初音 ミク(はつねミク、HATSUNE MIKU)とは、クリプトン・フューチャー・メディアから発売されている音声合成・デスクトップミュージック(DTM)ソフトウェアの製品名、およびキャラクターとしての名称である。

ヤマハの開発した音声合成システム「VOCALOID2」を採用したボーカル音源の1つで、メロディと歌詞を入力することで合成音声によるボーカルパートやバックコーラスを作成することができる。また、声に身体を与えることでより声にリアリティを増すという観点から[1]女性のバーチャルアイドルのキャラクターが設定されている。

概要

初音ミクは2007年8月31日にクリプトン・フューチャー・メディア(以下クリプトン)から、ヤマハの開発した音声合成システム『VOCALOID2』を採用した女声の歌声を合成するMicrosoft Windows専用のソフトウェア製品として発売された。声に歌い手としての身体を与えることでより声にリアリティを増すという観点からソフトウェア自体をバーチャルアイドル(バーチャルシンガー)と見立ててキャラクター付けしている「キャラクター・ボーカル・シリーズ(CVシリーズ)」という製品シリーズの第1弾であり、初音ミクは「未来的なアイドル」をコンセプトとしてキャラクター付けされている[1]。名前の由来は、未来から初めての音がやって来るという意味で、「初めての音」から「初音」、「未来」から「ミク」[1]。発売元のクリプトンはキャラクター画像については非営利であればほぼ自由な利用を認めており、ユーザーによる歌声の利用だけでなくキャラクターを用いた創作活動をも促進する形がとられている[2]。なお、製品においてはパッケージとインストールディスク、インストール画面以外にはキャラクターの姿は描かれていない。


音ミクとネギ

ネギは初音ミクにとっての定番アイテムとしてファンの間で広く受け入れられている。これは派生キャラクターのはちゅねミクを生み出した動画『VOCALOID2 初音ミクに「Ievan Polkka」を歌わせてみた』でミクに長ネギを持たせていたことから広まったとされる[37]。『VOCALOID2 初音ミクに「Ievan Polkka」を歌わせてみた』は「ロイツマ・ガール」と呼ばれる世界的に流行したMADムービーのパロディである。ロイツマ・ガールはフィンランド民謡のイエヴァン・ポルッカの音声に日本のテレビアニメ『BLEACH』の登場人物である井上織姫が長ネギを回す映像を組み合わせたもので(詳細はロイツマ・ガールを参照)、この流行に触発された Otomania が初音ミクで音声部を作成、これに たまご がデフォルメしたミクがネギを振る動画をつけた[37]。ロイツマ・ガールとはネギの動かし方が異なるが、これは両者の連絡の手違いによるもので[38]、たまご は元のMADムービーを知らなかったのが原因であるという[39]。

公式設定ではないものの、ファンによる創作物のみならずフィギュアに付属アイテムとして持たせるといったような形で、関連商品にも広く取り入れられている。
インターネット上を中心に、初音ミクが「歌っている」歌という形をとった[3]、あるいは初音ミクを題材とした、数万曲に上るとされる[4]楽曲や、イラスト、CGによるプロモーションなど様々な作品が発表されており、初音ミクはこうした多くのユーザーの手による多彩な創作物から形づくられる、消費者生成メディア(CGM)により成立している女性アイドルという性格を持つ[5]。ユーザーによる創作物の中には、キャラクター利用の許諾を受けた上でCD、書籍などの形で商業展開が行われているものもある。また、キャラクターとしての人気の高さからゲームソフトやキャラクターフィギュアなど企業の企画からなる関連商品も多数発売されているが、それらについてもフィギュアにアイテムとしてネギ(初音ミクとネギを参照)を付属させるなど、ユーザーによる創作から広まった流行を取り入れることも行われている。

製品

本ソフトは2007年8月31日の発売直後より作成された楽曲やキャラクターイメージを用いた動画がニコニコ動画をはじめとする動画投稿サイトに次々と投稿されたことで人気に火がつき、DTMソフトウェアとしては異例のヒット商品となった。DTMソフトウェアのジャンルでは年間1,000本売れれば大ヒットとされるが発売後2週間だけで3,500~4000本の売れ行きを見せた[6]。発売から3週間後にはサウンド関連ソフト内での一週間の販売シェア(BCNによる集計、楽器店やネット通販の売上げ数は含まれない)が30%を超え[7]、最も高い時期には60%以上を占めている[8]。体験版を収録した「DTMマガジン」(寺島情報企画)2007年11月号は通常より相当数を発行したにもかかわらず3日で完売したうえ、一時ネットオークションで高騰する事態となった[6]。その後、発売から約一年後の2008年9月までに累計で約4万2000本の売り上げを記録している[9]。なお、こうした売り上げには、実際の音楽製作に使用しないキャラクターのファンとしての購入者によるものも多くを占めるとされる[9]。2010年4月30日には表情付けの異なる6つの歌声を収録した拡張音源パック『初音ミク・アペンド(MIKU APPEND)』も発売されている。

