東京ニューシティ管弦楽団
第105回定期演奏会
2016年5月21日 14:00
東京芸術劇場コンサートホール

指揮: フィリップ・チジェフスキー
ピアノ: アレクセイ・リュビーモフ
コンサートマスター: 執行 恒宏

曲目

ヘンリー・パーセル
歌劇「妖精の女王」および「アブデラザール」より

フランツ・ハイドン
ピアノ協奏曲 ニ長調 op.21

イーゴリ・ストラヴィンスキー
ピアノと管楽器のための協奏曲

セルゲイ・プロコフィエフ
交響曲第一番 ニ長調op.25「古典的交響曲」

ピアノアンコール
ドビュッシー 前奏曲集第一巻より
「ミンストレル」

東京ニューシティ管弦楽団をご存知でしょうか。1990年設立なので、比較的新しい在京オケということになります。名前は知っているけれど、定期演奏会に足を運ぶのはなかなかない、という方も多いかもしれません。私自身も今までは、なんかのきっかけがないと行かなかったというのが本音です。
東京周辺に本拠地を置くオケは、現在、立て直すために話題作りに励んだり、実力アップに余念がなかったり、みんな努力しているな、という印象です。N響みたいにあぐらをかいているオケは放っておいてもいいかもしれないけれど、その他のオケは必死なはず。東京ニューシティもその一つで、今年度からプログラムの見直しと共に、オケ改革も進めているようです。
今年度のラインナップを見ると、今日のリュビーモフとの共演や11月のツィメルマンの招聘、ベテランのソリストから若手無名のソリストや日本では知られていない指揮者も呼んでいます。
今日は終演後に、コンサートマスターの執行(しぎょう)さんからご挨拶があり、「本年度は他では聴けないプログラムを、専門家である演奏家をお呼びして、演奏していきます!」と意気込みが感じられました。

さて、一曲目から私にとっては難度が高く、ヘンリー・パーセルのセミ・オペラからの抜粋曲です。パーセルは17世紀のイギリスにて、教会や宮廷でもてはやされた作曲家だそうです。歌劇「妖精の女王」や「アブデラザール」は、オペラとまではいかず、演劇の合間に曲が入る形式ということから、セミ・オペラと称されるようです。さすが、演劇の国!
そのため、今日の演奏でも短い曲が次々と演奏されました。弦楽中心の小編成。低弦楽器の響きがよく、ヴァイオリンは古典的な少し鄙びた風情を醸す音がします。

さて、指揮者のチジェフスキー氏ですが、まだ30歳前半の若手です。今回はリュビーモフのご指名で連れて来られました。モデルのように背が高く、手足が長く、指揮振りの様子は優雅で、大きく、なかなかステキです。

リュビーモフ氏登場。今日はリュビーモフ目当てでやってくる、クラシックに詳しいファンも多かったことでしょう。日本で協奏曲を演奏されるのは何年ぶりなのでしょうか。

ハイドンのピアノ協奏曲、明るくわかりやすいメロディは聴いていると心が軽くなります。今日のピアノはスタインウェイ。しかし、リュビーモフが弾くと、不必要なペダルを踏まないので、軽すぎず響きすぎず、いつも聴くきらびやかなスタインウェイの音とは違う響きになります。古い楽器を意識してのことでしょうか。
余談ですが、5/22に広島の流川教会で行われるリュビーモフのリサイタルでは、1900年代初めのベヒシュタインが使用されるそうです。興味深く聴いてみたいものです。いらっしゃれる方、ぜひ聴いてみてくださいませ!
ハイドンの終演後には、野太いブラボーを始め、聴衆の大きな拍手と歓声が上がりました。会場の入りですが、一階は結構埋まっています。二階も正面はまあまあ、3階席とサイドは淋しかったのですが、その入りに比べて、大きな拍手が起き、リュビーモフ氏は何度も舞台に呼び出されました。

休憩を挟んで、ストラヴィンスキーです。ストラヴィンスキーは曲を作るときに、ほとんどをピアノで作曲をし、後から管弦楽用に譜面を書き換えたのだそうです。ですから、ストラヴィンスキーの複雑な曲はピアノ譜として先に完成していたことになります。
舞台は中央にピアノが置かれ、周囲の弦楽器パートのイスがすべて撤去されて、ひな壇の上の木管と管楽器のみが残されました。チジェフスキーは指揮台の位置を調節し、ピアノに近づけました。
ストラヴィンスキーというと、どうしても「火の鳥」や「春の祭典」などを思い浮かべ、終始テンポの速いめくるめく展開を思い浮かべます。もちろんこの曲にもその要素は十分に含まれますが、私は2楽章のピアノの美しさに惹かれました。チジェフスキーも、ゆったりとピアノを引き立てる指揮でした。
急速テンポの個所でも、オケとの息がぴったりと合い、リュビーモフが引っ張っていると思われる瞬間も何度かありましたが、ピアノが出るときは出る、引くときは引く、というメリハリがはっきりと見受けられました。リュビーモフの明晰さがここでもうかがえます。

協奏曲が終演し、会場からはアンコールを促す拍手が続きます。

やはりドビュッシー!リサイタルでも弾かれるましたが、ミンストレル。リュビーモフのテンポ、リズムはやはり至芸の域。チッコリーニのことをふと思い出します。

今回の演奏会は曲ごとに椅子や楽器の入れ替えがあり、スタッフの方は大変そうです。一曲目にはチェンバロも使われていて、持ち上げて慎重に運ばれていました。

ラストの古典的交響曲。全パートがやっと揃い、そして聴かせてくれた音は、なんと5月のこの時期にふさわしい爽やかな音色。それまでの3曲とはかなり趣が違い、これがニューシティの音なのね、と改めて確認しました。なかなか上手いし、伸びしろがありそうな感じがするのです。チジェフスキーの指揮も伸びやかで華があります。音はあくまで明朗で素直。いい演奏するんだな、と、今後に期待を持たせます。

まだまだ、都響や読響のように、満員御礼とはいかないでしょうけれども、面白い試みにオケ技術にも成長が感じられるような演奏会を重ねたら、お客さんももっと集まるでしょう。

そんな可能性を感じる演奏会でした。
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