何事もなかったようにパッパッとホコリを払うスタッフ。
そこで俺たちはこの馬鹿野郎の無灯火のバイクの持ち主のところに詰め寄る。
馬鹿野郎は倒れたバイクの横で伸びている。
やつも当然俺たちと同じような衝撃を受けているはずだ。
「このあほ!どこ見て運転してるんじゃあ!」
怒るときは日本語に限る。
しかしそのそいつは俺たちが近づくのを見てよろよろと立ち上がり、慌ててバイクにまたがって闇の彼方へと立ち去っていった。
「麻薬ですね・・・」
「今何と言った?」
「はいあいつは麻薬をやってるやつの目でした。多分・・・」
酔っ払い運転っていう話をよく聞くが「麻薬服用運転」であると彼は主張するのである。
今はだいぶ減ったが昔のベトナムには麻薬がまだまだ公然と自由に取引される場所があった。
いずれにしても俺はヘルメットもしていたおかげで腕の擦り傷と肩の痛み以外は大きな怪我はなかった。
しかしあれが昼間であったら後ろからバスや車が来ていたのであろうからおそらく即死だ。
俺はこの世になかったと思う。
余談ではあるがベトナムの交通事故の死亡者数は日本と同じ年間4500名ぐらいである。
意外と少ない数字だ。
あれだけの数のバイクがうろうろしてるホーチミンでも接触事故や 小さな事故は毎日見るのであるが、そもそも混雑していてスピードが出ていないがために死亡事故というのはあまりお目にかかったことがない。
死亡事故は大都市よりもむしろ郊外に出て見晴らしのきく直線の道で起こる。
速度の遅いバスを追い越そうとして正面衝突をして一瞬で死んでしまうパターンが多い。
俺もホーチミンから500 km 離れたニャチャンへ車でドライブをしたことがあるがその途中で吹っ飛んでぐちゃぐちゃになったバイクの横に青いシートをかけられた(多分死体であろう)の交通事故を何度か見ることがあった。
バイクはもう原型を留めていなかった。
しかし現在は速度の取り締まり規制や麻薬そのものがなくなってきたので比較的昔よりは安全になっている。
もしこの文章を読んでいる貴方が真の勇者ならぜひベトナムに来てどきどき体験をしてみてほしい。