多忙な月をすごしたりメインブログのほうに力をいれすぎててまったく更新できてませんでした

ひさしぶりの更新です すいません


-1-


「沙良!?」


少し声が上ずった。


「おはよう」


静かに返事がかえってくる。


なぜ、ここに沙良が・・・?

でも、そのことを聞きだすことができない。なぜか聞いてはいけないような気がして・・


「これだよ『仁胡祭祀記』」


表紙の文字が消えかけて、とても何を書いてるか読み取れないほど古い書物

風化の影響で、ところどころ紙も破けてそうだった


「多分、見つけられないんじゃないかって思って・・・先に来てたんだよ」


沙良が笑う。でも、何かの違和感。とても冷ややかな笑い。マネキンのような笑み・・・

そこにまるで魂がこもっていないような、血液の流動がないような、そんな無機質な笑み


ぼくはただ無言で受け取ることしかできず、沙良の視線を避けるようにそそくさと椅子に座って書物を開いた


「じゃあ、私は帰るね」


「え?もう帰るの?」


「うん、、用事は済んだし、、、それに」


「それに?」


「私がいたら読みづらいとおもうから その書物」


「それってどういう・・」


「じゃ、また夕方に村でね」


ぼくの言葉を遮って、さっきとはまったく違う屈託のない笑顔でさよならを言った沙良は、振り返りもせずに足早に出て行ってしまった


-2-


軽く1時間ほど読み進めた とりあえず江戸時代末期あたりか明治時代初めあたりの部分までは読めたと思う


正直、本当なのかと疑いたくなる内容

そして、本当にこんなことがおこなわれてきたのだろうか。。。


書かれていた内容をある程度わかりやすく自分なりに解釈した文章をノートに書いていく



かつて、仁胡村は人魚村と呼ばれていた

それ以前は名前もない村だった


飢饉の影響などで、常に食べるものが不足し口減らしなどがふつうにおこなわれていた村


そこにとある幼い女性が訪れる


女性の名は「沙良」


都より人々の救済のためにと、各地を回っているという


彼女は村人に野菜を与え、種を与え、畑を耕しもう一度農業を再興するよう助言した


沙良の活躍と施しによって、やがて村は少しずる疲弊した状態から脱出する


しかし、ある年の夏


大きな台風がきたことで、畑や田んぼは全滅


再び食料危機に陥った


沙良は再び都から野菜や種を送らせた


その頃から村人たちの中で、沙良の正体が何なのか、神仏なのか、魔物なのか さまざまな憶測を呼び始めた


そして三度目の飢饉の頃、沙良が18歳となる年


遂に村人へ施すための物資も尽きてしまった沙良は村人に提案する


「実は私は竜宮よりきた人魚なのです。人魚の肉は不老不死の効果があります。私をお食べなさい。そうすれば飢えに苦しむことはないでしょう。」


村人たちは驚愕した。さまざまな憶測をしていたものの、まさか人魚だったとは。。。と


最初、村人たちは沙良の申し出を断った


いくら人魚だと名乗られても、人間の姿をしている者の肉を喰らうなどできないと


しかし、村で10人目の餓死者がでて、新たな子供の口減らしがおこなわれたあたりから、村は二分する


沙良の申し出を受け、不老不死になってでも村で生きようとする者、村を出て新たな土地で生活をやり直そうとする者たちに


そして、沙良の申し出をうけるものは村に残り、去るものは陣戸町へと移った

陣戸町に移った者たちは、人間を喰らうというあさましい者たちが外にでないようにと、唯一町と村をつなぐ橋を落としてしまう


そのときより、村-人魚村とよばれるようになった村は世界から孤立した存在となった


沙良が18の誕生日を迎える日 生贄として彼女は自分を村人たちに与えることとなった


そのときに沙良は言葉を残す


「やがて、皆が不老不死となった後、必ず誰かが子を身篭ります。これは宿命なのです。そして必ず女児が生まれるでしょう。その女児には私と同じ名を与えなさい。そして、私と同じ年になる誕生日に同じように皆で喰らうのです。そうしなければ私の加護が消えます。不老不死のままいたいのなら、必ず、これから何度でもおきるその現象を体感しなさい。あなたがたに与えられた使命なのです。」


と。


その後、沙良は自らの胸を刃で突き、息絶えた


そして村人たちは血肉を少しずつ分け合い、食したという


その後、人魚村の者たちが死ぬことはなかった・・・



この書物を半分まで読み進んだあたりだが、ここまででずいぶんのことがわかった


しかし、本当なのだろうか・・・?


