いや、たまげました。


 本日(3月26日)の茨城新聞の朝刊に掲載された記事を見た方はいらっしゃいますか?
 ポジティブリスト制の余波で、年代もののウイスキーに販売禁止の恐れ、という記事です。

 私は石川県に住んでいますが、今ちょうど茨城に帰省しているsuzuさんからこの話を聞き、記事のファックスを送ってもらいました。ほかの全国紙にこの記事が載っているかどうかはわかりません。ちなみに茨城新聞のウェブページでは、過去の記事の検索・閲覧が有料らしく、そちらから見る事が出来るかどうかも確認してません。

 ちなみにポジティブリスト制とは今年の5月から有効になる新しい農薬規制の制度のことで、以前記事にした事もありますが、簡単に言うと各農作物ごとに使用してもいい農薬ってのを設定し、その農薬ならば基準値以内の残留を認め、リスト以外の農薬に関しては一律0.01ppmの基準とするというものです。


 記事を要約すると、ポジティブリスト制が有効となると、食品の輸入業者は現地での農薬の使用状況を調査する必要に迫られるが、ウイスキーやワインなどの洋酒は数十年前の物もあり、その当時にどんな農薬が使われたかなどわからない場合があって調査が困難、使った農薬の絞り込みが出来なければ検査のコストがかかりすぎるという話です。
 検査コストに関しては、農薬ってのはリスト上に何100種類もあり、そして検査をしても「○○の薬がどれだけ、△△の薬が・・・」などと一発で出てくるようなものではなく、要するにどんな農薬が使われているか見当をつけない限り、広範囲の農薬について検査をせざるを得なくなり、それってものすごい手間暇お金がかかるのです。

 厚生労働省は「制度導入までに瓶詰めされた物に関しては、新制度を適用しない」らしいのですが、ウイスキーの場合は樽で貯蔵することが普通であるために回避が困難であると。(樽の木材にも農薬が!)

 ・・・という記事ですが、私の印象では、実際にウイスキーなどから農薬が検出されることは無いと思います。実際、大手洋酒メーカーも自主検査では農薬は検出されていないと言っているそうです。

 ただ、この記事が印象深かったのは、まず実際に危機感を持った業者が相当数いたことと、もう一つは、酒類などの加工品にもポジティブリストは適用されるのか?ということです。
 輸入業者が現地へ出向いて、「日本の農薬制度が変わったので、ドリフト対策をして欲しい」などと伝えても「馬鹿か」と言われるのがオチでしょうし、ただそれだけのことで輸出に難色を示される恐れもあります。実際ワインでは、日本の顧客がラベルやパッケージングなどにあまり細かくこだわりすぎるために販売をためらう例も少なくないそうですし。

 私自身、米農家としてポジティブリスト制度には警戒感を持っていますが、一消費者としても海外の農産物がかように規制されることに非常な不安感を持っています。農薬の残留によって実際に規制される物もそうですが、制度が変わったというただそれだけで日本が市場としての魅力を大幅に落としてしまうのではないかということです。

 私自身、不勉強だったので今まで、輸入農産物もポジティブリストの影響を受けるということに気づいていなかったのですが(自分以外には特に興味が無かったし)、加工品まで影響を受けるとは驚きです。


 海外での農業は、農薬の使用基準が日本とは全然違うことがよくあります。というかそれが普通です。

 それは、例えば海外のほうが残留基準がルーズな場合、それがその国の国民性だとか農業に対する姿勢の問題だとか言うことではなく、単純に日本と海外では自然環境が違うからです

 海外、例えばアメリカにはその土地特有の病気や害虫というものもあるでしょうし、それらに対応する農薬ももちろん変わってきます。日本にしかない雑草とかもあるでしょう。 つまり、日本の基準を以って海外の農産物の農薬残留を測っても意味が無いのです。ディルドリンなどを使う中国は別ですが。

 そういう意味で、私は単純に、ポジティブリストは国内の農産物だけの問題だろうと思っていたのですが、びっくりでした。


 まあこの制度、厚生労働省も、どうやらそれほど厳しく取り締まるつもりは無いようです。例えば各業者ごとに、一回目の違反は見逃すとか。「これは悪質」と判断できる物が現れたら、対応とかね。

 ただ、食料に関してごく一部を除いてほとんど多数を海外に頼っている日本は、自分勝手な理屈だけを持って海外の農産物を排除できる立場に無いはずです。その規制が、誰もが納得できるものであればかまわないのですが、科学的でもなんでもない単なる「農薬恐怖症」からできたとしか思えないポジティブリスト制度などのためでは業者(生産者含む)は納得しません。


koume