自給率向上は重要だとか必須課題だとかよく言われますし、農水省は目標45%などと掛け声を上げていますが、今の日本が持っているポテンシャルを最大限生かした場合にどの程度の自給率が達成可能でしょうか。
 ここで最初に言っておくと、現在の日本にいる1次産業従事者のポテンシャルはすでにほぼ最大限発揮されていると見てよく、要するに制度改革がどうとかの小手先の対策では自給率向上などおよそ望めません。


 食料自給率向上に当たって、農業関係者や食品関係者が努力するだけでは、ドラスティックな自給率向上は絶対不可能です。45%などではなく、例えば60%程度を目標とするときに絶対必要なのは食生活の変化です。
 食料自給率39%とか言うのは国全体の数字ですから、個人一人一人を見ると国産のものをかなりたくさん食べている人もいますし、逆に食べ物のほぼ全てが外国産と言う人もいます。例えばファストフードやコンビニ弁当、カップラーメンなどが中心の一人暮らし学生にありがちな食生活において、国産の食品はほとんど存在しません。先日、食生活において中食の割合が増えていると言うエントリを上げましたが(食費支出の推移http://ameblo.jp/vin/entry-10219328545.html )、お惣菜なんかも海外産の材料の割合がかなり多いです。
 そういう意味において、食育は自給率向上に役立つと言うことが出来ます。


 しかし食育を理想的に活用して、国産の食べ物の需要を一気に増やしたとしても供給側はそれに対応できません。何十年も前から余っている余っていると言われ続ける米ですら自給率は100%を越えてはいず(もっとも、減反してますが)、国民全員が毎日おにぎりを一つ追加で食べるようになるだけで米は完全に足りなくなります。
 そもそも日本と言うのは山がちの国で、しかも農業に向いた水利が良好な平野部は圧倒的な人口密度で埋め尽くされていますから、もともとこの国で農業をやるのは効率的なことではありません。もし仮に現在の農業従事者がいきなり3倍に増え、減反や遊休農地も完全に解消されたとしたらどれくらいの自給率が見込めるのでしょうか。案外と大した事ない気がします。50%行くか行かないか程度じゃないかなあ。


 話は変わりますが、自給率を1%上げるには琵琶湖と同じ面積の麦畑が必要と言われています。この話のポイントは面積ともう一つ、日本で自給率を上げるなら麦を作らなくてはいけないと言うことです。正しくは麦・大豆・トウモロコシですが、これらを日本で作るのは価格面でほとんど太刀打ちできません。
 で、今推進している加工用米の増産計画は米を麦の代わりとして、飼料や麺やパンにすりゃいいじゃないかと言うものですが、それを本格的にやろうとすると必ず、やっぱり価格が障壁となって失敗するでしょう。畜産農家にとっては麦で無く米を使うのは技術的にはできますが、その時はやはり価格が麦並みの米でないと転換するメリットに薄いです。
 今、農水省はそんな加工用米を作る農家に対して補助金をかなり手厚く出していますが(10aあたり8万円ほどになるらしい)、これが永劫続くなどとはいくらバカな農家でも誰も思っていませんし、むしろ来年にはなくなるんじゃないかと思うので、それなりの手立てを講じないとそんな口車に乗るわけには行きません。それにだいたい、激安米としては中国やタイなどに目を向ければいくらでもありますから、日本はわざわざ自分の首を絞めなくてもいいじゃないかと思います。


 んで、それならそれでいっそのこと、日本人が海外で農業をやればいいじゃないかと言うのが私の考えです。先日来ことあるごとに、農業は土地ではなく人がやるものだ、と書いていますがそれを拡大解釈すると必然的にそうなります。
 例えば非常に評判の悪い中国産の農産物ですが、実際には日本に輸入されるものに関しては商社が現地で非常に細かく指導し、もちろん肥料や農薬の使い方などもちゃんと守らせ、トレーサビリティの徹底に関しては日本以上という部分があります。先日からいくつか起きている中国製食品による事件は全て加工食品によって起こされていて、中国産の農産物の問題ではないことに注意すべきです。
 もちろん中国が嫌ならアメリカやタイなどでもいいし、オーストラリアやタスマニアは季節が逆という特性を活かせば非常に面白いことが出来ます。エイプリルフールネタに使ったフライングワインメーカーと同じことです。


 という、「メイドインチャイナ・バイジャパン」という手法を以前、よそで提案したら一笑に付されたことがあります。外国で作るのは食糧安保という考え方からすれば本末転倒だ、特に中国なんか、国外持ち出しに制限でもかけてきたらどうするという感じでしたが、確かに先日、中国は中国国内で生産する海外メーカーの製品の制御用ソースを全公開しろなどと言って全世界から総スカンを食らったような国ですが、逆にこの事例が示すように、メイドインチャイナ・バイジャパンなどという手法は自動車や家電の世界ではもうとっくの昔から行われている方法です。

 だいたい食料の持ち出し制限がかかるような事態って、それを避けることが外交でしょう。いやそんな楽観的なことばかり考えていてもしょうがないよと言われそうですが、それならそれでももし本当に制限がかかるような事になったとしたら食料以外のものも止まるでしょう。石油など言うに及ばず、農業特有の事情であれば3大肥料分のうちチッソ以外のリン、カリウムはすでに国産ではほとんど賄えていません。食生活以前に、すでに農業自体が海外の存在を前提に成り立っているのです。


 日本人が海外で作った農産物は国産農産物とは言えないでしょうか。まあ、法的には言えません(日本国産ワインは、海外産のブドウを国内で醸造してるものが多いが・・・)。けど、そうと言う屁理屈はいくつかあるように感じます。
 未来の食糧自給はきっとこんな形になるんじゃないだろうかと勝手に想像しています。


 微熱の状態でものを書くと全然まとまらん(笑)あ、新フルではないですよ。