あるサンプルから検出されたメタミドホスの濃度が130ppmであったと報道されています。野菜の残留基準値から見て100倍以上(キャベツに対するメタミドホスの残留基準値は1ppm)であるとする報道もありますし、ニュース番組に出た、毒物に詳しいとされるある大学教授(誰かは失念しました(^^;)は「安全とされる値の10倍だから、かなり危険」と言っていました。この数字を検討してみます。

 10倍オーバーして危険かどうかは、基準値がどういう基準で決まっているかによります。
 例えば、プレハブの仮設事務所と原子力発電所では建物強度の基準が全く違います。農薬の残留基準値とは果たしてプレハブ基準なのか原発基準なのか、知る必要があります。
 では実際、いかにして決まっているのでしょうか。

 某教授はメタミドホスの、体重50キロの人に対して安全とされる基準を0.2mgとしました。これはADIという数値を元にしています。メタミドホスのADIは0.004mg/kg/dayです。
 ADIとは一日許容摂取量の事で、簡単に説明すると、産まれてから死ぬまでの一生涯毎日、一日あたりこれだけのメタミドホスを接種しても健康に対して何の影響もない(腹痛や嘔吐はもちろん、身体・内臓機能への影響もなくガンもできず、気分が悪くなったりもなく、とにかく何の影響もない)量の事です。農薬の残留基準値はこのADIを元に決められます。さまざまな野菜にこのADIの値を振り分けて、普通の食生活の中で色々な野菜を食べても、合計のメタミドホス量がADIの7割を越えることがない(3割は安全マージンとして余裕をとってある)計算になっています。残留基準値を元にすると100倍以上、某教授は10倍と言った差はここにあります。

 ところで私は以前のブログ記事から、メタミドホスの中毒量を0.5~1gくらいと言っていました。報道で、致死量を1.5gと出していたので、死にはしないまでも重体に陥ったことと子供だったことを入れて大ざっぱに考えたものですが、130ppm(20gの餃子一つあたり2.6mg)とはかなり差があります。私の見積もりがかなり大ざっぱで多いこともありますが、しかし私は、ADIの10倍はまだ中毒量には足りないのではないか?と考えます。
 つまり、130ppmは確かに大量だけど、まだそれほど危険とはいえない。そもそも上に書いたADIや残留農薬基準値はあくまで慢性毒性に対する基準値で、その数字を元に急性毒性量を論じるのは馬鹿げています。件の教授は本当に毒性学に詳しいのか怪しいものです。
 一般的に、急性毒性量と慢性毒性量には1000倍の差があります。もちろん物質によって差はありますが、慢性毒性量のたった10倍くらいで急性毒性を発揮するものはそうそうないと思うんですがどうでしょうか。

 以上より、今回の130ppmはあくまでサンプルの一つとして扱うべきであって、実際に中毒を引き起こしたものにはもっと大量の残留があったと考えた方がいいと思います。つまり分析・情報収集は130ppmで終了ではありません。この数字を持って食品の非を問うことは出来ますが(異常に大量の残留なのは間違いない)、まだ問題の奥は深いということです。終わった気になると危ない。

koume