オーストラリアやニュージーランドなど、南半球で先進的なワイン醸造技術を持つ醸造家が、自分達のワイン用のブドウの収穫及び醸造などが一段落して農閑期になった時期、北欧のグルジアなどに出向き北半球との季節差を利用して季節外収入を得る、いわば出稼ぎ醸造家のような人たちをフライング・ワインメーカーと呼ぶ。
 先端の醸造技術を駆使してワイン新興国での品質向上に努め自らも収入の機会とするため、醸造家自身も受け入れる側にもメリットがある試みとされていたが、近年思わぬ影響が出始めていることが、フランス農務省の調べで分かった。


 ロマネ・コンティの畑で初めて剪定はさみを握ってから40年を過ごしてきた、イジドール・バーネット(56)が感じた違和感から全ては始まった。
 この時期、この季節にしてはやけに日照が少ない。そう思いふと空を見上げると、そこには信じられないものがあった。オーストラリア屈指のフライング・ワインメーカーとして有名なアラン・デュパイエが、少しでも優れたワイン作りを目指して最高のテロワールを求め、ついにロマネ・コンティの上空でのブドウ作りにたどり着いたのだ。アランは後日、「これこそフライング・ワインメーカーである自分にしか出来ないワイン作りだろう。この瞬間、テロワールは大地の呪縛から解き放たれた」と回想している。


 この時から、南半球の全てのフライング・ワインメーカーたちはフランスの上空を乱舞した。メドックの上空はぶどうのつるで覆われ、ブルゴーニュでもグラン・クリュの畑の上空は3層にも重なってぶどうが作られることになった。
 もちろんフランスのワイン生産者達は激怒し、ただちに日照権、土地の上空使用権に関する訴えを起こした。が、しょせん上空使用権では、高高度に逃げられては打つ手がなくなってしまう。このためシャトー・ムートン・ロートシルトを所有するロートシルト男爵家などは、エール・フランスの国際線パイロットと会談を持ったとも噂された。


 フランス農務省は有識者による会合を開き、事実関係を調査の後、南半球のフライング・ワインメーカーたちに活動の自粛を呼びかけることで意見の一致を見たが、ある有識者からは「収穫期に雨が多く降った時などは、フライング・ワインメーカーに出張を依頼して雨避けのテントを張ってもらえばどうか」など、積極的に利用していこうとする意見もわずかながら見られた。


 また、このフランスでの動きを受けてオーストラリア政府は、ペンフォールドの畑の上空にはすでに防鳥ネットを張り巡らしたと発表した。


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