資本金を払って学校法人を作ったのはいいが、ハノイの文科省の審査が下りなければライセンスが降りないと言うのは、具体的には車を買ったのはいいけれどもまだ免許を取ってないと言う状態に非常によく似ている。

しかもその免許を取るための条件と言うのは前述した5つの項目を全てクリアしなくてはいけない。

しかもヒゲは「協力する」と言っているが80%あてにならない、と言う状況である。

まずは校舎であるがベトナム国の施設である夜間学校を安く借りれたと言う事は言ったと思うが、これがまたボロボロな施設で外壁なんかは苔がむしているようなみすぼらしい建物であった。

しかしこれでも築10年と言うのであるからいかににベトナムの塗装のレベルが低いかというのが想像できるであろう。

そこで俺は、当時日本ではやっていたサイデリヤという外壁建材を輸入して、すっぽりと学校全体をオシャレなレンガ風にすると言う計画を立てた。

約300万円の外壁材の輸入を決意した。

せめて外観だけでもみすぼらしくないようにしようと思ったからである。

そして外壁材が到着して日本からの外壁職人もスタンバイして、いよいよ今日から施工開始となった日のことである。

俺は100人ほどの作業員を前にして、朝礼のように「今から外壁建材の施工を行うが、決して怪我のないように注意して行ってください」と宣言して着工を開始した。

するとその時に、血相変えてロンアン省の人間が、今まさに作業に取り掛かろうとしている我々の前に現れてこういったのである。

「作業は中止だ、全員解散しろ」と言った。

俺は通訳を使って「こいつは一体、何を言ってるんだ」と理由を聞けと言ったら「この施設は国の建物であるので外壁であろうが一切手をつけてはいけない」と言っていますとの返事。

しかし俺はロンアン省知事と日本に何度も言って、「一緒に学校を作ろう」と約束してなおかつヒゲ(これがまたあてにならない)もこのプロジェクトには参画してるのだ、と伝えるが「とにかく国の持ちものであるから手をつけるな」の一点張りである。

俺は頭に来て「ここまで緻密に話を詰めて、いよいよ学校スタートと言うところでなんでこんな事態が起こるのか、要するにこいつはゴネて金が欲しいのか?」とダイレクトに聞けと俺は通訳に詰めた。

すると通訳が言うには「どうやら金の問題では無いらしいです。政府のルールだそうです」ときた。

「そうか、面倒な事は大体金で解決するこのベトナムで金以外に何が必要なのか」と俺は考えた。

いずれにしてもその日はこの邪魔者が入ったおかげで作業が中断し、俺はヒゲを通じて事の真相を究明しようとした。

次の日に回答が来た。
やはり「ロンアン省はオッケーなのであるが、国の施設であるから手を加えてはいけないと」言う結論になってしまった。

俺は、こうしていきなり座礁に乗り上げたのである。

ヒゲに直接聞いても奴はヒゲをいじっているだけ。

購入した外壁建材は、今も俺の倉庫の中に眠っている。