ソフトウェア
歌声の入力が可能なシーケンスソフトに用いられるピアノロール表示の例[注 1]。初音ミクのVOCALOID Editorは図のものと同様、ピアノロールの音符の中に歌詞を入力することで歌を表現する。

「VOCALOID」も参照

「VOCALOID2」エンジンを採用した初めての日本語用ソフトであり、新エンジンの採用により従来のVOCALOIDシリーズと比べより自然な歌声が合成できる様になっている。元々の『初音ミク』のパッケージに収録されている音声ライブラリは1つであるが、2010年4月に発売された『初音ミク・アペンド』でそれぞれ表情付けの異なる追加音声「Sweet」、「Dark」、「Soft」、「Light」、「Vivid」、「Solid」の6つのライブラリが提供され[注 2]、初音ミクのライブラリは合計7つとなっている[14]。なお、『初音ミク・アペンド』を使用するにはオリジナルの初音ミクがインストールされている必要があり、アペンドのみで使用することは出来ない[14]。音声には得意な曲のジャンルやテンポや音域(プロフィールを参照)が設定されているが、これらはあくまで目安であり、実際は非常に広い範囲で歌えるとしている[15][16]。ただし、初音ミクの歌手ライブラリは日本語歌詞の入力を前提とした五十音ベースのものとなっており、英語の歌詞の表現には難がある。また、他のVOCALOID製品同様、歌唱に特化した音声合成ソフトウェアであるため台詞を歌劇のように歌わせることは容易でも自然に「喋らせる」ことには対応していない[注 3]。

CVシリーズでは歌手ライブラリのベース音声に音楽業界関係者からの起用が順調にできなかったという事情や特徴ある声を求める狙いなどから[1][18]声優の音声を収録しており、初音ミクでは藤田咲が起用されている。クリプトンは初音ミクを制作するに当たり約500人の声優の声を聴きこみVOCALOID2に適しかつかわいらしい声であることを基準に藤田を選んだという[18]。なお選定に当たっては演じてきたキャラクターのイメージの影響を受ける懸念から有名声優は避けられており[18]、藤田は当時とりたてて有名だったわけではなくむしろ初音ミクに声を提供したことで名が知られた[19]。藤田の声はVOCALOIDの仕組みとの相性が良いと言い[20]、初音ミクはVOCALOID製品の中でも扱いが容易な製品となってる[21]。

キャラクター

キャラクターデザインはイラストレーターのKEIによるもので、髪は青緑色、髪型はくるぶしまで届く長さのツインテールで、黒のヘッドセットを装着している。衣装は襟付きノースリーブの上着にネクタイ、ミニスカートにローヒールのサイハイのブーツ、黒を基調として所々に青緑色の電光表示をあしらっている。左上腕部には赤色で「01」のサインが入るが、これはキャラクター・ボーカル・シリーズで最初に発売された製品であることを表す。初音ミクのデザインは、ヤマハのシンセサイザー・DX7をモチーフとしており[22][注 4]、これは1983年に発売されデジタルシンセサイザーの普及に貢献したヒット商品であるDX7にちなみ、初音ミクも一時代を築いて欲しいとの願いを込めて、ヤマハの担当者を説得した上でデザインに取り入れたものであるという[24]。また、後述の公式プロフィールにあるように年齢、身長、体重も定められている。

キャラクター設定については、キャラクターを色付けしすぎないことも考慮されており、企画時には考えられていた背景設定[注 5]なども採用は見送られ、最低限のプロフィールだけとなっている[26]。また、発売後ブームとなってからはキャラクターを用いた作品の商業展開(メディアミックスを参照)も行われているが、ユーザーによって作られる創作物についてはユーザーの好きなイメージの初音ミクがそれぞれ存在しているという状況があり、そうして拡散した初音ミクのイメージを収束させてしまう懸念から「初音ミクの公式コミックスを作ったり、公式アニメにしたりすることは考えていない[5]」としている。キャラクターデザインを行ったKEIの手がける漫画作品「メーカー非公式 初音みっくす」もタイトルにあるように「非公式」という扱いになっている。ユーザーの創作から生み出されたものの中には後述の「ネギ」のように広く受け入れられ、関連グッズなどの商業展開に取り入れられた例もあるが、これも公式設定に組み入れられているわけではない。2010年4月に発売された『初音ミク・アペンド』のパッケージでは初音ミクがその流行の中で様々な絵師によって描かれてきたことを踏まえ、特定の絵師が描くのではなく、フィギュア原型師の浅井真紀がデザインした3Dのフィギュア「Miku(Zero-Vocalist ver)」にイラストレーターの ねこいた が着色をする、という形がとられた[14]。

