その1
2018年
彦星はヒザシという名を親から受け育った。
嘗ての記憶も失われ、今はただ、人間として生活している。
7月7日土曜日
「ビッグバン、ビッグバン・・・なんか違う気がするなぁ。」
晴天の昼下がり、ヒザシはベッドで寝転がりながら本を読んでいた。
ヒザシ「ふんー。」
ヒザシは溜息をつきながら本を絨毯の床に投げつけると、すばやく身支度を済まし、冷蔵庫からサンドイッチを取り出すと、食べながら家を出た。
向かう先は仲間の集うビリヤード店だ。
その道中、自動販売機でジュースを買おうと、財布から小銭を取り出すと、急に激しい頭痛に襲われた。
あまりの痛みに立ってもいられず、しゃがみ込むと、そのまま地面へ倒れ込んだ。
暫くすると痛みも止み、違和感を覚えながらもジュースを取り出すと、再び歩き出した。
その時、一人の女性とすれ違った。
ヒザシは、何かに気が付いた。
その一瞬の間に全ての記憶が戻り、すれ違った女性の方を振り向いた。
すると女性はこちらを向いており、優しく微笑みかけた。
「やっと会えたね。」
ヒザシ「織姫・・・。」
涙がこぼれた。
ヒザシは織姫の元へと走り出すと、力強く抱きしめた。
ヒザシ「追いかけて、あの時・・・。」
ヒザシは声が出なくなった。織姫はヒザシの頭の上に手を置くと、そっと髪を撫でながら言った。
織姫「彦星・・・どうなったの?」
ヒザシは自分が彦星である記憶は取り戻してはいたが、何を尋ねられているのか分からず、少し困惑した。
織姫「ううん、何でも無い。でも、また会えて本当に良かった。」
織姫はヒザシの腰に手を回すと、強く抱きしめた。
ヒザシの顔に織姫の髪が触れた。その瞬間、世界がスローモーションに動き出した。
自分が織姫に何かを話している。が、その内容が自分には聞こえなかった。
徐々に視界が掠れ、遂には真っ白になったかと思うと、抱き合っていた筈の織姫が目の前に立って涙を流していた。
織姫は涙を拭うと辺りを見回しながら笑顔で言った。
織姫「あー、ここじゃなんだから、直ぐそこの公園で話しましょ。」
ヒザシは今の不思議な感覚に戸惑いながらも、返事をした。
織姫はヒザシの手を取ると、公園へと歩き出した。
公園に着き、二人がベンチに腰掛けると、織姫が空を眺めながら言った。
織姫「昔良くこうやって二人で空に流れる星々を眺めたね。とってもキレイだった。」
ヒザシ「うん。あの頃の二人はとても純粋だった。でも今は、この世界で生きてきて、とても汚い心になってしまっている。」
織姫「うん。人間には命があって、始まりと終わりがある。命があるだけで様々な知識や欲望が生まれて、悩んで、苦しんで、どんどんと心が汚れていく。」
ヒザシはニヤリと笑うと、織姫の方を見ながら言った。
ヒザシ「でも、この命のおかげであの頃には知り得なかった事を沢山学べたよ。」
織姫「へー、たとえばどんな事?」
二人は人間として歩んだ18年間を語り合った。
それは、傍から見れば若いカップルが何気ない日常会話をしているようで、一様の風景に溶け込んでいた。
暫くすると、織姫が思い出話での笑い涙を堪え、軽く涙を拭いながら言った。
織姫「何だか、この世界に来た事も悪くないかなって思えてくる。今、この瞬間なんかは特に。」
ヒザシ「うん。・・・あ、そうだ!織姫は見つけられたけど、どうやってあの空へもどろう・・・。」
ヒザシは空を見上げた。
織姫はヒザシの手を取ると、力強く握って言った。
織姫「あっちにおいしいケーキ屋さんがあるから、それ食べながら考えよ。」
ヒザシ「うん。」
