前回予告したとおり、劉弁護士が執筆したブログ記事「個人持分譲渡における税金取扱条項の全面解析」の内容を確認していこうと思います。
原文を訳してポイントと思われる部分に下線を引いたので、適宜ポイントを拾って読んでいただけると良いかと思います。
序文
“持分譲渡の取引において、譲渡人は、持分譲渡の差益に財産譲渡所得が発生するため、個人所得税を納付しなければなりません。しかし、実際の取引では、譲渡人と譲受人は往々にして、譲受人が該当する部分の個人所得税を負担するという約定(以下「約定」)に合意します。では、この種の約定は有効なのか?どのような法的性質があるのか?どのような法的効果が生じるのか?以下本文で、華税の弁護士が分析を行いました。”
1 個人の持分譲渡における納税取扱条項は適法かつ有効
(1) 約定は適法かつ有効
持分譲渡において譲渡人の個人所得税について譲受人が負担して支払うという約定は、適法かつ有効です。
第一に、当事者の真実の意思表示であるかがポイントになります。
「中華人民共和国租税徴収管理法」第4条の規定によると、法律、行政法規では納税義務を負う単位及び個人を納税者と規定しています。法律、行政法規では源泉徴収義務、代理徴収代理納付義務を負う単位及び個人を源泉徴収義務者としています。納税者、源泉徴収義務者は法律、行政法規の規定により税金の納付、源泉徴収、代理徴収代理納付をしなければなりません。中国の個人所得税については、法定の源泉徴収制度モデルを一括して実行しており、持分譲渡では、譲渡人が個人所得税の納税義務者であり、譲受人が源泉徴収義務者です。双方が譲受人に個人所得税を負担させると約定を結んだ場合、譲受人が譲渡人へ支払った対価が税引き後の価額となります。これは譲渡人と譲受人の間における真実の意思を示しています。
第二に、法律、行政法規の強行規定には違反していません。
「契約法」第52条の規定によると、法律、行政法規の強行規定に違反した場合、契約は無効となります。税法及び関連する法律の規定では取引当事者の双方が税負担を納税者以外の主体が実際には負担すると約定することを禁止していません。そのため、持分譲渡において譲渡人が個人所得税について譲受人が負担して支払うという約定は、「租税徴収管理法」が定める法律、行政法規の強行規定に違反することにはなりません。
従って、税金の実際の負担者に対する取引当事者双方の約定は法律、行政法規の強行規定には違反しておらず、かつ、双方の真実の意思を体現しており、適法かつ有効といえます。
(2) 約定の法的性質-履行の負担or債務の負担
履行の負担とは、債務者が第三者と約定し、第三者が代わりに債権者に対して債務を履行し、これにより債権と債務を消滅させるという制度を指します。債務の負担とは、契約を変更しないという前提において、債権者、債務者が第三者と締結した債務譲渡の協議により、債務の全て又は一部を第三者へ移転して負担させるという法現象を指します。
債務の負担と履行の負担には一定の類似点が存在します。それはどちらも原債権債務に関わる以外の第三者が債務者に対して債務を履行し、これにより全て(or一部)の原債権債務の関係を消滅させるという点です。しかしながら、両者には法的性質及び法的効果において以下の区別が存在します。
1. 形態が異なる。債務の負担契約では、債務者と負担者の締結が可能であり、負担者が債権者と直接締結することも可能です。一方、履行の負担契約は債務者と負担者の間においてのみ締結されます。
2. 発効要件が異なる。債務者と負担者の間において締結された債務の負担協議は、債権者の同意を得た場合に発効します。一方、履行の負担契約の締結は、債権者の同意を得ずに発効します。
3. 効力が異なる。債務の負担は「債権債務移転」の下位概念に該当します。債務の負担の法的関係において債務主体が変化し、負担者が原債務者の地位に取って代わり新たな債務者となり、債権者も債務の負担により負担者に対する請求権を直接取得することで、原債務者は債務を免除されて原債権債務関係から離脱することになります。一方、履行の負担は、債権債務の履行方式の範疇に該当します。債務主体は変化せず、履行の負担の成立により債務者が債務を免除されて契約関係から離脱することはできず、債権者は履行の負担者に対する直接請求権を取得しておらず、負担者も債権者に対して違約責任を負う必要はありません。
持分譲渡において、譲渡人と譲受人が譲渡人の個人所得税を譲受人が負担すると約定します。これは債務徴収について第三者(譲受人)が負担するという約定に該当します。この約定では、税務機関の同意取得は不要となり即座に成立して効力が生じ、かつ、この約定により譲渡人が個人所得税の納税義務者であるという身分は変化しません。そのため、法的性質という点では、履行の負担に該当します。
2納税負担条項+譲渡対価支払時における個人所得税の源泉徴収=譲渡者の納税義務が履行完了
