いしぜき ひでゆき, 藤栄 道彦
コンシェルジュ (1) BUNCH COMICS

 コンシェルジュ(正確な発音は「コンシエルジュ」の方が近いらしい)とは、最近割りと話題になっている存在ですが、高級ホテル内でお客様に対し様々なサービスを行う人(というか、部署というか)のことです。様々とは本当に「様々」で、レストランのガイドから道案内、人・物探し、眼鏡の修理などほとんどなんでも屋の境地です。リクエストに対してすべてイエスと答えることをモットーとしているため、「究極のサービス業」とも呼ばれます。
 このマンガはそんなコンシェルジュを扱った作品で、「コミックバンチ」で不定期連載されています。単行本は現在8巻まで。何年前だか忘れましたが、あの中田英寿も自身のウェブページでこのマンガのことを好きだといっていました。


 主人公はアメリカで「グレイト・ハイ」と呼ばれた優秀なコンシェルジュの「最上 拝」で、新人コンシェルジュの川口涼子が最上の指導を受けだんだんと成長していく・・・というのが最初の筋だったのですが、今でも大まかには変わっていませんが最上のグレイトさはだんだん影を潜めています。優秀なのは優秀なのですが、マンガっぽい超人ではないという意味で。作品ではそれが逆に、あまり羽目を外さないリアリティを得ていると思います。まーコンシェルジュ部門に配属されているメンバーがみんなやたら美人ばかりというのがちょっとあれですけど(^^;


 さてこのマンガは結構以前から読んでいたんですが、今回いきなり取り上げた理由はつい先日発売された8巻です。この巻には「野菜戦争」と題して、農薬のことを扱った前後編が乗っているのですが、これが素晴らしい内容です!こういう内容が、商業誌で、それなりに人気のあるマンガで掲載されるのは感動的ですらあります。こういう内容がコンシェルジュに載った、という噂だけは以前から知っていたのですが、ちゃんとしっかり読んだのは初めてです。


コンシェルジュ (8)


 実際に「野菜戦争」を読んでみると内容がかなり奮っていて、事件はある二人の漫画家の言い争いから始まるのですが、片方は以前からこのマンガに登場している常連マンガ家でよいとして、もう1人は明らかに「美味しんぼ」の作者である雁屋哲です。何しろ、22年前から連載しているグルメマンガの草分けで、農薬や食品添加物が大嫌い。オーストラリア在住で難民問題にも(偏見を持って)触れるという、あまりにもそのまんまで問題はなかったのかと思うほどです。ルックスもどう見ても、眼鏡をかけた海原雄山だし。


 内容は非常にまともです。いつもどおり農薬の害を語る雁屋に対して、実際の「無農薬野菜」「自然のままの野菜」を食べさせて農薬の効力を語るというものです。農薬の安全性を主張するあまり自然農薬の恐怖を必要以上に煽っていたのがちょっと難点ですが、それは私も含めて農薬擁護者のほとんどに当てはまる傾向です(笑)
 とにかく普通の消費者の皆さんに読んでいただきたい内容で、ほとんど突っ込みもないのですが、内容に付け加えたい点が2つだけ。内容が間違っているということではありません。


 ピスタチオなどに発生するマイコトキシン(カビ毒のこと。作品中ではアスペルギルス・フラプスが生成するアフラトキシンが登場)を防ぐために農薬を使用しているという記述ですが、それに関してはポスト・ハーベスト農薬を使っていると書いて欲しかった。ポスト・ハーベスト農薬は、農薬の中でも最も批判と誤解が根強い農薬の一つです。


 もう一つ、農薬を使用しない場合の農業生産について、特に桃やリンゴが壊滅的な打撃を受けたとありましたが、それに付け加えると、リンゴなど樹になる作物は特に農薬が重要です。何故なら、他の例えばキャベツなどは病気や害虫に襲われてもそれそのものが駄目になるだけで済みますが、樹になるものは何年もかけて育った樹が枯れてしまうと被害は非常に甚大になるからです。こういうものに関してはほとんど無農薬栽培などありえません。リスクが大きすぎるのです。


 この作品中の雁屋は結構素直に納得しますが、本物はどうでしょうねえ。まあ最近、美味しんぼ読んでないので分かりませんけど。


 8巻の最後には農薬に関する小文もあり、おそらくこの作者自身が農薬に関する情報に触れて大きな衝撃を受け製作したのだろうという感じが見えます。それほど、消費者と農薬の距離は遠く深いです。


 とにかくこれはお勧めです。


koume