織姫は立ちあがると、元気良く走り出した。
ヒザシ「危ないぞ。この世界には危険がいっぱいだからな!」
ヒザシは踊る心を抑えながら、織姫の後に付いて行った。
織姫はそのまま走りながら公園を出ると、先に道路を横断し始めた。
ヒザシは織姫の後ろ姿を眺めながら、昔の事を思い出していた。
そして公園の入り口に差し掛かると、またさっきと同様に、急に世界がスローモーションに動き始めた。
ヒザシ「なん・・・なんだ・・・これは。」
今回激しい頭痛にも襲われた。
そしてまた同じように、自分が何かを織姫に話している。
何を言っているのか聞き取れない。が、右側から甲高い機械音が微かに耳に入ってきた。
パァァァァァァアアアアアア
ヒザシ「危ない!!」
ヒザシは織姫の方に手を伸ばした。
織姫はこちらを振り向くと、微笑みながら言った。
織姫「大丈夫だよ。」
次の瞬間、鈍い大きな音が織姫をさらい、目の前から姿を消した。
ヒザシは道路へと歩いて出ると、織姫をさらった方を向いた。
その先の交差点では大きなトラックと普通乗用車が衝突しており、辺りは静まり返っていた。
ヒザシ「そんな・・・。」
ヒザシの足元にガラス片が転がって来た。
ヒザシはそのガラス片を拾おうと、地面に手を伸ばした。
と、突如後ろから大きな衝撃に襲われ、意識を失った。
交差点では、3台の車が大事故を起こしていた。
2000年1月1日
アメリカの郊外に一人の男の子が誕生した。
序
と、いうことで、熱い要望に応え、今から考えながら小説を書きます。
題名 「」は最後に考えまっす。
宇宙も遥か遠い星に、今、織姫と彦星が小さな星に腰掛け、広い宇宙を見下ろしている。
織姫「そらって広いね。どこまでも続くよう。」
彦星「うん。僕たちの時間もずっと永遠だよ。このままね。」
織姫と彦星の出逢いは遥か昔、天地開闢の機に光の中で邂逅し、今も尚、二人は輝き続け、宇宙、この空を永遠に歩いている。
二人でいれば迷いもない。不安もなければ心配もない。命の儚さを知る事もなく、ただずっと、二人は一緒にこの空を眺めている。
織姫「あっちの方で流れ星が沢山あるよ。見に行こうよ!」
彦星「ホントだ!行こう!」
彦星は織姫の手を取り、星から星、宇宙を駆けて流れ星を見に行った。
織姫「キレイだね。青い星や赤い星、キラキラしてる。」
彦星「あ、あそこ、黄色いのもあるよ。」
織姫「ホントだ。初めて見た。乗れるかな?」
彦星「ダメだよ!流れ星には乗っちゃいけないって神様に言われたんだから。怒られるよ。」
織姫「大丈夫。ちょっとだけだって神様にお願いしたから。」
彦星「神様は何て言ったの?」
織姫「少しだけならいいよって。
彦星「う~ん。ならいいかな。」
織姫「大丈夫だって。ちょっとだけ。」
彦星「じゃあ、いってみようか。」
黄色い星は静かに、次第に速度を増すように空を流れていた。
彦星「追いついた!僕が前を押さえてるから、乗って。」
織姫「うん。」
彦星は黄色い星の前に回り込み、力強く支えこんだ。
すると黄色い星は減速し、やがて停止した。
彦星「いいよ。乗って。」
織姫は黄色い星の輝きに見とれながら、ゆっくりと星に腰かけた。
すると、黄色い星は輝きを失い、黒く光りだした。
彦星「なんだろうこれ。なんだか嫌な予感がする。」
織姫「なんだか怖い。降りる。」
織姫が降りようとしたその時、急に黄色い星は彦星を押しのけ、もの凄い勢いで飛び始めた。
彦星「織姫!!降りろ!!」
彦星は咄嗟に叫んだが、織姫は怖がり、星にしがみ付いている。
黄色い星は更に速く、彦星も追いつかないまでに速度を上げた。
