帰ってきました。ほとんど運転ばかりしていたような気もしますが、要所は楽しんできました。旭山動物園は、寒かったです。


 私が先日、ジクロルボスが新たに検出されたのを報道ステーションの前振りで見た瞬間に思ったのは、「たぶん冷凍ギョーザは今、あらゆる場所であらゆる緻密な検査が行われているであろう。ppt(=1兆分の1)の検出限界を誇る機器に山ほどのサンプルがかかれば、いかなる成分でも検出しようと思えば出来るに違いない。きっと、ごく微量な成分が量を無視して『検出された』と言う類の馬鹿なニュースだろう」と言うことでしたが、予想に反してジクロルボスも大量であり、しかもその時報道ステーションに出ていた専門家はちゃんとした専門家でした。ちょっと侮りすぎました。


 さて報道ではメタミドホスやジクロルボスについていくつかの表現で扱っています。見ている限りでは3つに分類されるのですが、


1:農薬
2:殺虫剤
3:殺虫剤成分


です。テレビニュースでは比較的「農薬」として扱うことが多く、新聞では「殺虫剤」か「殺虫剤成分」が多いでしょうか。これはどう呼ぶのが正しいのでしょうか。
 正解は殺虫剤成分と表現するのが最も正しく、前々から書いているように農薬とするのは農薬のことを全く分かっていない証みたいな表現です。殺虫剤は両者の中間には当たりますが、これによって広まっている誤解もありそうで、やはり間違いです。


 ところで私は非常に肩こりがひどくてそこから来る頭痛にも悩まされているのですが、鎮痛剤としてエスエス製薬のイブA錠 をよく飲んでいます。これのパッケージを見ると
イブプロフェン 150mg
アリルイソプロピルアセチル尿素 60mg
無水カフェイン 80mg
添加物として、(以下略)
と書かれています。おそらくイブプロフェンと言う成分が鎮痛作用を持ち、イブという商品名の由来にもなったのだろうと思えます。


 さて元の話に戻りますが、農薬は論外として殺虫剤殺虫剤成分との表現の違いは、イブA錠イブプロフェンの違いに相当します。メタミドホスやジクロルボスはあくまでイブプロフェン(成分)に対応するのであって、仮に農薬として使用するとしてもメタミドホス100%をそのままばら撒いているわけではありません。それは中国においてもです。
 殺虫剤成分は必ず、助剤を加えて性質・性能を整えて製品に仕立てたものを殺虫剤として使用します。それを農業の現場で殺虫目的で使用するからこそ農薬と呼ばれるわけです。メタミドホスを農薬と表現することは2重に間違っているといえます。


 話は変わりますが、私たち農家は仕事で農薬を扱っていますので、農薬を使うことにかけてプロと言っていいかと思います。しかしほとんどの農家にとって、メタミドホスやジクロルボスといった名前は初耳であったと思います。日本ではほぼ手に入らないメタミドホスはともかく、ジクロルボスは日本でも手に入るにもかかわらずです。
 なぜかと言うと、農薬メーカーや分析屋さんは農薬を成分名(原体名)で表現しますが、農家は農薬のことを商品名でしか知りません。なので、農家は誰でもラウンドアップという除草剤(おそらく世界で一番売れている農薬)のことは知っていますが、グリホサート(ラウンドアップの有効成分)の名前を聞いてピンと来る農家は多くありません。農薬メーカーの話は農家にとって分かりにくいものであることが多いのですが、その大きな理由はここにあると思っています。私はこの点が農薬業界のひとつの問題点だと思っています。
 今回の餃子から検出されたもので言えば、ジクロルボスでは分かりませんが、DDVPと聞けば分かる農家もいるに違いありません。野次馬的に、ホームセンターの農薬コーナーで、今話題のジクロルボスを探してみようと考えた方は商品が見つからなくて困ったことと思います。


 日本の農薬に比べて中国の農薬は助剤の精度がいまひとつという噂がありますし、メーカーによって助剤に何を使うかの違いもあるでしょうから、こちらの方を調べれば果たして殺虫剤成分がどちら由来のものか分かるかもしれません。もちろん、助剤が見つからずに殺虫剤成分のみが残留していたということになれば、殺虫剤が混入したとか打ち粉と間違えたとか言う説は失せ去り、わざと殺虫剤成分を混入させたテロ行為の可能性が高くなります。成分のみが流通することはどこでもほとんどありえないからです。


 ところでまた話は変わりますが、私は今回の件での被害の「大きさ」に驚いています。メタミドホスでこんなにたくさんの中毒患者が!という意味ではありません。
 今回の件で体調不良を訴えたり保健所に駆け込んだりといった人の数は100人ほどとか、200人とか、400人とかまちまちに言われています。本当に健康被害の出た人数がどれほどかはよく分かりませんし、正確にわかることもないでしょうが、実数で100人前後がいいところではないでしょうか。
 ところでよく思い出してください。TBSが一昨年起こした「ぴーかんバディ!」番組による白インゲン豆ダイエット事件の被害者数は、158人でそのうち入院30人だったのです
 なんと、130ppmという常識ではありえないほど大量な濃度の殺虫剤成分に汚染された食品による健康被害と、被害の大きさ(ハザード)のレベルとしてほぼ同じなのです!メタミドホスによる被害が意外と小さい、とは言いません。すでに忘れられようとしている白インゲン豆ダイエットは実は非常に重大な事件だったのです。TBSは、マスコミ業界は果たして反省しているのでしょうか?昼前にテレビのチャンネルを変えても、どこを見ても胡散臭い健康商材の宣伝ばかりですよ。


koume