沙良という女性は必ず何度も生まれ出るということ

必ず生贄となってきたということ

そもそも本当に最初の沙良が人魚だったのかということ


あまりの内容にぼくは書物を途中で閉じてしまい、開ける気持ちになれなかった


しかし、本当に大事なことが書かれていたのはこの後だったことを、ぼくは今まだ気づかなかった。。。。



~つづく~

更新が遅れてすいません やっと続きをかきます

めげずにまた読んでやってください



■前回までの話


贄人 1日目④


-1-


沙良の言葉に凍り付いてしまう


今の時代にそんなことが行われているなんて思わない

生贄、人身御供 そんなものが現代に行われているとは思わない


でも、彼女は否定しない 自らを民に分け与えるのだと


一体その言葉の真意は何なのか


巫女として形式上そのような儀式でも行うだけなのか・・・?


「民分け与えるって、それはあくまで儀式とかそれだけのことだろ?まさか今の時代に生贄なんて・・・」


少しばかげてるという調子で沙良に言葉を投げかける


しかし、沙良は何も答えない


村まで、そして彼女の叔母の家に着くまで彼女は一切口を開かなかった


「明日、また図書館にいってくるといいよ」


沙良が不意に家の扉に手をかけて言った


「何を見てきたらいいんだよ。今日だってけっこういろいろ調べたけど、そんなに収穫があったわけじゃ」


「仁胡祭祀記」


「え?」


「仁胡祭祀記って名前の史料を明日見るといいよ。その儀式を5日後に行う予定だから」


そこまで話すと、沙良は家を出ていった


-2-


ぼくは悶々とした時間を過ごしていた 


いくつか投げかけられたパズルのピース 絡まった糸のような感触


ほどけないけど、ほどくとまずいような気分


そんな複雑な思いをふつふつと胸に抱きながら、何度も布団の上を転がった


どうしても沙良の言い方が気になる


パズルのピースを1つずつ、手からぼくに投げかけているような感覚


なぜはっきりといわないのか


そこに何があるのか、、、、思った以上に長い期間、調査がかかるような気になっていた



朝を迎える頃、ほぼ寝付いてすぐに村人たちが野良仕事など始め起こされる


生活リズムが違うのは仕方ないとしても、ほぼ1,2時間しか寝ていないのに起こされたのは少しきつい


昨日、急いでバスに飛び乗ったので途中何も買い物もできなかった


少し早めに陣戸町へ向かい、朝食を摂ろう


家を出ると村人たちの冷たい視線が相変わらず背中を刺す


陰口を叩かれるのも少しずつ慣れてきた 彼らは別の生き物で鳥のさえずりと同じだと思うようにしたから


バス停までいくと、今日は誰に会うこともなくバスに乗れた


昨日変に絡まれたことが頭をよぎったのだが、今日は大丈夫だった


-3-


陣戸町は本当に仁胡村とくらべ、天地ほどの差がある


陣戸町がありふれた現代の町であるというのに、なぜか仁胡村はまるで江戸時代から時が流れてないんじゃないかと思うような田舎


わらぶき屋根などあたりまえの建物 電気さえ通ってるかどうかあやしいところだった


陣戸町でコーヒーショップに入り朝食を摂る


ここにいると、仁胡村のことを忘れてしまいそうだ


普段の生活とまったくかわらない世界がここにはある


しかし、目的を果たさず帰るわけにはいかない


きちんと調査を進めたうえで、論文にして提出しなければおれの進路は危うい



再び図書館へ来ることになった


-仁胡祭祀記-


この史料をさがすために


沙良が史料の名前だけを告げた違和感


その気持ちを抱きながら図書館にはいる


すこしはやい時間だったのもあって、ほとんど人がいない


他の場所には目もくれず、史料室を目指す


扉を開け、中に入るとおれは思わず声をあげた


「さ、、、沙良、、、、」


そこには沙良の姿があった



~つづく~


■前月までの話■


贄人 序①


贄人 序②


贄人 1日目 ①


贄人 1日目 ②


贄人 1日目 ③


-1-


ああ、もうこんな時間だ

仁胡村へのバスの最終が思うよりも早い


図書館を抜けだし、すぐにバス停をめざす。

帰る間、今日しらべた内容を頭の中で反芻していた


人魚村


生贄


民に分け与える巫女


このキーワードを反芻するが、当然ながらまだすぐ結論までに結びつかない


ただ、どうしても頭から離れずつきまとう文字


仁胡沙良


彼女の名前


数百年も前に書かれたであろう書物にでてくる、あの少女を同じ名前


かつて民に何かを分け与えた巫女


彼女の名前が巫女の名前


つまりは、巫女として宿命を受け継いだということ


18歳になれば、民に分け与えられる巫女


彼女があの村でもつ発言権、オーラ、そのようなものが彼女が巫女であること


彼女に宿命が与えられたこと


そのことをあらわしているようだった



書物から読み取れないことは、村人たちから聞き出さなければいけない


でも、ぼくにできるんだろうか


もしも、宿命自体があまりに大きいものだったら?

