非正規雇用者の大量な契約打ち切り(解雇と言うと話が違うと思う)に関連して、農業分野に職がありますよと紹介するニュースをいくつか目にしました。
 まあ人を雇う余裕がある農業法人があれば、それはそれでいいと思います。が、新たな独立農家を仕立てようという意図なら、寝言は寝て言えという程度の話です。農産物の価格低迷で売り上げ・利益が期待しにくいことはまださておいても、農業と言うのは案外と参入の敷居が高い職業です。土地の借り入れは何とかなるとして、農業機械や資材は借金できる制度があるとして(それでも自己負担がかなりいるが)、それでも着手から入金までにかなりのタイムラグがある・・・要するにイニシャル・ランニングそれぞれにけっこうまとまった資金が必要なのが農業です。起業しろとか、店を出せと言うのと変わりませんからね。現在の(元)非正規雇用者が農業分野に就業するなら農業法人に行くしかありませんが、全国規模でみてもそれほど有望な受け入れ先にはなりえません。

 まあ、農業人口は少ないしその上、絶対数だけではなく世代の分布を見ても農業業界は(特に若年の)人手不足と言っていいと思うので、あぶれた人がいるなら農業業界に引き入れたいと自治体などが思うのは理解できます。


 ところで人手不足にあえいでいる業界なんてほかにいくらでもあるんですが、じゃあ何でそっちへ人材がスムーズに流れるような仕組みを作ろうとしないんでしょうか。
 なんて疑問形で書いても白々しいのは、理由がはっきりしているから・・・要は金が無いからですが、根本的に日本ではヒトにお金を使うと言う発想が無さ過ぎる。建物や道路には簡単につく予算が、なぜヒトにはつかないのかといつも思います。


 公立校の1クラスあたりの生徒を半分にして、その分クラス数を2倍にして教師の数を2倍にしてみたらどうでしょうか。それだけですごい雇用です。この場合は新しい校舎も必要になるので、みんな大好きな建築・土木の需要にもなります。こんな話は10年以上前からあります。
 介護報酬を根本的に見直して(もちろんアップして)、これからうなぎのぼりの需要が見込める介護士を増やしたらどうでしょうか。介護分野は重要だと言い出してからかなり長い年月がたっていますが、現場ではそれと真逆なことをしでかしたおかげでもうほぼ壊滅状態です。
 以前のエントリで、現在の医師が受け持っている、医師でなくともできる書類仕事や雑用を引き剥がして、他の人にやらせれば、医師を増やさなくても医師不足の緩和ができるんじゃないかと書いたことがありますが、そんな医療事務員(もちろんやってる病院もすでにありますが)は相当の需要があると思います。


 これらは、行うならば無駄な高規格道路を作るよりはるかに実際の役に立つことばかりです。
 しかも、民間企業向けに雇用対策でお金を出したり規制を設けようとすると、必ず不公平が出ますが、上に書いたようなことはモロに国家でできること、というか国にしか出来ないことばかりで、どこにも不公平など生みません。
 が、ヒトにはお金を出せない日本ではなぜか通らない話です。だいたいこんなのは奇抜なアイデアでもなんでもなく、誰でも思いつく程度のことですが、なのにこうなる気配すら感じさせていないあたりが証拠です。


 医師や介護士や百姓が魅力的な職業なら黙ってても人は来るはずですが、そうではないから人手不足で困っています。もちろん、ほかにもそういう職業はたくさんあることと思います。本当の本当に求職者が雪崩を打って存在するなら、人手不足の現場など存在しないはずだ・・・とか言っちゃうのは単純すぎますが、対策を考える際にこれらを繋げないってのはありえない。


 ところで自動車期間工ってのはそれほどに魅力的な職業なのでしょうか。もしも今契約解除された人々が理想的に次の職にありついたとしたら、大企業では後日ものすごい人手不足になったりしないんだろうか。というかなるだろうけど、もしかしたら、企業としては再就職の斡旋なんかうまくいかないことを願っていたりして。


koume