日経ビジネスオンラインの記事です。


「兼業農家」が日本を滅ぼす
減反政策は諸悪の根源、コメを作って米価を下げよ
http://business.nikkeibp.co.jp/article/manage/20090218/186539/?P=1
 インタビューのお相手は元農水官僚の山下一仁氏。


 ・・・で、かなり長いんで全文引用はしませんが、全体的にどう読んでも、タイトルは「『農協』が日本を滅ぼす」にすべきです。農協が成立するための条件に、兼業農家がかなり大きな割合を占めているのは確かだと思いますが、それにしても文章の内容はほとんど農政批判と農協批判であり、しかも農政批判は細かく言うと「農協向けの農政」批判ですから、全ての元凶は農協であるとの構成になっています。
 ただ、この手の記事のタイトルは記者がつけることが往々にあるらしく、山下氏はタイトルには関与していない可能性はあります。そして編集部として、農協のような組織を敵に回すのはよくないと判断したのでしょうか。まっそう決め付けることはもちろんできませんが、農協の存在がわけのわからん怪物的なものになっちゃってて気持ち悪いなあと思うことはあります。


 で、農協改革をすべきだと言う意見は賛成ですが、各論を見るとどうもなーと思う箇所はあります。



 ―― コメの生産を抑制する減反政策。ようやく政府内でも見直しも含めた議論が始まりました。この減反政策がどれだけ政策として不合理なのか。その点からお聞かせください。


 山下 生産調整でコメの生産を抑制し、高米価を維持する――。これは、一言で言えば供給制限カルテル。ほかの産業であれば、独占禁止法の対象になる行為でしょう。「減反政策はカルテルである」。この点を、最初に強調しておきます。


「減反政策はカルテルである」


 このカルテルで最も得をするのはカルテルを破るアウトサイダーです。カルテルを破って、カルテルで維持された高米価でコメを生産すれば間違いなく儲かる。だから、生産者をカルテルに参加させるための何かのインセンティブが必要になります。そのインセンティブが年間2000億円、累計で7兆円に上る補助金でした。


 この7兆円に上る補助金を負担しているのは誰でしょうか。言うまでもありませんが、私たち国民です。しかも、この高米価を維持するために、この国は輸入米に対して高い関税を課している。その代償として、ミニマムアクセスを設定し、一定の輸入米を購入している。



 以前から有識者?の方々は米価に対して、国の補助金政策のおかげで高止まりしているとおっしゃっていました。以前からずーっと。で、それが年間2000億円、累計(30年あまり)で7兆円もの額ですと。それを負担しているのが国民なのです!!
 ・・・公共事業費は単年で50兆円くらいありますけどね。農業は国の根幹である!って言葉が空しくなりますな。
 まあこれはグチです。


 で、山下氏は減反政策をやめて米価を下げよと言います。ただ、



山下 今の日本では東京都の1.8倍に当たる39万ヘクタールの耕作放棄が生じています。減反を強化しているにもかかわらず、この10年でコメの値段が60キロ当たり2万円から1万4000円に下落しました。農業経営が厳しくなるにつれて、農地を貸したいと思う零細農家も増え始めています。


 ところが、コメ価格は長期低落傾向にあり、次の収穫期にコメ価格がさらに下落する可能性もある。そのリスクを感じているため、主業農家も思い切って農地の拡大に踏み切れない。その結果、農地が引き取られず、耕作放棄が広がっている。


 この状況を解消するには、減反政策をやめるしかない。減反政策を段階的に廃止し、コメを自由に作らせる。もちろん、コメ価格は下落するでしょう。私の計算では、減反政策をやめると、コメ価格は60キロ当たり約9500円に下がる。この価格下落で影響を受ける下落分を直接、農家に支払えばいい



 と、先日私が書いたように、下落分を直接農家に支払えと言っており、そこは同意です。ただ、



 山下 ポイントは主業農家にだけ支払うことです。コメの流通量700万トンのうち主業農家のシェアは約4割。この主業農家に、今の米価1万4000円と9500円の差額の80%程度を補填した場合、かかる費用は約1700億円になります。これは、生産調整のために農家に支払っている補助金と変わりません。



 なんで差額の80%・・・しかも14000円との差額。計算ではこの場合、農家の売り上げは1俵当たり13100円になります。


 この手のことを言う「有識者」が本当に多いので、最近の私は自分の感覚を疑ってしまうこともよくあるんですが、現状の米価は米を専門的に作る主業農家の原価でも赤字なほど安い(はず)です。
 コラムの中で山下氏は、小規模で高コストになってしまう兼業農家が存在するために米価が安くならないのだ、と言っていますがそれは10年前の話でしょう。私に言わせれば、よそで収入があるぶん兼業農家のほうが安く米を作れます。

 というか、JAの提示する14000円とかいう価格に黙って付き合えるのは、米で少々赤字が出たって規模的にどうってことない兼業農家だからであって、米を専業で扱う農家ではむしろ無理な数字です。兼業農家は利益ゼロでも農業ができますが専業農家は利益を上乗せしないと存続できません。専業農家のJA離れが進んでいるのはそういうことです。基準を取るなら、14000円ではなくせめて農水省で公表している米60キロあたりの原価である約17000円にして欲しいです。


 いや、やろうと思えば1万円の米は出来なくはありませんが、恵まれた条件が必要になります。主業農家による大規模経営とは、つまり平野部での農業と言うことでして、要は中山間地での農業は滅ぼせと言うことです。
 もちろん、中山間地など見捨てればよいと言う考えも込みで言っているのであれば、少々極端ではありますが一つの見識だと思います。私は中山間地に居住し、専業で米を作っていますので、このような意見には感情的に反発してしまいますが、平野部であらずんば農業にあらずとおっしゃるのはコスト面のみを見るならば全く正しいことです。ただしついでに言うと、平野部で大規模にやるからと言って必ずしも米が安く作れるわけでもなく、まあ品質はそれなりに犠牲になります。


 農協改革をやるべきだと言うのは大賛成です。にしても、これにも書いてありましたが・・・消費者の皆さんにとって、米って本当に高いんですか?それなりに高い米を食べてもお茶碗1杯25円くらいなんですけど。月々の携帯通話料ほど米を食べている人はいないでしょう。
 むしろ米の消費が減った理由は、ご飯を炊くのに時間がかかり面倒くさいから、ってのが一番手だと思ってますが。


koume