彼女が触れてほしくない事柄だったら?


彼女のやさしさに甘え、今も仁胡村の彼女の叔母の家へ向かっている


そんな彼女に、もしかしたら残酷なことを聞くことになるんじゃないのか


反芻する言葉は答えを出さず、ただ頭の中をめぐるばかり


そんなことを考えているうちに気がつけば仁胡村へと渡された橋の上をバスは進んでいた


背中にはおおきな夕日を背負って


-2-


まもなく仁胡村のバス停


村に戻る時間が近づく


正直、次彼女に顔を合わせるときに、かける言葉が思いつかない

あまり深刻な顔をするわけでもなく、でもかるく冗談で流すわけでもなく


なんてまず言葉をかけるのがいいのか



そんなぼくの心配を知ってか知らずか


沙良はバス停でぼくを待っていたようだった


バスを降りると、一番最初に見えたのが沙良の顔


「ただいま」


「おかえり、帰ってくるのおそいから。、、、心配になっちゃって」


なんとなく微妙な距離を置いて歩いてしまう


今日彼女についてのことを知ってしまったからか

それともそのことについて彼女が切り出すのがこわかったからか


「図書館すごかったでしょ?」


意外な明るい彼女の声


自慢したげな感じ


でも、そこにあったのは紛れもなく、仁胡村での、沙良に対する伝承

本来なら触れてほしくないことじゃないのだろうか


なのに、彼女は自分からぼくが話すよう促している


「うん、、史料すごいきちんと保管されてたね。・・・・沙良ちゃんの写真もあったよ」


笑顔がいっそう輝く 自慢の図書館なんだよと


「村の蔵で眠ってた史料は、あのままだと風化してしまいそうだった。

だからきちんと保管してくれるところが欲しかったしね。両親が亡くなって、

ちょっと高額な遺産も入ってきて・・使いみちに迷ったから・・・・」


「でも、あそこまで規模になると相当な額なんじゃ・・?」


「ほんの一部だけだよ。あんな立派な建物全部建てるほどじゃないから」


少し照れているのか、沙良は前を向いて空を見上げながら歩く


きれいな夕日が広がっていた



「ねえ・・・」


先ほどとはまったく違う声のトーンで沙良が話しかける


水の奥底で流れる温度の違う冷水


そんなものにさわったような感覚を覚える声


「な・・なに?」


声が少し上ずってしまったかな なんとなく聞かれたくないことを聞かれる

そんな気がした


「どこまでわかった?村の伝承」


「いや、、まだ1日目だしね。。。あまりはっきりとは」


「そう・・でも、私の名前が載ってたでしょ、史料に」


「ああ・・・たしかに、昔の史料に同じ名前の人がいたみたいだけど、、、」


「私はその人といっしょ。民に分け与える巫女。そしてもうすぐ18歳の誕生日・・」


「いったい・・・・」


ここで言葉が詰まる 核心にさわろうとする手が「だめだ」っていっているようだった


「いったい?」


沙良が聞き返す 顔にはすでに次に答える言葉も用意できてるって感じだった


それはぼくが聞こうとする質問の意味を知ってるということ

ぼくが今日得た情報によって、聞かれるであろうことを知ってるということ


「私が18になったら、みんなに分け与えるんだよ・・・・」


ぼくが聞きなおす前に沙良が言う


「何をなんだい・・・?」


「私の・・・」


そこで一度言葉を切り、覚悟を持ったしっかりとした言葉で沙良が告げる


「私の命だよ」



~つづく~

-1-


仁胡村から陣戸町までやってくるバスの中で、ぼくにはひとつだけ気になったことがあった


村と町を結ぶ公道にかかる大きな橋

そしてその下に広がる谷と流れの速そうな川


その橋以外で渡るすべはないようだし、他のルートで村にはいることもできない

唯一村へ入ることができる道はここだけだと、駅でタクシーの運転手に聞いた


最初バスの本数が少なくて、早く着きたいと思ったぼくはタクシーでいくつもりだった

ネットの地図で調べたときには駅から距離的にそんなに離れていなかったから


しかし


「あの村にいくまでに大きな川があってさ、、その橋通らないと村へ入れないんだけど、かなり遠回りになるんだよね。だからタクシーだとかなり金額いっちゃうよ?」


親切そうな運転手に促され、結局ぼくはバスという選択肢を取ったのだった


そもそも、あの村は橋がない間どうやっていたのだろう?

