12月中旬からアルバイトやっていて、結構忙しいです。その間、胸くそ悪く終わった某ドラマ(相変わらず重要なことには何一つ触れずに美談として終了した)や、ボクシングの某タイトルマッチ(判定自体は確かに疑惑の余地は無いが、試合内容は明らかに八百長だろう)などいろいろネタはあったのですがさすがにもう古いですね(^^;


 さてネットを見てたらこんな記事が。


 有機農業推進法が成立 農薬減らし安全な食
 http://www.tokyo-np.co.jp/00/kur/20061225/ftu_____kur_____001.shtml


 この記事を読んでも、法律の中身がどういうものかさっぱり分からないところがご愛嬌ですが、それにしてもこの記者が抱えているひどいバイアスは一体どうしたら良いのか。この鈴木久美子と言う記者、バカとしか思えない。まあ案外と、この辺が一般的な消費者像なのかもしれませんが。


 文章は最初からこうです。


 有機農業の普及を目指す有機農業推進法が今月成立した。化学肥料や農薬漬けの農業に疑問を持ち、本来の食のありようを取り戻そうと全国各地の農家が独自に実践してきた取り組みが、法として位置づけられた意味は大きい。


 化学肥料や農薬漬けの農業って何ですか?農薬を使って作った農産物にも、95%からは農薬が検出すらされないということをこの人は知っているのか。もちろん残り5%でも、残留基準値を越えた残留農薬の事例などほとんど無く、さらに農産物は水洗いすれば99%の農薬は流れ落ち、なおかつADIの考え方からすれば、時たま基準値オーバーの野菜を食べたところで健康には何の影響も無いのです。農薬漬けの農産物っていったいどこにあるのでしょうかぜひ教えてくださいませ。


 もひとつ書くと、日本全国の農家は、有機農法をやっていない者でも、使う農薬をいかに減らそうかと苦心しているのです。こういうバカな記事や書籍に煽られた消費者の意志におもねってと言う理由と、何より農薬の使用量を減らせばその分手間もお金もかからないからです。農薬って結構高いんですよ。最近の農産物価格の下落でコスト問題は深刻です。


 記事に戻ると、次にこういう文章が続きます。


 今月初め、埼玉県小川町で開かれた「有機農業生産者懇話会」(金子美登(よしのり)代表)。農家の尾崎零さん=大阪府能勢町=は各地から集まった約三十人を前に話した。

 「始めた当時、村の『異端児』と呼ばれたもの。BSE(牛海綿状脳症)などの発生以降、食の安全と安心に関心が高まり、消費者から求められる時代になった」


 BSEなどによって安全意識が高まったのは間違いではないでしょうが、それと化学肥料や農薬との関連性はどこにあるのでしょうか?
 いつも不思議なのですが、なぜ農薬を減らすことが食の安全を高めることになるのでしょうか。と書くと、普通の皆様は、農薬は危険な物質なのだからそんなことは当たり前じゃないか、と感じるかもしれませんが考えてみてください。日々の暮らしの中で、農薬によって健康被害が出た事例など聞いたことがありますか?(無いことは無いのですが、ごくごく稀な事例です)
 実際、農薬は種類によっては、使用する農家にとっては危険なものでありえます。うっかり目に入ったり飲んだりなどしたら危ないものはあります。しかしそれと残留農薬とは話が全然違います。残留農薬のせいで健康被害が発生したなどという事例はありません。化学肥料についても同様です。


 今の日本の社会は、安全な食が求められています。しかし果たして、普通の食は危険なのでしょうか。レストランではお客さんが、この料理には毒が入っているかもしれないなどと怯えながら食事をしているでしょうか。全然違いますね。
 食は基本的には安全なものです。危険なものを食べるから、あるいは普通のものでも、危険な食べ方をするから危険なのです。危険なものとは、腐ったものや、O-157等に侵されたものなどでしょう。または、もともと食べられないとされているもの。毒キノコやジャガイモの芽など。危険な食べ方とは、たとえばジャンクフードばかり食べて栄養的に偏ったり、肥満になったりするような食生活などのことです。