キャラクターの利用

詳細は「キャラクター・ボーカル・シリーズ#キャラクターの利用」を参照

初音ミクは発売後キャラクターとしても人気が出たことからキャラクターをモチーフにしたイラストやアニメーションの作成といったファンによる二次創作が盛んに行われた。そうした状況に応える形で「ピアプロ・キャラクター・ライセンス(PCL)」とそれに基いた「キャラクター利用のガイドライン」が定められ、ライセンスの内容に沿ったものであればキャラクターを用いた非営利無償の範囲での二次創作活動が公式に認められているほか、非営利、有償の二次創作物の頒布のため「ピアプロリンク」という仕組みが提供されている。ただし、キャラクターのイメージを損なうような行為などについては規制されており、実際に成人表現を含む二次創作物などに対する対応が行われたケースもある[27]。

なお、キャラクターの名称や画像を用いない楽器としてのみの利用の場合は公序良俗に反する歌詞を含むなどの一部の例外を除き、商用・非商用問わず使用は制限されていない。

プロフィール

初音ミクについては以下のようなキャラクター設定、得意ジャンルなど公開されている[15][16][28]。

* 年齢:16歳
* 身長:158cm
* 体重:42kg

デモソング

公式ページ[16]でデモソングの試聴ができるようになっている。なお、「星のカケラ」についてはフルバージョンが公認ヴォーカルCDとして販売された。

* 『初音ミク』のデモソング
1. 星のカケラ / (0分51秒) / 作詞・作曲・編曲:平沢栄司
2. かくれんぼ / (1分53秒) / 作詞・作曲・編曲:クロキヨースケ
3. (名称不明 0分53秒)
* 『初音ミク・アペンド』のデモソング
1. 夜の虹 / (1分38秒、「solid」「sweet」使用) / 製作者:whoo
2. shoelace / (1分33秒、「vivid」使用) / 製作者:ドッP
3. 影踏み / (1分32秒、「dark」「soft」「sweet」使用) / 製作者:kous
4. 私らしさ / (1分46秒、「dark」使用) / 製作者:k-shi (けしスタジオ)
5. chocolat / (4分13秒、「sweet」使用) / 製作者:chiquewa
6. ハニビー! / (1分42秒、「Light」使用) / 製作者:もじょP

主な受賞歴

* 第13回AMDアワード年間コンテンツ賞・優秀賞(デジタルメディア協会、2008年3月10日)
* 第39回星雲賞自由部門(日本SF大会、2008年8月24日)
* 第13回アニメーション神戸賞・作品賞・ネットワーク部門(アニメーション神戸、2008年11月2日)
* 2008年度グッドデザイン賞(日本産業デザイン振興会、2008年11月6日)

反響

発売前の反応


発売前にはクリプトンの公式サイトやブログ上で、デモソングやキャラクターデザインの公開が行われたが、当初は「萌え」を前面に押し出したイメージ戦略に対して買いにくいといったような否定的な反応も寄せられ、また、大手DTM雑誌からも製品の紹介を断られたという[22]。初音ミクは発売後約一年間で4万本以上を出荷することになるが、当初の販売目標は2007年内に1000本であった[29]。しかしその一方、初音ミクの流行の起点となるニコニコ動画では同じクリプトンの販売している先代の合成エンジンVOCALOIDを使用した製品「MEIKO」を使用した動画が投稿され一定の人気を集めており、クリプトンも発売後の大ヒットは想定外だったが、初音ミクを使用した動画がニコニコ動画に投稿されること自体は予測していたとしている[27]。初音ミクはMEIKOユーザーの間では大きな話題となり[30]、ニコニコ動画には発売日を待たずに公式サイトで公開したデモソングを利用した動画が投稿されていた[29]。