橋自体はそんなに古くなく、おそらくは数年前までに建てられたものだと思える


それじゃ、その前は?


つり橋でもあったのだろうか?


あんなに深い谷に?


そんなことを思い巡らせながらも、バス停に着いたので急いで降りた


-2-


新興住宅地のような町並みの小高い丘に図書館はあった


いかにも最近できましたと言わんばかりの外装


そんなに住人もいるわけではないこの住宅街に不似合いな豪華な感じの施設


エントランスを抜けロビーに入ると、ちょうど正面に館内図があった


~仁胡村寄付史料コーナー~


他のジャンルとは少し違う手触りがしそうな名前のコーナー


村から寄付された史料でできた一角ということか


かと言って、この施設の中でもそんなに広く場所を取っているわけでもない


だが、しっかりとそこには仁胡村を示す名前

そして、そのコーナーの設立理念が館内図の横に纏められている


~仁胡村 仁胡沙良様より、村の歴史および地理などについて広く知って頂きたいという要望と多大な寄付を頂き設立されました ぜひ皆様にも一度ご覧頂きますようお願い申し上げます~


そして、壁には沙良がおそらくは町長であろうかという壮年の男性と握手をしている写真があった


あの少女にそこまでの力があるなんて、正直驚く

村人たちが畏怖する部分の一部を垣間見た気がした


ぼくは脇目も振らずに史料コーナーへと急ぐ


バスに乗って戻る時間も考慮しなくてはいけない

最終は思う以上に早い時間だった



-3-


史料コーナーはガラスの壁で囲まれ、何かの研究室のような風貌をしていた


誰もいない無機質なこの部屋が異様な雰囲気を醸し出している


ガラス扉を開け中にはいると、まずはカビの臭いが鼻につく


最近の書物はまずない


ほとんどが巻物のようなもので、かなり昔に書かれたもののようだ


今までどうやって保存されてきたのだろう 保存状態はかなり良好だった


最近できたこの施設に移すまで、丁寧に保管されてきたのがわかる



コピー機がないので、とりあえずはまずノートに文章を写す


しかし、このままでは現代語訳ができないので、必要だと思われる部分のみを書き出し、今度は施設の中のインターネットコーナーへと移動した


ネットの情報やこの施設にある書物などをうまく利用しても、なかなか訳すには時間がかかる


あと少しでバス停に戻っていなければならない時間がせまりつつあった


ぼくは仕方なく現状作業を終えた部分だけを読み解き、また明日くるために図書館を出た



今日だけでわかった伝承はこうだ



~かつて、飢饉や統治する者からの度重なる暴挙に恐れた者たちは、家をも捨て、畑も何もない土地へと移動した

それが現在の仁胡村の発祥である


ちょうど深い谷を隔てて周りを川で囲まれたこの土地は、外敵や統治者からの支配から身を守るには丁度良かった

しかし、この飢饉続きで間引きなど悲しいことばかりが続き、皆疲弊していた


そのとき、どこからともなくあらわれた巫女によって、神からのお告げがもたらされる


巫女自らを民に分け与え、その力によって村を築けと


やがて、何十年か先に巫女と同じアザを持つ女児が生まれた際には、巫女と同じ名をつけ崇めよと




そして



やがて女児が巫女と同じ18歳になったら、女児は巫女となり、再び民に分け与えられるだろう~



分け与える?民に?


何をだ?


そして巫女と同じ名前をつけ崇める


ここに書かれている巫女の名は





仁胡沙良




あの無邪気な表情を見せる少女の名と同じだった

沙良は巫女だというのか

だから村人が崇め奉っていると・・・・・



今のところわかったのはここまで


やはり大学の史料室ほどのデータはここにはない

かと言って、もどって確認するわけにもいかない距離だった


この町では携帯が使えたので大学の友人に写メでとった史料を送り、大学で調べてもらうよう頼んだ

まあ、帰ってからメシを御馳走するって約束で


あいつ、けっこう食うんだよな。。。。



あと、最後の最後に訳してわかったことがある



仁胡村は




かつては人魚村と呼ばれていたということ


人魚の巫女 沙良


人魚が訛ってか、意図的なのか途中の史料から村の名前は変えられていた




人魚村・・・・・・・



こんな山の中の土地だというのに?