法的性質からすると、約定の本質は履行の負担です。しかし、税法の規定によると約定における負担者は源泉徴収義務を更に負うため、ある程度特殊です。そのため、約定の法的影響は、履行の負担における法定効果と完全に一致するわけではありません。
第一に、約定は譲渡人が納税義務を既に履行したとみなすことができます。
個人所得税の納税義務者は、源泉徴収義務者に対して代金を支払う際に税額を控除するよう促すことで、法により納税義務を履行したことになります。「脱税・納税拒否の刑事案件の審理において具体的に応用する法律に係る若干の問題に関する最高人民法院の解釈」(法釈[2002]33号)第1条では、源泉徴収義務者は書面により納税者に代わり税金を支払うことに承諾した場合、源泉徴収義務者が「税金を控除済であり、かつ、これを受領済である」と認定しなければならない、と規定しています。
譲渡人と譲受人が約定に合意した後に、譲渡人は、譲受人から持分譲渡の対価である税引き後の代金を受領してから、源泉徴収義務者に対して代金を支払う際に税額を控除するよう促したことになります。このとき、譲渡人は、納税義務者として納税義務を履行したことになります。
第二に、譲受人は法律通りに代理納付義務を履行しなかった場合、関連する法律責任を負う必要があります。
上記の分析に従うと、譲受人は、源泉徴収義務者として約定に合意した後、譲受人が「税金を控除済である、かつ、これを納付済である」と認定されることになります。仮に譲受人が法律通りに税金を代理納付して遅滞なく国庫に入庫しなかった場合、「租税徴収管理法」第63条に規定する「源泉徴収義務者が控除した税金を納付しない、又は過少納付する」という脱税行為を構成し、情状が重大な場合は更に犯罪構成の容疑に問われる可能性があります。
しかしながら、実務では各地の税務機関によってこの種の事由に対する法的責任の認定は一致していません。そのため、譲渡人は、譲受人に法により代理控除した税金を遅滞なく入庫するよう積極的に促し、不要な税務リスクを引き起こさないようにするべきです。
3. まとめ
『「個人所得税の若干の問題に係る規定」の印刷発布に関する国家税務総局の通知』(国税発[1994]089号)第14条の規定によると、単位又は個人を納税義務者として個人所得税を負担する場合は、納税義務者が取得した税抜きの収入を納税所得額に換算し、個人所得税を計算して徴収しなければならないとされています。この規定に従うと、譲受人が負担する個人所得税を計算する場合は、譲渡人が受領する税引き後の代金を税込み収入に先ず換算してから、持分の取得原価と合理的な費用を控除した後の残額に基づき課税所得額を確定し、個人所得税を計算しなければなりません。
2016年に入ってからアメブロの更新がだいぶ滞ってしまいました。
重い腰を上げブログ記事を久々にアップしたいと思います。
2016年入り、中国では税務を取り巻く情勢が大きく変化しています。
3月5日、第12期全国人民代表大会では、懸案となっていた営改増の全面施行(営業税から増値税への改革、建設業、不動産業、金融業、生活サービス産業の4大産業への試行適用が開始)について、李克強首相から2016年5月1日に施行することが発表されました。
営改増については、連日中国の各種メディアの報道がされており、ひいては中国のBig4含む会計・監査法人からも各種レポートが発表されています。4大産業への営改増はホットな話題であり、各種レポートを参照し、自分なりに整理しようと思いましたが、現在進行形の壮大なテーマであるため、別途機会を設けて紹介していきたいと思います。
本日は、「個人持分譲渡における税金取扱条項@中国」というテーマについて考えてみます。具体的には、当事者間において持分譲渡で発生する個人所得税の負担者を契約書の条項で定めた場合、その条項は法的に有効か、というのが中心テーマです。
丁度、業務で関連する話題に触れたことがあり、内容を整理したいと思っていたところ、中国の華税律師事務所の劉天永弁護士が御自身のブログ「個人持分譲渡における税金取扱条項の全面解析(原文:个人股权转让包税条款全面解析)」で詳細かつ簡易にまとめているので、内容を転載して紹介したいと思います(劉弁護士、転載のご承認ありがとうございました)。
前振りが長くなったので内容の詳細は次回に譲り、劉弁護士のブログの内容概要を最後に紹介します。
「個人持分譲渡における税金取扱条項の全面解析」
1. 問題意識
2. 個人持分譲渡における納税負担条項は適法かつ有効
2-1. 約定は適法かつ有効
2-2. 約定する法律の性質—履行負担と債務負担
3. 納税負担条項+譲渡対価支払時における個人所得税の源泉徴収=譲渡者の納税義務が履行完了
4. まとめ
重い腰を上げブログ記事を久々にアップしたいと思います。
2016年入り、中国では税務を取り巻く情勢が大きく変化しています。
