お昼のワイドショーで、アメリカにて顔面移植手術を受けた女性のことを取り上げていました。なんかすごい手術になったそうで。


http://jp.reuters.com/article/oddlyEnoughNews/idJPJAPAN-37867820090507
米国初の顔面移植、手術受けた女性が記者会見


 その内容自体は割りとどうでもいいんですが、ワイドショーではコメンテーターたちが口々に、医学の進歩は素晴らしいとかこの女性は前向きですごいとか述べておられました。私も、医学が進歩すること自体は良いことだと思います。
 が、それだけでいいのか。


 以前、医学と医療と医業の距離 と言うエントリを書きましたが、そこでは学問としての医学と、それを現実的な条件の上で実施する医業とを分けて考えてはどうかとしました。
 医学とは実地で行われてこそのものと言う側面があり(学問はほとんどそうですが)、畳水練が役に立つのは限定的です。で、医学が進歩するならその医学を実現するための医療体制も整える必要があります
 ある意味、いかなる精鋭部隊・最新鋭兵器でも兵站が整っていないと機能できない戦争に似ています。というかほぼ同じですね。


 が、そちらの方はどうなっているかと言うと、まさにそこが崩壊しようとしているのが現状です。今の新インフルエンザ騒動が鮮やかに映し出していますが、このインフルエンザに対して日本の医療体制はほとんど対応し切れていません。
 医療体制は、とわざわざ言ったのはつまり、医療機関が対応できていないのではないからです。もっとも医療機関のほうも対応できていないのは間違いないのですが、それはほとんど厚労省の無茶な指示によるものです。厚生労働省は今、とにかく全ての医療機関で万全の対応をしろと指示しているだけで、カネも出さず出すそぶりも見せず(厚生労働省健康局結核感染症課は「発熱外来の整備は都道府県の役割であり、国としての補助等は現時点では考えていない」と発言)、いわゆる官僚的な対応に終始して緊急事態には全く対応できないことを全力で示し続けています。


 医学的な面で言うと、今回の新インフルエンザについては特に難しい課題ではありません。見極めるのは重要でしょうが、弱毒性でもあり、タミフルやリレンザも効果はあり、それらが無いとしても水分や栄養素を充分摂ってたっぷり休めばそれだけで治るようなものです。
 ただ、そういうことが行える体制を作るまでが医療であり医業です。いくらタミフルを使えば治ると言ってもタミフルが無ければ意味はありません。発熱外来を作れと言っても、発熱外来を運用するスタッフがいなければしょうがなく、当然予想できることですが発熱外来を受け持つ医師は通常よりリスキーで、しかもこの混乱期ですから患者の数自体も多く見込まれます。医学的には処置できると言っても、特別なインセンティブが無い限り発熱外来など機能しないことは明白です。


 話がだいぶ逸れていますが、つまりマスコミは医学が進歩しているなどとそれだけを喜んでいても全くしょうがないのです。今のインフルエンザ騒動なら、10年前の医学でも対応できるのではないでしょうか。問題は医業が成り立っているかです。


 顔面移植の手術が出来るようになったのはすごいですが、アメリカで行うこれはいったいいくらかかるのでしょうか。ワイドショーではコメンターの一人がそういうことを言いましたが、あっという間に流されていました。たぶん単発で千万単位は行っているでしょう。これ以外の全ての整形手術も合わせれば億に手が届くかもしれません。


 医学など意味が無いとは言いません。医学の進歩だってもちろん重要ですが、医療は医学だけで成り立っているわけではない。