海に近い漁村などならわかるが、一面山しかないこの町になぜこのような村の名前が。。?



解けない謎、うまらないパズルのピース


しかし、少しずつ近づいていたんだ



ぼくの知ってはいけない沙良との悲しい運命の始まりが


~つづく~


↓前回のお話

贄人 1日目①


-1-


正直、沙良の表情を直視できないほどだった


眼力というか、何か彼女の持つ力のようなものがぼくを押さえつけて離さない

ようで、問いに答えるまで逃がさないという雰囲気があった


「全部じゃないけど、、、少し」


あいまいな嘘をついてしまう

結局、ばれてしまうかもしれないというのに


「そうなんだ、、」


沙良の目は少し寂しそうな色を映し、普段の沙良の雰囲気へと戻った


「今日から調査だね。」


気持ちを切り替えるように沙良が少し明るめの声を出して言う


「まあ、そうなんだけど。実際、何からまず調べたらいいのか」


「まずは、バスでひとつ向こうの陣戸町まで言ってみたら?

図書館とかにうちの村の史料もあるかも」


やはり、まずは文献からかな

沙良の言うように史料からまず基本の伝承を拾い出すことが大事かも

しれない


「わかったよ。じゃあ、図書館に行ってみよう」


ポケットから携帯を取り出し、時間を確認する

今からだと昼過ぎには陣戸町には着けそうだ


「あれ、、ここ、携帯は圏外なのか・・・」


「まあ、田舎だからね。私の村じゃ誰もそんなの持ってないよ」


「不便じゃないの?沙良ちゃんくらいの年代ならメールとか困らない?」


「私、友達いないから・・・・平気・・・・」


そこまで言うと沙良が口を閉ざしてしまう

どうも、考えなしにしゃべってしまうクセが災いしているように思える

また、彼女を傷つけてしまったのかな



結局、気まずい雰囲気を残したまま、ぼくは一人で陣戸町へ行くことに

なった。


家をでて、またけもの道を戻るわけなのだが、その途中何度か村人たち

に出会ったものの、腫れ物を見るような扱いを受けて正直心が萎えた



-2-


さすがに夏場の正午ちかくになると、田舎とはいえ暑い

都会のアスファルトのように蜃気楼が見えるほどではないものの、やはり

じっとしていると汗がでてしまう


バスが来るまであと15分ほどある


携帯も圏外


時間を持て余してしまうよな


「村を出て行く気になったのか」


村人の一人がバス停の前を横切りながら、目も合わさずに話しかける


「隣町へ調査ですよ。簡単にあきらめて帰ったりしません」


その言葉を聞くと、村人はこちらに改めて向きなおし、怒りに震える肩を

向けながら話を続けた


「おまえのやってることは、沙良様のためにならねえ。おまえが深く知り、

この村に居続ければ居続けるほど、沙良様は不幸になるんだ!」


「それはどういう・・?」


聞き返すぼくに、村人は言い過ぎてしまったという表情を見せ、足早に

その場を去ってしまった


なんで、沙良が不幸になるのだろうか

一体この村の伝承と沙良にどんな関係があるのだというのだ


そして、なぜここまで外界の人間を嫌うのだろう・・・


バスが来るまでの残りの時間、結局この堂々巡りの考えが助けとなった

のか、気がつけばバスの到着時間になっていた


ぼくはバスの中でも考えていた


沙良のことを思い、何かを言おうとした村人

しかし、言ってはならないと口をつぐんだ村人


そこにある葛藤



それは何を意味するのだろう


そして


調査を続けることで知ってはいけないものを知ってしまうかもしれない恐れ

知りたいという好奇心


僕自身も葛藤の中に身を苛まれている



この伝承をぼくは調査し続けることができるのだろうか・・・



そんな考えがめぐる中、陣戸町のバス停が少しずつ見えてきた


~つづく~

前回までの話 贄人 序②


-1-


頬に少し温かみのある光の感触


昨日移動で疲れていたせいか、気がつくとぼくは寝入っていた


光の挿す具合からすると、もう昼前ぐらいまで寝てしまっていたらしい


家の外でかすかに聞こえる村人たちの声


その中心に聞き覚えのある声


沙良が村人と話していた


「沙良様、もうすぐ儀式の日も近い。外界の者との接触で穢れを受けて

は儀式が成功しないことも考えられます。あの男には早く村から出てい

ってもらわねば・・」


「そうですぞ、沙良様。我らの儀式は仁胡村ゆかりの者しか知らぬ秘伝。

外界の者がおもしろおかしく伝聞すれば、やがては村の存続にも影響し

ます。」


口々にぼくを追い出す算段を進言する村人


一通り聞き、なだめ、そしてある程度皆が話し終わったところで少し声

をあげて沙良が話し始める。


「儀式は予定通り行います。変更はありません。十六夜の月の頃までに

間違いなく儀式は終え、新たに主を迎えるようにします。」


そして一呼吸おき、言葉をつづけた


「その儀式を、彼にもきちんと見届けてもらいます。本当の伝承を外界

に伝えてもらうために」


村人たちがざわめく


「外界の者に贄の儀式を見せるなどと!なりませんぞ!」


聞き覚えのある声の老人が叫ぶ おそらく長老だろう


「今の主は私です。主の言葉が絶対。あなたが決めることではないで

しょう・・。主はみせるべきだと判断します。でなければ、この村に彼を

連れてなどきません。私に指図するのはやめなさい、翁。」


「しかし、沙良様・・・」


「いずれ幾許かの命なのです。好きにさせてくれてもいいでしょう・・。」


少し悲しそうな声で沙良は言った。


あまりの話のやりとりに家から出ることができない


一体、この村にある伝承とは何なのか?儀式とは。。。


なぜ、こうまで村人たちは口外されることを恐れる?


