俺たちベトナムにいる人間は、ベトナム人に騙される事はあまり大した事とは思ってない。


それはまぁ、騙されるよりは騙されない方が良いのであるが、そもそもが想定内である。


そもそも我々は、ベトナム人に騙されることを前提としてビジネスをやってるからあまり騙されたとしても心の衝撃が少ない。


しかしこれが「同胞の日本人」に騙されたと言うことになったら金額の多寡に関わらず虫の居所が少し悪くなる。


今回書くのは斉藤という詐欺師が、我々の会社に乗り込んできた時の話だ。



日時は20141224日、忘れもしないクリスマスの日であった。


「カンボジアでビジネスをやってる」という斉藤と名乗る男がビシッと決めたスーツ姿でうちの事務所にやってきた。


彼は自己紹介の後「コエンザイム」と言うわけのわからない薬剤に関して、ベトナムで作っている企業をコンサルしてほしいと言ってきた。


「なんでそんな会社を紹介してほしいんだ」

と俺が聞くと

「自分は現在、カンボジアのシアヌークビルでコエンザイムを作る工場を経営している。しかし年末になって労働者たちがストライキを始めたので工場がストップしたのだ。しかし日本の顧客からは、毎日のように注文が来るのでストライキが解除するまでの期間ベトナムの同じようなものを作ってる会社に発注をしたい」

とのこと。


ここまで聞くと、もっともな理由であるし、年末にストライキをすると言うこともカンボジアではよくあることなので俺は疑わなかった。

何しろ彼は日本人であるからなおのことである。


しかし、あいにく俺はベトナムでそういう特殊な薬剤を作ってる会社を知らなかった。


そのことを奴に伝えると、

「心配しなくていい。こちらでもうすでに、ベトナムで同じ製品を作っている会社をリストアップしてるから」

との事。


この時、俺はちょっと引っかかった。

「既にリストアップしてるんであれば、自分でアプローチして注文したらいいんじゃないのか」

と反論する。


「いや俺はカンボジアの企業には熟知してるがベトナムの商風土や、そもそも言葉がわからない。そのために御社に来たんだ」

なるほど、これもわからないこともない。


しかし次のやつの行動が1番俺が疑った点である。

俺はやつに聞いた

「大体どれぐらいの金額を注文したいんだ?」


「日本円で言うと約2000万円分だ」


「なるほど、ベトナムの企業とって2000万円は高い金額だから、キャッシュが必要だ」

「それはよくわかってる。カンボジアも同じだから。だから俺は、今日ここに2000万円近く持って来てる」

とカバンの中からサランラップでぐるぐるに巻いた100ドル札の束を、ドンと俺の前に置いた。