 先日来、ノロウイルスの被害がよく報道されていますが、あれを見て分かるとおり、実は食における最大のリスクは食中毒なのです。市場に出回っている農産物の99%は農薬を使用して作られていますが、当然、これほどの規模で報道された農薬被害などありません。もし農薬に害があるなら、毎日何らかの被害が出ていないとおかしいですね。


 だいたい、この大阪の尾崎さんはBSEの事例を挙げていますが、日本ではBSEによる被害者は1000年に1人と予想されている、極めて低リスクな代物なのです。こんなものを取り上げるあたり、実際にはリスク学などに何の知見も持っていないことは明らかです。


 さて「本来の食のありよう」とは何でしょうか。文章からすると、「化学肥料や農薬を使わない農業」と言う意味でしかありえません。別に、そういう農業を目指すことには何の問題も無く、私も反対はしません。うちで作っている米にも化学肥料は一切使っていません。それは安全性を考慮してではなく、美味しい米を追求してのものですが。
 ただ、農薬や化学肥料は、農産物を低コストで作ることに貢献しています。それは農産物を安く提供できていると言うことでもありますが、同時に農産物を大量に提供できていると言うことでもあります。ただ、今の日本の食料自給率は40%程度なんですよね。国内では誰も飢えていないのでそんな実感はまるでありませんが、言い換えると農薬を使っても40%にしかならないのです。

 江戸時代には、農薬も化学肥料もなく、完全に無農薬無化学肥料で農業が行われていました。しかし、米や野菜の生産量は現在の3分の1以下でした。しかも、人口の中の農民の割合が現在よりも圧倒的に多かったにもかかわらず、食べ物が足りずしばしば飢饉が起こっていました。農産物の病気や害虫による被害が防げなかったからです。現在は農薬を使用するおかげで、そういう害を防げていますが、使用をやめれば病気や害虫はあっという間に蔓延します。


 私は、農薬をもっと使うべきだといっているのではありません。そもそも農薬は適正に使うべきなのであって、気分次第で減らせたり、たくさん使うからもっとたくさん野菜が採れたりという性質のものではありません。風邪をひいたときに風邪薬を2錠飲むところを、4錠飲んだところで早く治るわけではないことと同じです。逆に、そんなことをしたら副作用がひどくなるばかりです。同じ意味で、「農薬漬け」なんて言われるほどにばんばか農薬を使う農家など存在しません。
 私が言いたいのは、本来、日本と言う国は安全な農産物がどうとかの贅沢を言える立場に無いと言う事です。危険なものばかり出回っていると言うなら話は別ですが、日本の食は極めて安全なのです。そもそも野菜や米など、日常生活に密接しているものが危険だとしたら、日本人の平均寿命が世界トップクラスでいられるはずがありません。(日本は医療が発達していて老人をやたら延命させるから寿命が長いのだ、と言う妙な突っ込みがよくあるので指摘しておきますが、日本は健康寿命も世界トップです)


 農薬や化学肥料を否定して、「本来の食のありよう」を追及するのは別にかまいません。しかしそれは、ごく普通の家庭からは国産の農産物が消えると言うことを意味します。野菜の量も激減するし、価格も暴騰するからです。世の中がそういう状態に耐えられるなら、農家は有機農法を選択します。しかしそうではないから(去年だったか、一時期レタスが高騰しただけで大騒ぎしましたよね?)、ごく一部の変わり者の農家しか有機をやらないのです。現在、ほとんどの農家は、有機農法の利点や欠点を熟知した上で、しかし有機農法などにまったく興味を持っていません。


 私は、有機農法に取り組む生産者のことは否定しません。農薬の使用量を減らすことは重要なことです。しかし、ろくな見識も持たずに現代の農業を否定するジャーナリストは否定します。ふだんは安売りスーパーで「農薬漬け」野菜を買って食っているくせに、と冷笑したくなります。


koume