さまざまな思考が頭を巡っては消えた。


ひとしきり会話がおわった後、村人たちは散会したようだった


外にでるタイミングを失い、ぼくは土間でただ呆然と外の音だけを聞い

ていた。

幸い薄い扉が外の音を透かすように届けてくれる


その場にいなくても会話が聞こえたのは良かったのかもしれない


何もかんがえず、あの渦中に飛び込んでいたら、どうなっていたか


昨日うけた敵意ある視線を今も思い出していた


土間から一旦居間にあがろうと、振り返ると



ガラッ



扉の開く音がした



「なんだ、もうおきてたんだ。なら、挨拶ぐらいしに来てくれてもいいのに」


沙良だった


昨日みせたのと同じように屈託のない笑顔


先ほどのような強い口調はまた見えない


「今、起きたとこでさ、、、ちょうど今、外にでようかと・・・」


「あ、そうなんだ」



じゃあ、、、と小さく沙良は言った後、言葉を続けた


「今の話聞いてた?」




その顔は笑顔もなく、長老たちに見せたときのような冷たい視線をもった

顔だった


~つづく~


前回までの話 贄人 序①


-1-


河原に出るまでの急な斜面には正直辟易したが、なんとか降りた

喧騒の中の都会と違って、ここではただ川の水が流れる音だけが

耳をなでる


そのせせらぎを聞きながら、乾いた喉を潤そうと足場の悪い岩場

を乗り越えて、水が飲みやすそうなポイントまで移動した



水を飲もうと水面に顔を近づけ、手で水を掬う


その視線の先に、半身を川にうずめ瞑想しているかのような少女

がそこにいた


透き通るような白い肌、光を反射してまぶしい白いワンピース


そして白が映えさせるかのような、長い黒髪


少女は川の水辺に腰を下ろし、静かに目を閉じ座っていた



なんというか、その姿があまりにもきれいで

何かの水彩画をみてるかのような透明感を感じて



ぼくは水を飲むのも忘れてしばし少女に魅入られてしまった



「だれ?」



その言葉にふと我に返る


気がつくと、少女が目を開けぼくの方を見ていた


「あ、、ああ、、ごめん、、」


そんな言葉を出すのが精一杯

会話になってない


「都会から来た人?」


少女の質問は続く


目の奥にはかすかな好奇心を宿しているようだった


「うん、東京のほうから、大学の論文の調査で来たんだ」


「へぇ、この村に人が訪ねてくるなんて何年ぶりだろう・・」


少女が軽く空に目をやる


長い黒髪が乱反射する川辺の光たちを集めてキラキラ光っていた



少女の名は仁胡 沙良(にこ さら)と言った


幼く見えていたのだが、実際には18歳らしい


2歳しか年がかわらない


「でも、2歳でもおにいちゃんだよね」


屈託のない笑みで沙良が答える


美加と比べてしまっては申し訳ないけど、比べ物にならないほど

沙良のほうが純真無垢だ  まあ、あたりまえか


性格の良し悪しも空気のきれいさで決まってしまうのかと少しおもった



「村には人が訪ねてくることがほとんどないから、宿泊するところないよ」


沙良が言う


正直そこまで計算してこの村を選んだわけじゃなかった


もっと正直言うと、何も考えずに伝承のおもしろさだけで選んだ節が強い


まあ、そのために一応寝袋とか、野宿できそうなものは持ってきたけど


「おばさん家が今空き家だし、少しの期間なら貸してあげていいよ」


「でも、ご家族に確認とらないとまずいでしょ?」


いいんだよと沙良は笑う


「だって、私には家族はいないから・・だから、大丈夫」




-2-


気まずい話になったと少し後悔した


沙良はふつうに笑顔で歩いていたが、ぼくは聞いてはいけないことを

聞いたような気がして、次の言葉を発せずにいた


そんな時間をすごしているうちに、だんだんとけもの道は開けて村の

姿が見えてきはじめた



仁胡村



沙良の苗字と同じ名前の村


このときはその事実には気がいかなかった


彼女が背負う宿命にも


「ごめん、沙良ちゃん。。。もう少しだけゆっくり歩いてくれると助かる、、」