3月5日、第12期全国人民代表大会では、懸案となっていた営改増の全面施行(営業税から増値税への改革、建設業、不動産業、金融業、生活サービス産業の4大産業への試行適用が開始)について、李克強首相から2016年5月1日に施行することが発表されました。
営改増については、連日中国の各種メディアの報道がされており、ひいては中国のBig4含む会計・監査法人からも各種レポートが発表されています。4大産業への営改増はホットな話題であり、各種レポートを参照し、自分なりに整理しようと思いましたが、現在進行形の壮大なテーマであるため、別途機会を設けて紹介していきたいと思います。
本日は、「個人持分譲渡における税金取扱条項@中国」というテーマについて考えてみます。具体的には、当事者間において持分譲渡で発生する個人所得税の負担者を契約書の条項で定めた場合、その条項は法的に有効か、というのが中心テーマです。
丁度、業務で関連する話題に触れたことがあり、内容を整理したいと思っていたところ、中国の華税律師事務所の劉天永弁護士が御自身のブログ「個人持分譲渡における税金取扱条項の全面解析(原文:个人股权转让包税条款全面解析)」で詳細かつ簡易にまとめているので、内容を転載して紹介したいと思います(劉弁護士、転載のご承認ありがとうございました)。
前振りが長くなったので内容の詳細は次回に譲り、劉弁護士のブログの内容概要を最後に紹介します。
「個人持分譲渡における税金取扱条項の全面解析」
1. 問題意識
2. 個人持分譲渡における納税負担条項は適法かつ有効
2-1. 約定は適法かつ有効
2-2. 約定する法律の性質—履行負担と債務負担
3. 納税負担条項+譲渡対価支払時における個人所得税の源泉徴収=譲渡者の納税義務が履行完了
4. まとめ
前回の記事から長らくブログ更新がされず、新年を迎えてしまいました。2016年初回の更新ということもあり、久しぶりに中国の税務関連の話題について書いてみます。
以前、ブログで「電子版増値税普通発票の試験導入」について取り上げましたが(詳細はこちら)、実は2015年12月1日に電子版増値税普通発票が全面導入されました。
全面導入にあたり、国家税務総局から「増値税電子発票システム経由で発行する増値税電子普通発票推進の関係問題に関する公告」(国家税務総局公告2015年第84号)(以下「84号公告」)が2015年11月26日付けで公布されています。
84号公告自体には目新しい内容は盛り込まれておらず、「増値税発票システムグレードアップ版電子発票の試験運用業務に関係する問題に関係する国家税務総局の通知」(税総函[2015]373号)の内容を簡略化し、その流れを踏襲しているという印象を受けました。
個人的には、電子版増値税普通発票の全面導入がこれほど短期間の内に実施されるとは予想しておらず、少々驚きました。以前のブログでは「将来的には、増値税専用発票についても同様に電子化へシフトしていく」と述べましたが、増値税専用発票が電子化されるのか、電子化に向けて国家税務総局はどのような対応策をとっていくのか、個人的には非常に興味があります。
増値税専用発票は「一般納税者」による仕入増値税控除が認められており、当該制度を利用した各種の脱税行為(増値税専用発票の虚偽発効等)が後を絶ちません。電子化を実現するには増値税専用発票を電子化の技術的課題の解決だけではなく、脱税行為を未然に防ぐ法制度の整備・運用により重点が置かれる気がします。
新たな動向が分かり次第、随時ブログで取り上げていことうと思います。
以前、ブログで「電子版増値税普通発票の試験導入」について取り上げましたが(詳細はこちら)、実は2015年12月1日に電子版増値税普通発票が全面導入されました。
全面導入にあたり、国家税務総局から「増値税電子発票システム経由で発行する増値税電子普通発票推進の関係問題に関する公告」(国家税務総局公告2015年第84号)(以下「84号公告」)が2015年11月26日付けで公布されています。
84号公告自体には目新しい内容は盛り込まれておらず、「増値税発票システムグレードアップ版電子発票の試験運用業務に関係する問題に関係する国家税務総局の通知」(税総函[2015]373号)の内容を簡略化し、その流れを踏襲しているという印象を受けました。
個人的には、電子版増値税普通発票の全面導入がこれほど短期間の内に実施されるとは予想しておらず、少々驚きました。以前のブログでは「将来的には、増値税専用発票についても同様に電子化へシフトしていく」と述べましたが、増値税専用発票が電子化されるのか、電子化に向けて国家税務総局はどのような対応策をとっていくのか、個人的には非常に興味があります。
増値税専用発票は「一般納税者」による仕入増値税控除が認められており、当該制度を利用した各種の脱税行為(増値税専用発票の虚偽発効等)が後を絶ちません。電子化を実現するには増値税専用発票を電子化の技術的課題の解決だけではなく、脱税行為を未然に防ぐ法制度の整備・運用により重点が置かれる気がします。
新たな動向が分かり次第、随時ブログで取り上げていことうと思います。
