休日。
朝食を終えて少し柔らかめのソファーに埋もれながら読みかけていた小説を読む静かな朝。
「何勝手に人の色鉛筆使ってんのよっ!!」
あぁ、また始まった…。
読んでいた小説で顔を伏せ眉間にシワをよせた。
ここ最近、休日になると朝から姉妹喧嘩が始まる。
喧嘩の原因もくだらないのだが、子供というのはとかくそういうものだと思っている僕は、「うるさいっ!!」などと一喝したりはしない。
ただ黙って姉妹喧嘩を傍観するのだが、これがなかなか面白い。
「ねぇ?聞いてんの?ヒトノイロエンピツカッテニツカウナってんでしょっ!!」
と、
今年小学生になったばかりの長女は声を荒げるが、ただ単に荒げるのではなく、自分が今何に対して怒っているのかを相手に明確に伝える為、大事な部分は落ち着いた静かな声で言う。声の強弱をうまく使うあたりはさすが小学生といったところだが、それに対して次女も、
「いいでしょっ!!減るもんじゃなしっ!!」
と、
目茶苦茶な事を大声で言い放つあたりが保育園児らしくてカワイイ。
親として中立でなければならないのだが、どうしても長女より2つ年下の次女を応援してしまう。
しかし、当然そんな理屈は通るワケもなく、
「はぁ?アンタが茶色ばっかりバカみたいに使うからホラ、見なさいよコレ!!」
そう言って長女は、次女から取り上げた茶色の色鉛筆をケースに戻して見せた。
確かに茶色だけ他の色鉛筆と比べて半分程の長さになっている。
次女は悲しい現実を突き付けられ、直前に「減るもんじゃなし!」と言ってしまった自分に恥じてか、半笑いで「うるさい!」と言うのが精一杯だった。
思えば確かに次女はバカみたいに茶色を多様する。
つい先日、【父の日】という事もあり、保育園で書いてきた父親の似顔絵でもほとんど茶色がメインだった。
僕はどちらかというと日に焼けても赤くなるだけで、むしろ色白なのに、次女の似顔絵は完全に【松崎しげる】だった。
しかも、似顔絵の上に次女の文字で「おつとめごくろうさま」と書かれてあり、知らない人が見たら、服役していた黒人の似顔絵にしか見えないだろう。
なぜ次女は【はだいろ】を使わなかったのか?
サングラスでもかけて書いたのか?
はたまた、父親を色メガネでみているのか?
色んな疑問があったが、ただ次女が自分を想って書いてくれたというだけで嬉しかったのを覚えている。
そんなつい先日の余韻に浸っている間も、姉妹喧嘩は続いている。
「もう、アンタなんか妹じゃないっ!!」
そう切り捨てた長女に、
「じゃあ、弟でいいわよっ!!」
と、相変わらずワケのわからない返しをする次女。
長女の言う様に、次女の書いた父親の似顔絵が本当に似顔絵なら、次女は妹でも弟でもないし、ただ【黒人の娘】という存在だろうなと思った。
長女も全くかみあわない次女との口論に嫌気がさしたのか、
「もう、知らない!あっち行って顔も見たくない!」
と、喧嘩に終止符をうつが、
「じゃあ、ドコなら見るのよっ!!」
と、相変わらずかみあわない次女は、もはや感情を逆なでするスペシャリストだ。
いや、感情テロリストに近い。
その後、完全に無視をきめこむ長女に、
「ドコなら見るのよ?!」
と、しつこく聞いたり、
「あっ!!今見た!今顔見た見た!!」
と、更に追い撃ちをかけ完全に次女のペースになったが、ついに長女がブチ切れ、
「足でパンチしてやるっ!!」
と、長女も壊れ始めたので止めに入る事にした。
午後。
昼食を食べて朝の戦いに疲れたのか、二人共ぐっすりと眠ってしまった。
小さな戦士達の寝顔はとても可愛くて癒された。
ふと、朝次女が長女の色鉛筆で何を書いていたのか気になり見てみると、そこには「おつとめごくろうさま」と共に、茶色い妻が描かれていた。
「夫婦そろってかいw」と小さくツッコんで、あぁ~、やっぱりコイツは僕の子供だなと思った。
そして妻だけが【はだいろ】じゃなくてよかったと、そっと胸をなでおろしたごくありふれた休日。
