岡村靖幸 LIVE SPECIAL 『年末年始 岡村クンと過ごそう』
 
文●宇都宮美穂
撮影●三浦麻旅子

'90年12月30・31日、'91年1月2日~6日。パルコ劇場を突然襲ったライブ報告!

 岡村クンはちっとも気がついていないようだが、ワタシは岡村クンのライブをものすごーく、ものすごーく楽しみにしていた。
昨年はまったく(本当にまったく)ライブをやらなかったから、おかげで腹が立ってしょうがなかった。友人、知人のあらゆる人々に岡村クンへの罵詈雑言の限りを尽くしたと思う。ワタシの愛は、怒りで表現されるのだ。どーだ、ゆがんでるだろー。

 だがしかし。ワタシとしたことが。実家より東京へ戻った新年の5日。アフリカの色とりどりの首飾りをいくつもつけて、ワタシなりのゴージャスを演出して、いそいそとパルコ劇場に出かけたはいいが、なんとそこに人影がまったくない。
 シーン。なんとなくまずい気がする。もしかして相当まずい気がする。内心穏やかでないワタシに、受付のオジさんがこう言った。
「開演は毎日5時からですよ」
 クラクラクラ~ズリズリッ。←立ちくらみして後ずさりする音。あげく、チャリチャリッ。←首飾りが揺れる音。

 このときほど、業界ズレした自分を呪ったことはない。インビテーション・カードも確かめず、7時だと勝手に思い込んでいたのだ。もしも自分の手でチケットを取った人なら、こんな間違いは絶対にしないはず。ワタシの岡村クンへの思いは案外不純だ。ガク然。
「ごゆっくり」というオジさんの皮肉を背中にしょって、アンコールだけ見て帰る。明日出直すんだもーん。立ち直りの早いワタシだ。

 そうして6日がやってきた。今日は準備万端。20分前からスタンバッてるぜ。ロビーで、次から次へとやってくるお客さんをボーッとながめる。やがて頭によぎる疑問。なぜ岡村クンのファンは、業界ギャルが多いのだろう。なぜ岡村クンのファンは、お姉さんが多いのだろう。みんな、「シロートじゃないわよっ」と、そのルックスで言っている。みんな、岡村クンよりいろんなことを知ってそうだ。それなのに、"家庭教師"が必要なんだよねぇ。わかるわっ。

 なにしろ、"年末年始 岡村クンと過ごそう"だから、BGMが琴曲でも驚いてはいけない。うっとりと耳を澄ましていると、これから始まるのが寄席に思えたりもするが、始まったのはロックのコンサートだ。

 白い布幕にシルエットが浮かび上がる。そして、ダンス。左右に幕が引かれて、「Peach Time」。ワタシはレコードのスピーディな展開が好きだが、今日はリズムが重ためで、ゆるゆるきたかと思うとストンと落とす。で、いきなり「Jamping Jack Flash」のフレーズが乱入してくる。岡村クンのハウスか!?なんだかよくわからないがムチャクチャ、カッコいい。
 ベースの人が叫ぶ。「諸君!今年はオマエの実力をあの娘に見せてやれー!」
 威勢だけはいいんだ。岡村クンて人はいつも。

 (E)naではホーン・セクションがバーンッと前に押し出され、ボーイズ・ダンサーとともに岡村クンもダンスしまくり。芸風、ちょっと変わったかも。ちょっと東洋的。などと思っていたら、Tシャツを脱ぐ!男マタハリ出現である。やがてなぜか紺のセーターを着て好青年を装うと、あの「家庭教師」のイントロが。

 書けない。ワタシのような未熟者には、どうしてもその場の様子を表現できない。勉強机に蛍光灯。それだけを相手に、家庭教師となってエリコちゃん宅を訪れた岡村センセーのドラマ(?)を作り上げるアナタはやはり天才。ここはセリフを借りよう。
「あ、お母さんですか!?あ、ケーキなんか出してもらっちゃってどうもスイマセン。オーイシーッ。スッゴイ、オイシー。お母さん、コレ、ティラミスですかあ!?」
「エリコちゃんは何がわかんないのかな?歴史?世界大恐慌の年は知ってる?それはね、1929年。覚えやすい読み方はね、1929(いっくにく)。ひとつ苦しい、ふたつ苦しい。昔から世界は苦しいことばっかりだったんだねーっっ」
 そしてその後の展開は、「キャーッ」「もっと脱いでーっっ」「肌がキレイーッ」などのお客さんの悲鳴で推察していただきたい。

 ワタシは涙がにじんだ。それは単に笑いすぎという説もあるが、なにか、ようやく本物の岡村クンに会えた気がしたからだ。いくら取材をしても、雑誌を読んでも、そこでの岡村クンにはあまりリアリティがない。たくさん、岡村クンの曲を聞く。たくさん、岡村クンのライブを見る。それしかない。岡村クンは天上の人なので、普通の方法ではコミュニケーションがとれない。 

 「Vegetable」では、ストロベリー・パイが投げられた。「イケナイコトカイ」では赤いバラが投げられた。こんなにしてもらってスイマセン。遠い席からワタシはファンを代表して恐縮した。新たにアレンジされた数々の曲。それらのバラエティに富んだ構成、身体も精神も、まるごと投影する岡村クンの歌、ダンス、演奏。おまけに寸劇(?)まで見せてもらっちゃって。しかもそれらのすべてが爆発している。

 ロックだなんて、今更呼ばれたくないかもしれない。岡村クンのやっていることは岡村クンそのものであって、何かに例えられる必要はないだろう。けれどワタシはこの爆発するエネルギーは、固定概念や常識を破壊するパワーは、ロックだと思う。スリリングだ。ドキドキする。自分がどこかに持っていかれそうな気がする。いや、どこかに持っていかれたいんだ、きっと。業界ギャルやお姉さんだって同じだろう。でも、どこに?

 「どぉなっちゃってんだよ」で本編が終了。アンコールは当然、鳴りやまず。2度、3度とアンコールに応える岡村クンは、本当に、出てくるたびに輝きが増して、最後は真っ白になってしまった。


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1991年3月号のGBでした。

1990年末~1991年初に行われた『年末年始 岡村クンと過ごそう』は、『LIVE「家庭教師」'91』と、曲順や構成が同じだったようです。(このライブの完成形が、『LIVE「家庭教師」'91』なのかな?)


この『年末年始…』は、岡村君のダンスを見せる、という趣旨で行われたライブだったみたいです(@会報誌)。

チケットを全て取ったつわもののファンもいたとかで・・・。

そうそう。お姉さんが多いライブだったんですよ。

この文章の最後の『真っ白になってしまった』はなんだろう~とずっと思っていましたが、ライブの演出的にライトが真っ白だった、ということと掛けているんですね。


宇都宮さんは岡村君と長い付き合いをされていましたが、それでも『リアリティがない』っていうのが、ちょっと意外な感じがしました。

でも、ライブの感じとか、岡村君の特徴に関する表現の仕方がいいなぁ、なんて思います。宇都宮さんは、本当に岡村ちゃんのファンだったのでしょうね。


ティラミス、に時代を感じます(笑)。←当時一番バブリーでナウい(死語)お菓子でした・・・。

■Wikipedia『ティラミス』