他所に出す為に書いた文章なのですが、結構時間かかったもんなのでこっちにも流用します。つっても、内容はこれまでにさんざん書いてきた物と同じですが。農薬のおはなしです。

 
 農薬は現代の農業で無くてはならないものであるにもかかわらず、その害やリスクを訴える声はとても大きいものがあります。ここでは毎回少しずつ、農薬の本当のことについてお伝えして行こうと思っています。
 今回は、そもそも農薬とはなんなのか?から始めます。


 農薬がなんなのかは、農薬取締法には以下のように定義されています。
 農薬取締法 第1条の2 この法律において「農薬」とは、農作物(樹木及び農林産物を含む。以下「農作物等」と言う。)を害する菌、線虫、だに、昆虫、ねずみその他の動植物またはウイルス(以下「病害虫」と総称する。)の防除に用いられる殺菌剤、殺虫剤その他の薬剤(その薬剤を原料または材料として使用した資材で当該防除に用いられるもののうち政令で定めるものを含む。)及び農作物等の生理機能の増進または抑制に用いられる成長促進剤、発芽抑制剤その他の薬剤を言う。


 ・・・と難しい話になっていますが、要するに農業の現場で
1:農作物の病気を防ぐ
2:害虫を駆除する
3:雑草を枯らす
4:その他(成長促進や、へた落ち防止など)
 の効果を持つ薬の事を総称して農薬と言うわけです。
 大事なのは、農薬とは農業分野に使うものだけ言うのであって、同じ成分で出来ていても家庭内でハエや蚊やダニを殺す薬だと医薬部外品になり、犬や猫などのペット用の殺ダニ剤なら動物用医薬部外品になり、はたまた医薬品に分類されるものもあります。


 さて農薬は、その害が大げさに宣伝される事はよくありますが、農薬の利点が紹介される事はほとんどありません。そこで今回は農薬の利点を説明します。
 農薬は農業の現場で使われるものですから、基本的に、農家にとってはすごく利益のあるものです。では消費者の皆さんにとってはどうかというと、間接的にですが、以下の点に貢献しています。
1:食文化の充実
2:労働人口の増加
3:自然環境の維持
 たぶん意外に思われる方も多いと思います(特に3)。


 まず1ですが、そもそも今のように生野菜を食べられるようになったのは農薬のおかげといえるかもしれません。
 野菜を生で食べるようになったのはかなり最近の話で、たぶん戦後からの事だと思います。今でも、発展途上国の原住民などの中では、生魚を食べないように、生の野菜を食べる事を野蛮視するところもあります。昔はごく一部を除いて、生で食べていた野菜などありませんでした。何故、昔の人は生で野菜を食べなかったのでしょうか?それは、昔の野菜は生で食べると腹を壊すようなものが多かったからです。
 今でも、ジャガイモの芽には毒性の強い成分が含まれていることはよく知られています。生で食べる野菜の代表格といえるキャベツは、18世紀ごろは観葉植物かハーブ扱いで、たくさん食べると害があるために、食べ物ではありませんでした。
 現在食べられているほとんどの野菜は、自然界に存在していたそのままの姿とは全く違っています。味は美味しく、形は大きく、安全性が高くなるように品種改良されています。


 さて昔の野菜は何故そんな毒性を持っていたのか?というと、外敵から身を守るためです。どんな植物でも、虫に食われたり病気にやられたりするために生きているわけではありませんから、自分で自分の身を守るために体内に有害成分を作り、防御していたわけです。
 それは、人間が食べる為には邪魔な存在でした。そのため、有害成分の量を減らしたのが現代の野菜です。その結果ほとんどの野菜は病気や害虫に非常に弱くなりました。その弱さを補う為に活躍しているのが農薬というわけです。農薬の害は、植物が本来持っていた有害成分(天然農薬といわれる事があります)よりもはるかに弱いのです。
 弱くなった野菜を農薬を使わずに育てると、たいがいの場合は病気や害虫にやられてあっという間にものすごい被害を受けます。生野菜のサラダが食べられるようになったのは農薬のおかげだ、という話は決して突飛な事ではありません。


 余談ですが、有機農法を支持する人たちは、農薬を使わなければ植物が本来持っている生命力が活性化するから強くなり、病気や害虫に抵抗できると言う事があります。はてさて、強くなっているのはいったい何なのでしょうか・・・実は、農薬を使わずに野菜を育てた場合、本当に体質が強くなり、古来持っていた有害成分が増えるという研究結果があります。この成分は農薬に比べてもはるかに発ガン性が強く、残留量も多いことがわかっています。


 2についてですが、農薬が無いころ、農作業の中でなんと言っても大変なのが雑草の草引きでした。今でも田んぼに入って、除草剤で処理しきれない雑草を手で抜く事がありますが、ものすごく大変で、きつい作業です。どれほど大変かというと、昔はこの作業が嫌で農業を辞める人も多かったほどです。
 農薬は農作業にかかる手間と時間を大幅に減らしました。草引きの例で言うと、田んぼ1枚(10アール)あたりで除草にかかる時間は、昭和24年では50時間以上かかっていたのが、平成2年では2.4時間にまで減少しました(日本植物調整剤研究協会資料より)。この浮いた分の時間を使って、農家は、余暇を取ったり耕作面積を増やしたり、何よりも草引きにさほど人手が要らなくなったので、若者たちは街に出て働く事が可能になったのです。農薬は高度経済成長期を支えたと言ってもいいかもしれません。


 3の自然環境の維持についてですが、農薬とは簡単に言えば、小さな面積でもたくさんの収穫が出来る道具だと言えます。言い換えると農薬を使わないならば、今よりももっとたくさんの田んぼや畑が必要になるということです。
 農薬を使わなければ、どれだけの量が病害虫にやられるかは作物によって変わりますが、例えば米の場合は4割近くの減収になるといわれています。キュウリなどは1~2割程度しかとれなくなるとされています(1983年・農林水産省植物防疫課資料より)。これに対応するには、米ならば現在の1.67倍の面積と、そしてもちろん数倍以上の人手が必要になります。
 農業とは、そもそもが環境破壊であるという考え方があります。自然界のどこを探しても、単一の作物のみが栽培され管理されている場所などありません。農業では植物が作られている分、二酸化炭素の排出が抑えられているだろうと感じる人は多いでしょうが、実はその分メタンや一酸化二窒素が多く排出されているのだとする研究も出ています。鉄筋コンクリートのビルを作るよりはましでしょうが、田んぼや畑を作る事でも環境に負荷をかけているのは間違いありません。
 農薬は、そんな農業の面積を少なく抑え、森林や山地をそのままの状態で残す事に貢献しています。

koume



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