以前、NHKの討論番組を取り上げたときにも書いたことですが、番組でゲストに出ていた本間正義が「日本では食文化が多様化し、米はもう主食とは言えなくなったので、生産者も安穏とした意識を転換しなければならない」みたいなことを言っていました。
 基本的に、危機感を持たなければいけないという部分には賛同しますが、米が主食かどうかという部分だけを見るとこれはもう絶対的に、米は主食だし、これからもそうであり続けるのではないかと考えています。というか普通に考えて、主食の座にふさわしい食べ物は米以外にほとんど無いと思います。食文化の多様化により、米の消費量が落ちてきたという話ならその通りですが、それは主食の座が変わったからではなく、単にご飯が食べられなくなっただけでしょう。主食そのものが食べられていないのです。

 もちろん、そのこと自体は問題なのですが、「米が食べられないこと」と「主食が食べられないこと」は微妙に違う問題で、解決方法も違ってくる可能性があります。問題は正確に把握しないと解決に至りません。


 仮に別のものが主食として食べられているとしたら、それはなんでしょうか。例えばパンですが、これはちょっと日本のおかずに合うとは言えないと思います。たとえば鍋食いながらパンを食べたり、刺身にパンを合わせることにはどうにも違和感を感じます。レストランに行ってもパンとは付け合わせ的な存在であって、主食ではないと感じます。


 では麺はどうかとなりますが、これはパンよりもっと主食から遠いものだと思います。麺は普通、スープかソースが無いと食べ物として成り立ちません。焼き肉をおかずにして、茹でただけのうどんをもぐもぐ食う・・・なんてのはちょっと想像しにくいですし、そばやラーメン、スパゲッティなどはそれが単体の料理として成立するもので、おかずとは別にある主食、とは立場が違うと思います。焼きそばなどはむしろおかずに属することもあります。


 麦ご飯や五穀、雑穀などは主食足りえますが、やはりマイナーで、米の座を追うほどの存在ではないと思います。


 実はそもそも、おかずと主食を食べるという形そのものが結構特殊なんじゃないでしょうか。欧米の食事では、パンや豆などはあくまで付け合せであって、日本で言う主食とは遠い存在です。日本においては洋食だって、ご飯と一緒に食べることを念頭において、濃い目の味付けにして、淡白なご飯と合わせるとちょうど良いバランスになるようになっています。


 となると、「ご飯は主食ではない」といってしまうのは、実は和食そのものを否定していることになっちゃってるんじゃないかと感じます。
 というわけで今後の稲作農家の戦略としては、米を守るのではなく、和食文化を守るとしてしまうほうが正しいし、訴えるものも大きいのではないかと思います。


 たまーに回転寿司に行くと、店によってはものすごく独創的なネタが回っていて、人間の想像力には限りが無いなあと感心するところですが、シャリにパンを使っているものは見たことがありません。逆に、ハンバーガーのパンズにご飯を使っているものはあります。そういうあたり、実は米の主食としての強さを表していると感じますね。


 ところで実は、米を主食の座から追い落としている、さまざまなおかずにも合う品が一つだけあります。ビールです。ビールはあらゆるおかずに合うというか、合わせてますからね。うちの親父も、食事はとりあえずビール飲んでからご飯だし(^^;

 これは、「第3のビール」需要でくず米相場にも深い影響を与えていて、実は結構脅威です。発泡酒の原料にくず米を使うようになって、ビール会社に大量のくず米需要が生まれました。おかげで、お煎餅や味噌など、もともとくず米を使っていた業者が調達に困り、今は最初っからそういう用途で使うための原料米を作っている(作らされている)農家もいるくらいで、もちろんくず米並みの激安ぶりです。さらに困ったことに、これら原料米を主食用に流してしまうひどい業者もいて、米の市場価格のダンピングはこういうところにも原因があります。


 もしかしたら稲作農家の真の敵はビール会社なのかもしれません(笑


koume