成敗が開始された。
俺は「20万ドンか、よくわからないな・・・」というようなふりをしてわざと財布の中を彼の前に晒した。
すると奴は「待っました」とばかりにいきなり俺の財布の中から一番高額紙幣である50万ドンをさっと抜き取ったのである。
マリックも真っ青な早技である。
そして「さあ、降りろ」と俺たちにタクシーから降りるように指示した。
俺は即座に「48万ドンの釣りはどうした」と聞いた。
もちろんベトナム語でである。
彼はベトナム語を話す日本人の俺にびっくりしたようであったが「今2万ドンちょうどもらったので釣りはない」と抜かしやがる。
「そんなことはない、俺は財布に50万ドン札1枚しか入れてなかった。それが今ここにはない」と言い張った。
ヤツはちょっと困った顔して 「2万ドンしかもらってない」ということを強調する。
最初は20万ドンを要求したくせにもう2万ドンになっている。
そして先ほどから窓の外をビデオ撮影しているふりをしているスタッフに言った。
「おい、こいつにさっきのビデオ見せてやれ」
一番大事な金のやり取りの瞬間も当然ビデオ撮りしている。
というかこれが目的である。
そしてさきほどのやつが50万ドンをかっさらう瞬間を撮影したビデオをやつに見せた。
ビデオで見ても名人芸である。
それを見た奴は「完全に参った」という顔をして渋渋釣りの48万ドンを返してきた。
そして追い討ちをかけるように俺はスタッフにタクシーの上に掲示してある社員証(顔写真と名前と生年月日が書いてある)をスマホで撮るように命じた。
その後俺は
「このビデオを持って日本の領事館と警察に行くからな。お前の顔写真と社員証は既にスマホで撮ってある」とネクタイを思い切りつかんで怒鳴ってやった。
両手を合わせて哀願するドライバー
「いまさら謝ってももう遅い!」
そしてスタッフに命じてタクシーを降りて前後から車のナンバーを写真で撮らせた。
前後でナンバーが違う車はざらである。
やつはすぐに降りてきて平謝りをしてしわくちゃな10万ドンを差し出してこれで勘弁してくれと言った。
しかしそんなもので心が揺れる俺ではない。
大声で「アホなことすんな」と俺はネクタイを引っ張りながらやつの車のボディーを思いっきり蹴り飛ばしてやった。
ボコッとかなりへこんだ。
「奴もこれから心は入れ替わらないであろうが少しは手加減するだろう」と願った。
もちろんめんどくさいから領事館や警察などには行かない。
俺の2番目の目的の「むしゃくしゃした腹いせ」は終わったからである。
はーすっきりした。
ベトナムの鬱憤の発散は悪徳タクシーの成敗に限るぜ。