先日診た分娩50日前、食欲廃絶、宿便なく少量粘液のみ
血液検査では低Cl低K代謝性アルカローシスで消化管通過障害が示唆された症例だったが
第4病日に死亡した
剖検も依頼したが消化管には著変は認められなかったようだった
剖検で異常があったのは肺と肝臓で、全肺葉に炎症と、肝臓は鉄色素の沈着があった
臨床症状、血液検査からは消化管の何らかの病変が推測されたが
剖検の結果は異常はなかったため、機能的通過障害があったのだろうか
剖検と同じように異常が見つけられず終わっていた可能性があるが
通過障害の原因不明のため、試験的開腹として外科的介入すれば何か見つかったのだろうか
もやもやが残る結果となってしまった・・・
Intestinal Surgery
Vet Clin Food Anim 32 (2016) 645–671
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27614777/
今回の症例から消化管通過障害の診断・治療について勉強するために
上記の論文を読んで反省してみた
論文は腸重積、腸捻転、出血性腸症候群 (HBS)、結石による閉塞、嵌頓・ヘルニア・絞扼、回腸閉塞の各論に分かれていた
【腸重積】
・どの品種、年齢、季節でも散発的にみられるが、2カ月齢以下の子牛で多いとの報告あり (今回は妊娠後期)
・部位別発生率:小腸83.7% (遠位空腸で多い)、回結腸2%、盲結腸3.6%、結腸10.7%
・発症後24時間後には糞便減少、48時間後には腹部膨満がみられる (今回は腹部膨満は見られなかった)
・血液検査所見はHct、BUN高値、低Cl代謝性アルカローシス、低K、低Na、低Ca、高血糖、炎症性の白血球像 (今回、CaはNP、Gluはストレスよりも飢餓の影響が強かった)
・直腸検査でのソーセージ様の腫瘤、多発性の腸管拡張ループの触知 (直腸検査で宿便なし以外の著変なかった)
*筆者の経験では48時間以上たっても腸管拡張の見られなかった例もあるとのこと
・手術による回復率は100-20%と幅がある、部位別回復率だと回結腸は0%、盲結腸は90.9%
【腸捻転】
・どの品種、年齢、季節でもみられる
・妊娠や泌乳もリスク因子ではなかった (妊娠末期だったがなり易いわけではない・・・)
・血液検査所見は急速な発症と進行のため異常がみられないこともある
・異常所見がある場合、高窒素血症、低Ca、高血糖、左方移動を伴う白血球増加 (今回の所見は典型的所見とは異なるか)
・初期は正常Kと代謝性アルカローシス、循環不全・虚血性壊死へ進行すると高Kとアシドーシスになる〈予後不良〉
・直腸検査で腸管拡張による多発性ループ、緊張感のある腸間膜を触知 (直腸検査でこれらはなかった)
・多発性の金属音 (様々な部位・音程) (聴診でも著変なし)
・回復率は22-80%
【HBS:出血性腸症候群】
・リスク因子には泌乳期初期がある (今回は乾乳期)
・黒色血餅を伴うタール便 (宿便なし、血餅もなかった)
・可視粘膜蒼白 (粘膜色NP)
・腹部膨満、右腹部金属音 (どっちもなかった)
・多量の血液が喪失するが、HctとTPは正常値のこともある
・白血球の左方移動、低Cl、低K、代謝性アルカローシス、BUN高値、肝酵素高値 (概ね当てはまっている)
・内科的療法の回復率40% (2/5)
・外科的療法の回復率0-60%
腹部膨満、タール便、聴診での金属音、直腸検査での多発性ループ、腫瘤等が触知などの
外科介入へのもう一押しとなる所見が今回は見られなかった
やはり肺炎に関連した消化管の機能的イレウス?という病態だったのか
発熱もなく、肺音も顕著に悪くなかったため肺炎は疑っていなかったが・・・
重度の肺炎で食欲廃絶し、その影響で電解質が軒並み下がったのだろうか?
スッキリしない結果になってしまったのが残念