食料には国家のインフラとしての性質もあります。そういうとごく当たり前な話のようですが、しかし実際にはこのことはほとんど意識されていないか、あるいは無意識で都合のいいように利用されているに過ぎないと思います。なぜなら、インフラとして重要だと言われているワリには言うほどの扱いもされていないし、すごい我が侭を言われることもザラにあるからです。


 で、農業ですがそのインフラを支えるためにやってるかというと、個々の農家や農業法人レベルではたぶんそんなことを考えている人はいません。みんな、自分の生活のためにやっています。
 とかいうと儲け第一主義かとか脊髄反射する人がたまにいるそうなのですが、当たり前ですが儲けるためにもっとも大事なことは顧客に充分満足していただくことです。詐欺的商売では一瞬儲かるかもしれませんが一瞬です。儲け第一主義と顧客第一主義は必ずしも矛盾しません


 話が逸れましたが、政府がよく言う食料自給率向上云々と言うのは明らかにインフラとしての農業を主眼においています。米ではなく麦や大豆を作らせようと言うのも同じです。インフラとして食料を作らせるならば、そういう考えになるのは当然のことです。
 が、それはあくまで「やらせる」事であり、本来、そんなことに個々人の農家が付き合う言われはありません。


 例えば、政府が「失業者が増えたら困るから、トヨタは国内の正規雇用を1万人増やせ」と言っても聞くわけがないでしょう。この手の失業云々について言いたいことはいくらでもありますが(去年まで何十年もずっと黒字だったのに、1年赤だっただけでなんでいきなり人を切る必要があるんじゃ、史上最高益を上げた去年の儲けはいったいどこ行ったんじゃ、みたいな)、それでもまあお金を出すのはトヨタの方なんで、それだけ考えるなら「は?国の都合で人雇えって言うなら、国からカネ出せよ、それなら考えるわ」とか言う流れは自然なことです。


 そういう意味で、食料自給率のために農村振興!とかいうならば政府はまず金を出せ、となるんです。
 我々農家は、個人の責任でもって、売れそうな作物や品質を目標に掲げて農業を行っています。それに対して、米が余ってるからとか麦が足りないからとかの(自分にはどうでもいい)理由で経営内容の押し付けをしてくるなら、お金ですよ。もっともお金が出てると言えば出てるんですが、出す条件がえらく厳しい上に、お得意のハシゴ外しも当然のようにありますからね。


 極端なことを言えば、米が余ってるから作るなと言われても、自分ちの米が完売するだけの販路と品質があれば問題なく作るんですよ。よその米なんかいくら余ろうが正直どうでもいい。
 ただもちろん、そんな勝手なことばかりやってたらいろいろなところから干されるから、そこまで正直になる人もあまりいませんが、実はそのあたりがよその業界の人から見れば「甘いなー」と言われる部分じゃないかと思うこともあります。


 インフラとしての農業を推進する時、個々の農家の自主性に期待するのは間違っていると思いますが(医療再生のために医師を精神論で働かせようと言うのに近い)、農業政策はそこがずっと混同されたままだと思います。


 ただしインフラとして大事なのは、厳密に言えば食料であって農業ではありません。なので食料さえ安定供給できるなら農業を切り捨てても(極論ですが)問題はなく、財政諮問会議などの連中の考えは実際そっちの方にありそうです。

 そこまで割り切るなら割り切るでも、やっぱり個々の農家は勝手にやるだけなので関係ないっちゃないんですが、少なくともはっきりはして欲しいと思いますね。今、本気で農業に力を入れる気があるのかどうかさっぱり分からない。


koume