その7 で私はこんなことを書いています。


 ppt(=1兆分の1)の検出限界を誇る機器に山ほどのサンプルがかかれば、いかなる成分でも検出しようと思えば出来るに違いない。きっと、ごく微量な成分が量を無視して『検出された』と言う類の馬鹿なニュースだろう


 これはジクロルボスが新たに検出されたとの報を見ての感想で、この時は予想をはずしましたが、しかしこの予想が正しかったと適用できるニュースも出ています。


店内でジクロルボス含む防虫剤使用 とくしま生協



 徳島県の「とくしま生協」(本部・北島町)が回収した中国・天洋食品製造の冷凍ギョーザの包装袋から、有機リン系農薬成分「ジクロルボス」が検出された問題で、徳島県は11日夜、商品を扱っていた店舗でジクロルボスを含む薬剤を防虫に使用していたことがわかった、と発表した。薬剤が飛散して商品に付着した可能性があるという。その後の調べで、新たに5袋の外側からごく微量のジクロルボスが検出され、検出は計12袋になったが、いずれも同じ店の商品とみられ、県は薬剤付着の経緯などを詳しく調べる。



 ごく微量のジクロルボスが新たに検出された、と言うニュースは他でも出ています。しかし各マスコミは、ごく微量と書いていながら、「ごく微量」が実際にはどれほどに微量なのか想像もしていないのでしょう。
 きっととくしま生協の客にも、一連の騒動を受けて気分が悪くなったと訴えた人もいるかと思いますが、いずれにしてもマスコミには、これは果たして取り上げるべきニュースなのかどうかを判断する能力が欠けているとしか思えないものが多いです。「ごく微量の、健康に影響ないジクロルボスが検出された」ニュースなど報道しなくてもいいではないか。


 ところで、ジクロルボスみたいな危ないものを店内で使っているなんて、とくしま生協はなんと酷い店舗運営をしているんだ・・・と感じた人もいないでもないかと思いますが、実際にはジクロルボスを使った一般用殺虫剤はそれほど珍しいものではありません。こちらのページの下の方をご覧ください。
 http://www.mhlw.go.jp/houdou/2004/11/h1102-6.html

 まあギョーザの外袋から見つかったジクロルボスが、本当に店内で使った一般用殺虫剤を起源とするものかどうかも確定ではありませんが、「その疑いがある」と言う記事なのに、それでもジクロルボスを「有機リン系農薬成分」と表現して疑問を抱かない新聞記者というのは何なんでしょうかね。アホとしか言いようが無い。


 そんなアホ記者よりも専門家が書くものの方が興味深く面白いわけで、ここで紹介するのはやっぱりいつものごとくFoodScienceのコラム です。有料(一ヶ月500円)ですが面白いものがいくつもあるので是非お勧めです。今回のギョーザ事件に関しては、齋藤訓之さんの「食の損得感情●ギョーザの内食化が進むのは外食の黄色信号」 も良かったのですが、食品安全情報blog をやっておられる畝山智香子さんの「うねやま研究室●中国ギョーザ事件報道を巡る科学的な不正確」 が特にお勧めです。
 マスコミからは絶対出てこないであろう、メタミドホスやジクロルボスの作用機所や毒性について紹介したコラムです。これらを「サリンと同じ有機リン系」と表現することの愚かしさについても書かれています。内容は専門的で難しいんですけどね。


 最近のこの問題をマスコミが扱う際、テロがどうとかとのセンセーショナルな見出しが目立ちます。が、そんな言葉を扱うのは本当はものすごく危険なのではないか、そんなことを書いてもいいのか、どういう結果を予想して煽っているのか、マスコミにはこれらの視点が決定的に欠けている感じです。これは本来はもっと慎重であるべきニュースです。

 食品衛生の専門家が書く食品衛生の話は面白いのですが、報道の専門家であるはずのマスコミが書くものはどうしてこれほどまでに不正確で、品性下劣なのでしょうか?


koume