やっぱりもう少し荷物は減らしてくるべきだったか


さすがに歩幅がぼくの方が大きいにしても、この荷物の量では追いつく

のにだんだんつらくなってきた


「もう、だらしないなあ」


いたずらっぽく沙良が笑う


ぼくは苦笑を返すのが精一杯


ひとつだけと言って沙良は水筒を持ってくれた


確かにさ、さっき水をいれたけど そんなにそれは重くないよ・・・



村の入り口に差し掛かり、少しずつ人影も見え始める


でも、ぼくに気づいた村の人たちは何かこそこそと話を始める


何か言おうとした人もいたけれど、ぼくの前を沙良が歩いていたので

やめたようだった


やがて村の中心ぐらいまできたかというところで、沙良が振り返る


「こっちが私の家、で、こっちがおばさんの家。好きに使ってね」


少しホコリがかぶったような民家がおばさんの家らしい

本当に空き家のようだった



沙良がおばさんの家の扉を開ける


「沙良様、この者はなんですか」


しゃがれた声で問いただす言葉


いかにも長老ですと顔に書いてるような老人が沙良に話しかける


沙良様・・・


沙良の両親はこの村のえらい人だったのかな


「この方とは河原で身を清めているときに会いました。大学の論文

の調査でこの村に来られたとのことでしたから、しばらくこの家を

お貸しすることにしました。」


「沙良様、常々申しておりますが、外界との関わりはこの村では

禁忌ですぞ。あなた様がお守り頂けなくては困ります。」


「別に河原で会って、つれてきただけです。それ以上何もないです。

論文の調査を終えるまでぐらい協力して差し上げなさい。」


先ほどまでの純朴な雰囲気が沙良からは消えていた


自分の何倍も年を重ねたであろう老人をたしなめている。

そして、老人といえばまるで親に怒られた子供のような目をして

沙良を見つめていた。


「ところで、青年」


今度は老人がぼくに問いを投げかけてきた


「君は何の調査でここまできたのかね?」


「はい、民俗学の伝承の論文を書くために来ました」


「伝承、、、この村の伝承を調べるというのかね?」


「そうです。この村に伝わるという『贄人』の伝承について調べる

予定です。」



ぼくの今の言葉を聞いた瞬間、村人たちの顔色が一斉に替わった


中には明らかに敵意を向けている人もいる


「青年、、この村でその言葉は禁忌だ。申し訳ないが調査はやめ

て、明日帰ってくれんか。。。」


老人が言う


しかし、その雰囲気を一蹴するように一際大きな声で話す者が




沙良だった



「いいじゃないの。伝承について、きちんと記録を残してもらうことは

後世においても十分意義のあることです。

この村は閉鎖的すぎます。これをきっかけにきちんと村人以外の

他の人たちとも交流していかねばいけないのではないですか?」


「沙良様、それはなりません。青年が伝承を調べていけば。。」


「わたくしがいってるのですよ!!」


老人の言葉をさえぎり、さらに大きな声でたしなめる沙良


その言葉を最後に村人は誰も声を発さなくなった


「ごめんなさいね、なんかいやな思いさせちゃって。おばさんの家

は好きに使ってくれていいし、いつまでいてもいいから」


先ほどの雰囲気はどこへ行ったのか、川辺で出会ったときのように

屈託のない笑みで沙良は言う


気まずい思いをしながらも、結局ぼくはおばさんの家を借りること

になった



今にして思えば、なぜ沙良にあそこまで皆が従うのか

村を閉鎖的にするのか


そして、何より外界の人間との交流を避けるのか


その物語は、今この瞬間から紐解かれようとしていた


~つづく~

なぜ、ぼくとキミは出会ってしまったのだろう


なぜ、今出会ってしまったのだろう


そんな言葉が今でも頭をよぎる


でも、それは今ではなければいけないと、神様が決めたに他ならない


とても残酷な神様が・・・・



-1-


眩しすぎる日差しが射すバス停のベンチで、少しうなだれてぼくは座る。

この夏休みは散々なことになる予感は少ししていた。


