特にフランス・ボルドーの高級ワインには、セカンド・ワインというものがあります。このセカンド・ワインはなかなか有用でお勧めなのですが、短く簡単に説明しようとすると結構面倒なものでもあります。「2級酒」というのとは違うんですよね。


 品質にこだわりを持つ生産者が作るワインは、厳しい選別・切捨ての嵐の産物です。ぶどうの栽培の段階から、間引きを行い、生育の良くない果実は切り捨て、病気や虫などが発生したら切り取り、収穫後にも不良果実は除外されます。また、植えてからまだ間もない、若いぶどう樹は経験的にあまり質のいいぶどうを作れないので、そういう樹のぶどうから出来るワインは1番のロットから除外されます。
 1本数万円はするような最高級ワインを作る際の、その選別は厳格を極め、ぶどうの粒を一粒ずつ見分けるなどといった気の遠くなるような作業を繰り返すものもありますし、その選別から洩れたぶどうには素人目にはどう見ても立派で、健常としか思えないものも数多く混じっています。


 間引き・選別は優れたワインを造るためには必須といえる作業ですが、しかしある意味、膨大な無駄を発生させるということでもあります。優良果でも不良果でも、それにかかっている手間は結局同じですし、厳格な間引きはワインの生産量そのものを減少させることに直結します。もちろん、もともとそういうリスクを負っていることは承知の上での工程なのですが、それでも無駄といえば無駄なのは間違いありません。


 もちろん、そういう選別に洩れたぶどうは、ただ捨てるわけではありません。例えばよくあるのは、ほかのワイン生産者に売る場合があります。世の中の生産者は皆が皆、品質にこだわってワインを作っているわけではなく、多少妙なぶどうが混じっていてもとにかく量をさばくのが目的みたいなメーカーもありますので、そういう所にまとめてぶどうを売ってしまうという方法は昔からあるのですが、売り上げはものすごく安くなります。そのぶどうにかかった原価を考えると完全に赤字です。


 そこで近年よく行われている方法が、セカンド・ワインの生産です。選別に洩れたぶどうの中でも比較的ましなぶどうを再選別し、それで第1等のワインには及ばなくともしかしそれなりに優れたワインを生産し、販売するというやり方です。天候不良など、その他の要因で残念ながら選別洩れしたとはいえ、もともとは大変な努力と情熱、1流の技術と経験によって作られたぶどうですし、またそれらは場合が場合ならば1級のシャトー・ワインとして数万円のボトルに詰められて販売されてたものですから、やや高いとはいえそれでも割安なボトルとして1級のものの雰囲気を味わうには格好のワインになります。


 セカンド・ワインが本格的に盛り上がってきたのはおよそ1980年代かららしいのですが、現在、これらはとてもじゃないけど格落ちワインなどと馬鹿に出来たものではありません。ものによってはかなりの高額でしかも品質も素晴らしい、秀逸なワインに仕上がっています。
 例えばメドックの、ビッグ5といわれる格付け1級ワインのセカンドはそれぞれ、5000円から1万円以上の価格がつくことも珍しくなく、内容もそれにふさわしいものになっています。私が特に好きなのは、シャトー・オー・ブリオンのセカンドであるバアン・デュ・オーブリオン  シャトー・マルゴーのセカンドのパヴィヨン・ルージュ・ド・シャトー・マルゴー  なのですが、気品も豊かさも兼ね備えたとても美味しいワインでした。高額ではあってもしっかりと贅沢な気分を楽しめる素晴らしいワインです。


 シャトー・パルメシャトー・リューセック  は高すぎて買えなくても、セカンドならば何とか頑張れば手の届くワインになっています。セカンドのワイン名が、ファーストのものとは全く変わっていて、丸暗記していないとぱっと見にはよくわからないという難点もありますが、目をつけている高額ワインがあればまずはセカンドを調べて体験、ってのも悪くないものです。
 主役に成るべく受けたオーディション、残念ながら外れたぶどうちゃんがセカンドになるわけですが、それでも「通行人A」レベルよりは確実にナイスバディなので、セカンドでも十分堪能できるのだ~(^O^ おわり


koume