ヴィクトワール法律事務所の弁護士加藤隆太郎です。
今回は某芸能人の事案で勾留はなぜ長引くのか検証したいと思います。
1 法の建前
逮捕された場合は48時間以内に検察庁に送致され,そこから24時間以内
に検察官が勾留請求(最低10日間身柄を拘束する手続きを決定するよう裁
判官に請求すること)をしなければ,身柄を解放しなければなりません。
勾留請求するのは検察官ですが,実際に勾留するか否かの判断は裁判官が
行います。
裁判官は,「罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある場合」で,以下の
3つのうち1つ以上該当する場合は,被疑者に対し勾留決定をすることができ
ます。
①定まった住居を有しないとき
②罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき
③被告人が逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき
勾留が決定した場合には,原則10日以上身柄を拘束される(通常は警察署
留置所で勾留されます。)ことになるので社会人や学生にとっては由々しき一大
事(長期間欠席することにつき,うまく説明できないと解雇や留年の危機が訪れ
ます)です。ひと昔前は「人質司法」と言われ,罪を認めるまでは外に出さないと
いう運用がなされていることもありました(映画「それでも僕はやっていない」をご
覧になった方はイメージが湧くと思います。)が,最近では,裁判官が勾留を認
めないと判断すること(これを「勾留却下」といいます。)も少しづつですが増え
てきました。
2 本件事案の概要
現在までの報道によれは,人気アイドルYさんは,酒気帯び運転で対面赤信号
の横断歩道に進入し,自転車に乗っていた方を含め2名を跳ね,それに気づ
いていたにもかかわらず,助けることも捜査機関に連絡することもせずに,その
場を立ち去ったとのことです(もっとも15分後に自ら通報したとのこと。)。
3 該当しえる犯罪
自動車運転処罰法違反(過失運転致傷),道路交通法違反(酒気帯び,救護義
務違反,報告義務違反)
※なお,アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車
を走行させたということが明らかになった場合は,危険運転致傷という圧倒的
に重い罪になるので要注意です。
4 なぜ,勾留が長引いているのか。
加害者が有名芸能人で,被害者の怪我の程度も大きくないので,勾留されず
に釈放される(それでも刑事事件は続きます)と考えた方も多かったとも思われ
ます。
もっとも,今回の場合,以下のとおり,Yさんの供述が客観的証拠と相容れない
部分が多いです。
・事故当時のアルコール濃度0.58は基準値の4倍程度の数値であり,アルコ
ールの分解速度を考えたときには,「事故7時間前に缶酎ハイ3本飲んだ」と
いうYさんの主張をそのまま受け入れるわけにはいかない。
・Yさんは「車が多くて事故直後止める場所がなかった」と供述しているところ,
防犯カメラによれば,現場付近に停車に支障となる車は存在しなかった。
このような事情からすれば,既に述べた勾留の要件②「罪証を隠滅すると疑うに
足りる相当な理由があるとき」を満たし,勾留が長期化している可能性が高いです。
既にアルコールの数値は出ているし,事故時が映った映像がある以上は証拠隠
滅しようがないのではないかとお考えになる方もいらっしゃるかも知れません。
もっとも,証拠隠滅の対象は物的な証拠に限りません。人的な証拠(証人)に対し
働きかけ虚偽の事実を言わせることも証拠隠滅となります。
裁判官としては,例えば,本件では直前まで一緒に飲んでいた人に働きかけ,Y
さんの飲酒量を実際より少ないものとしたり,事故現場の目撃者に働きかけ,「交
通事情からして現場では止まれなかったはずだ」と供述させるなどのおそれがある
と考え,勾留決定したと推測されます。
※なお,本件では,Yさんが乗車していた車両の車体や車体登録番号は発覚してい
たと考えられるので,Yさんが通報した段階で運転者がYさんだと判明していなくと
も,犯人は特定されていたといえ,刑法上の「自首」が成立するか疑わしいです。
(東京高等裁判所昭和46年10月27日判決参照)
今後,①Yさんにどのような罪が科されるか(被害者との間の示談の成否が大きい
です),②Yさんが判決まで期間,どのタイミングで釈放されるかの2点に着目をして,
本件の経緯を見守りたいと思います。