この件はそろそろ、結果待ちの状態かと思います。日本・中国問わず政府にしても関係各機関にしても後は調査を進めて結果を出すだけでしょう。日本国内においては衛生関係の法律を一本化するとか各省庁の連携を強化するとかの対策を打ち出していますが、言ってるだけという臭いがします。法律に関しては確かにJAS法や食品衛生法、景品表示法などが入り乱れているのは確かですが、「一本化する」と言ってもその結果はたぶん、新しい関係法がまた一つ増えるだけ、に終わりそうな予感がします。


 メディアの取り上げ方は、分かっていないことそのものが分かっていないという状態がずーっと続いていました。もっともそれは、いつものことですが。
 伝えるべき情報は何か、急所を突く情報はどこにあるか、などが取捨選択できていない。つまるところ、各マスコミに農薬や毒性学に詳しい人が誰もおらず、しかもどこにアクセスすればそれらの専門家に当たれるかも分かっていないのが明らかで、なお悪いことに本人たちは充分に分かっているつもりなのが残念でした。もちろん例外の報道もありましたけどね。


 情報の出揃っていない報道に対しては、憶測が流布します。それはあまり気味のいいものではないと思うので、私自身は、例えばメタミドホスがどこでどのように混入したとかの話はほとんどしていないのですが、割と初期からある説に、皮を作る小麦粉に混ざったとか、打ち粉と間違えて使ったと言うものがあります。これについても否定はしていませんが支持する気にもなれません。なぜ支持できないか。
 実は小麦粉説や打ち粉説が成り立つためには、メタミドホスの製剤が白い粉状のものである、と言う前提が必要です。果たしてメタミドホス製剤は粉剤だったのでしょうか?私は知りません。普通の薬でも粉薬やカプセル、錠剤などありますが殺虫剤も同じ成分でも形はいかようにも変わり、他にも液剤や乳剤、粒剤などがあります。
 wikipediaには、液剤や粒剤として流通することが多かったと記述がありますが(wikipediaを軽々しく信用するのもどうかと思いますが)、仮に液剤や粒剤だったとしたら打ち粉と間違えることはありえません。日本で流通するオルトランはほとんど水和剤か粒剤のようです。


 こんなことを疑問に思って、中国でのメタミドホスがどのような形態で流通していたのか調べると有益だったと思います。報道すれば、いくつかの説は一発で否定されます。もっとも、そうなると故意混入説が真実味をいや増してしまうので、報道したくない深謀があるのかもしれませんけど。
 その7 で書いたように、「メタミドホスとはあくまで、成分である」との知識があれば、では製品としてはどうなのだろう?と考えることは難しくないと思いますが、そうすると果たして「メタミドホスとは、農薬の一種だ」と一番最初に言ったのはいったい誰なんでしょうか。諸悪の根源のような気がしてきました。


 私が当初から知りたいと思っていて、いまだに分からないのは、入院した女児は結局のところどれほどの量のメタミドホスを摂取したのだろうかと言うことです。
 実際いまだに、食中毒の原因がメタミドホスだったのかすら確定ではないんじゃないかと思います。もちろん、130ppmという残留は異常に多く、放っておける事態ではありませんが、以前書いたように130ppm(餃子100gあたり0.013g)は急性毒性量としては不足しているのではないか?との疑問はぬぐえません。
 また、「○○が検出された、濃度は○ppm」という報道は頻繁に行うくせに、ではそのppmとはどういう意味か、ADIとはなにか、残留基準値とはどのように決まっているかをちゃんと紹介したものが無いために、実際問題それはどれほどの危険性があるのかという判断をまったく抜きにして不安ばかり煽る報道になっています。今回の件は、正しい安全知識を広める絶好のケーススタディになりうる素材だったのですが、まるで悪用の見本みたいになってしまいました。
 たぶん今でも、ppmとは100万分の一だ、と言うことも知らない人がほとんどだと思いますが、それでも「1ppmなんて、大量だ」と感じる人は多いのでしょう。ちなみにhttp://www.fsic.co.jp/fruits/kw/6up.htm が分かりやすいのですが、1ppmとは面積で言うと甲子園球場に落ちているハガキ1枚分程度です。


 きっとこれらは今後も知られること無く事態は進んでいくのでしょう。このままではどうやっても、不安を煽る報道しか出来ません。


koume