インターネット上での流行


2007年8月31日に初音ミクが発売されると初音ミクを用いた動画が動画投稿サイトに次々と投稿された。それらの中でも特に9月4日にニコニコ動画に投稿されたロイツマ・ガールのパロディ動画『初音ミクに「Ievan Polkka」を歌わせてみた』は大きな支持を集め、初音ミク人気の発火点となった[27]。この動画は初音ミクの歌声によるIevan Polkkaとデフォルメされた初音ミクが長ネギを振る映像をあわせたもので、初音ミクの定番アイテムとしてネギが定着するきっかけとなる(初音ミクとネギを参照)、派生キャラクター「はちゅねミク」が誕生するなど後に対し大きな影響を与えている。クリプトン側は後にこのはちゅねミクの登場について「創作ツールとしての初音ミクは何でもありだと直感してもらえただろう。可能性が思いっきり拡散して、本当に良かった[27]」と評価している。こうした動画がニコニコ動画やYouTubeで人気となり、それを見た視聴者が初音ミクを購入、新たな動画を投稿するという好循環により初音ミクの人気は膨らんでいった[1]。特にニコニコ動画は動画の視聴者が動画上にコメントを載せることができることを特徴としており、そうした視聴者の反応が得られることも投稿者のモチベーションを刺激した[31]。

投稿される楽曲の傾向は、発売当初は既存の楽曲を初音ミクに歌わせたカバー曲が多くを占めていたが徐々にユーザーが作詞作曲を行ったオリジナル曲の割合が増えてゆく[31]。当初のオリジナル曲については、9月20日に投稿されて大きな人気を集め、ニコニコ動画で一時は最も再生回数の多い動画にもなった[30]「みくみくにしてあげる♪【してやんよ】」のような歌うソフトという初音ミクの立場に立った歌詞の楽曲が多かったが[31]、同年の末にかけては12月7日にニコニコ動画へ投稿され大きな人気を集めたラブソング「メルト」のように普遍性のある楽曲が増えていった[30]。また、ブームの広がりとともに「MEIKO」や男声VOCALOIDの「KAITO」にも注目が集まるようになり[30]、12月27日にはCVシリーズの第2弾「鏡音リン・レン」も発売され、初音ミクだけでなく他のVOCALOIDをも巻き込んだムーブメントとなっていった。ニコニコ動画で初音ミクを使用した楽曲を発表している作家はアマチュアだけでなくプロの作家が楽曲を発表している場合もあり[32]、また2008年以降はlivetuneを皮切りに、ニコニコ動画で初音ミクを使用した楽曲を発表し人気となった音楽家が、初音ミクを使用した楽曲でメジャーデビューを果たすケースが見られるようになっている。2010年5月には動画サイトで人気となった楽曲を集めたコンピレーション・アルバム『EXIT TUNES PRESENTS Vocalogenesis feat.初音ミク‎』が、2011年1月には『EXIT TUNES PRESENTS Vocalonexus feat.初音ミク』がオリコン週間アルバムチャートで1位を獲得している。

ニコニコ動画では初音ミク発売当初より初音ミクで作成した楽曲以外にも様々な初音ミクに関連した動画が投稿されている。ニコニコ動画上では初音ミク発売以前より別のユーザーが投稿した動画を利用して新たな動画を作るといったことが盛んに行われており、初音ミクを用いた動画からもそうした動画が数多く生み出され[33]、初音ミクで作成された楽曲にPVを付ける、あるいはその楽曲を歌う、演奏するといったように様々な広がりを見せている[30]。また、有志の手により、週ごとにニコニコ動画上で人気の楽曲を紹介する「週刊VOCALOIDランキング」などのランキング動画も投稿されている[34][35]。

こうした創作活動の盛り上がりを受けクリプトンは、2007年12月3日にキャラクターの利用に関するガイドラインを公開すると共に、二次利用可能なコンテンツの投稿サイト「ピアプロ」を開設しクリエイターの創作活動を後押しする体制作りを進めている[36]。

カラオケ配信

初音ミクを用いて発表された人気楽曲の幾らかは楽曲の業務用カラオケでの配信が行われている。まず「JOYSOUND」において『みくみくにしてあげる♪』(歌手名『ika_mo feat.初音ミク』)の2007年12月8日からの配信と『恋スルVOC@LOID』(歌手名『OSTER project feat.初音ミク』)の2007年12月15日のからの配信が決まり[89]、その後も初音ミクを用いて発表された人気楽曲が次々にカラオケ配信されている[2]。

主演ソフト

初音ミク -Project DIVA-(セガ)
初音ミクコンシューマソフト初主演。2009年7月2日にプレイステーション・ポータブル用が発売。2010年1月現在はアーケード版の開発が行われており、2010年1月にはロケテストが行われ[90]、同年6月23日に稼動を開始。また、同年7月29日には「2nd」が発売された。
初音ミク ボカロ×ライブ!(クリプトン)
プロデューサーとして初音ミクをはじめとするVOCALOIDのキャラクターを育成する携帯電話向けの育成型シミュレーションゲーム[91]。モバゲータウンで2010年5月20日より[91]、GREEで同年8月10日より[92]提供されている。