感染症対策課の大井洋課長は「診察を拒否する病院が増えれば、『症状を正直に申告しないほうがいい』という風潮が広まるおそれがある」と懸念している。【江畑佳明】



 医療機関が患者を受け入れない理由について、変態の記事が


 拒否の理由について都は「万一、新型インフルエンザだった場合を恐れているのでは」と推測する。


 と、誰が推測しているかは分かりませんが、それにしても意味不明な内容をわずかに載せているだけです。読売の方は理由など全く触れていません。


 ・・・で、実は彼らにとって理由などどうでもいいのです。というのはつまり、こういう批判にあるのは、いかなる理由であっても診療拒否など言語道断であると言う前提があり、どんな理由が出てきてもそれは自動的に却下されるものに過ぎないのです。なので考えるだけ無駄だから、最初から考えもしない。


 単純に、変態が上げた推測ですが、「万一、新型インフルエンザだった場合を恐れているのでは」と言う文章には、誰がと言う主語がありません。おそらくは「医師が」と思わせ、インフルにかかりたくないワガママ医師の存在を演出しているのでしょう。
 ですがこれはそれほど正当化できない理由でしょうか。もし医師が新型インフルエンザに感染したら、その後その医師の診察を受ける全ての患者(もちろん体調が悪い人たち)をインフルエンザウイルスが襲うことになります。外来の患者だけではなく入院患者もいます。で、だから診療拒否すると言う単純な話ではなく、だからちゃんとした対応が出来る施設を受診してもらうべきなのです。


 そもそも診療拒否した病院とはどういう病院なのでしょうか。すべて、発熱外来における事例なのでしょうか。一般の発熱外来の無い病院や産婦人科、眼科、歯科などの事例も含まれていませんか。そういうところでは当然受け入れられません。
 今回、タミフルやリレンザといった薬は発熱外来にだけ卸され、それ以外の医療機関には回さないという措置も取られています。そういうところでは在庫が無ければ、新型ではない普通のインフルエンザにも対応できません。というか、対応したとしても「水分と滋養をしっかりとって安静にしていてください」と言うだけです。
 で、本来日本では現在、例年のインフルエンザはもう収束している時期です。タミフルなどの備蓄はちょうど切れ始める頃です。


 そして大前提として、かの期間はGWです。スタッフは元々手薄です。一般の病院に、大量の疑い患者を裁く人的資源は元々ありません。
 非常事態に何を言ってるんだ!と言う人もいるんでしょうが時間外や休日手当てを出すための資金が国から出ているわけでもありません。そういうことを言うと追加で、なんだ金を惜しんでるのか!とか言われそうですがこの場合カネを惜しんでいるのはむしろ政府の方です。人件費もそうですが、マスクや防護服だってタダではありません。政府は緊急予算を一切、考えもしていません。


 そして情報です。マスコミは、正しい情報を広報したと自信を持って言えるか。いきなりかかりつけの一般病院に行っても断られるに決まっているし、そもそもそういう患者は発熱外来のある病院に回さないといけないことになっている。発熱相談センターに相談したにもかかわらず断られた患者さんもいたらしいが、「相談した」と口で言っているだけではダメです。


 などと、ざっと考えるだけでも色々な理由はあるし、全てが取るに足らないものだとは私には思えません。それだけの事情を考えもせず無視して、クソ忙しい病院に電話取材して意味の無い調査をしたり、感染者本人が帰ってきてもいない実家付近に展開して無用に不安を煽るようなマネをしているマスコミ様たちは本当のところパンデミックというものをどうとらえているのか。
 ちゃんとした理解を広めないと、次のインフルエンザこそは本番ですよ。