春にサークルで知り合った、美加と付き合うようになってからほぼ毎日が

振舞わされる日々。単位だとか、将来だとか、そういうことを考える余裕も

なく、ただ今現在を必死で生きる毎日だった


ひたすら美加のために


そんなある日美加が言った。

「8月27日が誕生日なんだよ。」


期待しているからねという表情で無言のプレッシャー


この頃にはぼくはうすうす二股をかけられていることに気づき始めていた。

もうひとりのあいつに負けたくなくて、授業もサボりバイトも増やした。


美加が先週欲しがっていた、あのネックレス。

やっぱり身に着けてもらえるものを贈るほうがなんとなく身近に感じても

らえそうでうれしいから。


仕送りをやりくりしても、到底届かないほどの額のそいつは、限定販売で

急がないと手にいれることができない品物だった。



なんとか必死にバイトもやり遂げ、ネックレスを買えるようになった頃、



バイバイ


もうひとりのあいつはすでにいともたやすくネックレスを手にいれていて、

さらに誕生日プレゼントにはダイヤの指輪も贈っていた。


どこかの企業の役員が親父らしく、まあ、最初から勝負にならなかった

ってわけで。


さらにそこにきての追い討ちが今日。


教授に呼び出されたぼくは、いやな予感を隠しきれずに大学に来た。


案の定、単位の話。このままでは確実に落第。


教授の好意で、夏休み中に論文を仕上げ提出すればなんとかまぬが

れることになった。


民俗学の論文。田舎に出向いて希少な伝承の類を調査したうえで論文

にしなければいけないという、半ば罰ゲームのような、というかまさに罰

ゲームなわけだが、その論文を仕上げなくてはいけなくなった。


まあ、つい先日美加ともバイバイしたし、バイトも期間終了となったので

田舎に行って来いってのは問題ない。

ネックレス用の資金が旅行資金に化けるようなもんで、別に心の傷は痛

まなかった   



少しをのぞいては



で、ある村に伝わる希少な伝承を求めての旅路の最初、焼きつく暑さの

バス停でぼくはバスを待っている。


バス、電車、夜行バスを乗り継いで、さらにまた田舎のバス


このルートで明日の昼にはその村につく予定


そして、すでに退廃した伝承文化であろう「贄人」の話について調べる

ことにした



贄人、つまりは人を生贄にささげる儀式


かつて人身御供などという言葉が残っているように、人間を生贄にした

文化は日本でもあった


しかし、その村は近年もその伝承を受け継ぎ、未だに生贄をささげる儀

式を行っているというのだ


まあ、正直ありえない


今の時代で行えば、確実に殺人罪に問われる事項だ


そんな嘘くさい伝承だからこそ、きちんと調査したうえで論文にする価値

があるのだとぼくは思った


-2-


かなり長い時間を浪費したんじゃないか?


ここまで移動で時間がかかるとは思わなかった 正直


ぼくの住む町よりも確実に5度以上は気温が低いだろう谷にバスは止まる


「仁胡村(にこむら)」、そう書かれたバス停のまえで



やはり田舎は空気が澄んでいる

ふいてくる風もどこなく涼しげで、透き通った感じがする


毒々しい排ガスにまぎれた都会とはまたちがった趣き


少し心も透き通ってしまうような気分になる


何度も深呼吸をして、悪い都会の空気を必死で吐き出す

せめて気持ちだけでも清らかに


美加のこととか いい加減わすれてしまいたいしな


バス停から続く山道はかなり狭く、けもの道なのかと思うような道しか

周りにはない


やはりこの道を通って仁胡村に行くしかないらしい

それなりに荷物を下げてやってきたから、この山道を進むのは正直

骨が折れそうだ



幾分か道をいくと、右手にきれいな川が見えた


ちょうど喉も渇いたし、この村の水ならそのまま飲んでも綺麗だろう

から、少し喉を潤そう


そうおもって、野草を掻き分けて川辺まで進んだ



そして、ぼくは出会った


歯車をまわし始める人と


ぼくが紡ぐ物語 その中心となる人と


うつくしき かなしき 少女と



~つづく~