15年前のベトナムで走ってるバイクなんていうのはもうナンバープレートはついてないわミラーはないわ、夜にはライトもつけないで走る無灯火の野郎がゴロゴロしていて危険きわまりなかった。


俺は一度だけバイクに乗っていた時に交通事故にあったことがある。


仕事が終わってスタッフのバイクの後ろに乗っけてもらった時のことである。


大きな交差点を左折しようと思って待っていた。(ちなみにベトナムの交通事情は日本とは逆で右側通行である。すなわち左折とは日本でいう右折をイメージしてほしい)


赤信号が変わるのを待っていると左側から急激な衝撃が襲ってきた。


無灯火で超スピードでやってくるバイクが俺たち2人が乗っているバイクの左腹めがけてノーブレーキで突っ込んできたのである。

普通なら俺たちを追い越すのなら右を通り抜ければいいものを斜めに停車している俺たちのバイクにわざと当たりに来たかのように躊躇なく激突した。


当然、慣性の法則によってバイクは倒されて俺たち2人は宙に舞い路上に吹っ飛んだ。


俺は受身を取って転がりながらただ「後続車が来てないか」ということだけが頭をよぎった。


なぜかと言うとベトナムでは一番死亡事故が多いのは接触された後に後続車にはねられることが多いからである。



このときは運転していたスタッフのことは申し訳ないが微塵にも考えなかった。


「自分の命は自分で守る」

ベトナムの鉄則だ。


幸い夜中の12時だったこともあり交通量が少なかったのでぐるぐる回る俺の中でも車のライトは後ろから襲ってこなかった。


56回、アスファルトの上を回転した俺は体に異常がないかを確認した後にスタッフのところに駆け寄って「おい、大丈夫か」と言うと「はい、慣れてますから」とさすがに頼もしい返事が返ってきた。