彦星「織姫!!」
織姫「彦星!!」
彦星は必死に追いかけた。やがて星の川に差し掛かると、彦星はつまずき、転んでしまった。
彦星「おりひめええええええ!!」
黄色い星は黒い光を空に残しながら、遥か彼方へと織姫を連れ去った。
彦星は動けなかった。幾千もの時を共に跨いできた織姫が、不意に自分の目の前から姿を消し、何故だか、もう二度と戻らない気がしたからだ。
彦星「織姫・・・。」
黄色い星は更に速度を上げてゆく。織姫は後ろを振り向いた。しかし、そこに彦星の姿はない。
織姫はしがみつく黒くなった星に恐怖したが、あまりに速すぎて手を離せなかった。
織姫「彦星。」
黒い星は無限の時を駆け、やがて黒く朽ち滅びた時、一つの大きな星へと到着した。
深紅の大きなこの星は、どこもかしこも穴だらけで、まともに歩く事さえ困難であった。
織姫は彦星の元へ戻ろうと、空へ跳ねた。
しかし、深紅の星は、織姫を離さない。引き戻されると、強く身体を打った。
織姫「ここ、どこなんだろう。」
織姫は辺りを見回した。何もない。近くに別の星さえ見当たらない。
織姫は涙を堪え、その星を歩いて回った。
織姫「私のせいだ。私が神様にお願いしたなんて嘘言ったから。」
織姫は、闇雲に紅い星を歩いた。
すると突然一つの穴が大きな口をあけ、織姫を飲み込んだ。
織姫は為す術もなく、穴に転げ落ちて行った。
彦星は神の元へと急いだ。どの流れ星よりも早く。
神殿に辿りつくと、神にこれまでの旨を伝えた。
神「流れ星に乗ってしまったか。前にも言ったが、それは大罪とされ、この世界から姿を消す事になるだろう。」
彦星「どうにかして助ける方法はないんですか!」
神「うむ。一つだけ、可能性として残されているに過ぎないものはあるが、止めておけ。」
彦星「あるのですね?ならば教えて下さい!!」
神「二度とここに戻っては来れぬかもしれんぞ。それに、お前も同じ大罪を被る事となる。空をどこへでも舞うその翼は失われ、織姫を想うその気持ちすら失われるかもしれん。」
彦星「いえ、織姫を想う気持ちは決して消えません!たとえこの命が失われようとも!」
神「そうか。それほどまでの想いがあるのならば、僅か可能性はあるかもしれん。この神殿の裏に黄金に輝く井戸がある。そこには天使が作り出す聖水が蓄えられておるのだが、その聖水を飲めば、彦星も織姫と同じ大罪を被る事となるだろう。」
彦星「ありがとうございます。では、行ってきます。」
神「うむ。必ず戻ってこいよ」
彦星「はい。」
彦星は神殿を出ると、急いで裏へと回った。そこには、言われた通りに輝く井戸があった。
彦星は聖水を汲み上げ、目をつむり、それを徐に口に付けた。
彦星は目を開けた。何も変わっていない。
しかし、直ぐに空は暗くなり、黒い天使が舞い降りてきた。
怒った天使は彦星を摘まみ上げると、井戸の中へと放り投げた。
天使は次第にその姿を戻すと、神の元へと急いだ。
天使「神よ、これまでの織姫と彦星の行いを全て見ておりましたが、本当にこれで良かったのでしょうか。」
神「うむ。織姫は既にこの世界にはおらぬ。して彦星があのような姿勢であれば、致し方あるまい。」
天使「たとえ人間界に堕ちようともですか?」
神「彦星は自らそれを望んだ。ただ、信じよう。」
2000年1月1日、日本某所にて新たな生命が産声を上げた。
その顔付きはどこか織姫に似ており、今はただ、泣き喚いている。
時を同じくして別の場所、彦星の命が人間として産み落とされた。
ここから壮大な物語が幕を開ける。
~完~
