春___。
桜が満開で、空は晴れている。
絶好の入学式日和だ。
” 新入生の入場です ”
厳かな雰囲気で始まった入学式。
プログラムが進んでいく
” では続いては、我が校吹奏楽部の演奏です ”
演奏曲は今流行りのドラマの主題歌だった。
演奏に合わせてガード隊が軽やかな動きをみせる。
すみれはその演奏に胸を打たれた。
『うわぁ~すごい...』
入学式が終わり、各教室に生徒が集まった。
すみれは1年4組になった。
『担任の横田です。1年間よろしく』
すみれは演奏の余韻でほとんど横田の話は耳に入っていなかった。
『えー、というわけで、部活の仮入部期間は5日あるから、しっかり考えるように。じゃあ今日は終わります』
放課後、すみれはすぐに音楽室に向かった。
音楽室からは様々な楽器の音が聞こえる。
意気込んではいたものの、前までくると緊張してドアを開けることができなかった。
どうしようかと思っているといきなり肩を叩かれた。
『ねぇ!』
『わっ、びっくりしたなもー
え〜っとあなたは...?』
たしか同じクラスにいたはずだがまだ名前は知らなかった。
『わたし、山口愛花
あなた、吹奏楽部にはいるの?』
『う〜ん、わかんない。
わたし吹奏楽やったことないからさ...』
2人が話していると、後ろから声をかけられる。
『山口、坂山なにやってんの?』
『あ、いつき』
すみれは自分の名前を覚えられていることにびっくりした。
『知り合いなの?』
いつきと親しげに話す愛花にきく。
『幼馴染みだよ、てか同じクラスだし笑』
『いや同じクラスなのはさすがにわかってるよ』
『俺名前覚えるの早いからさ、てか、なんの話してたの?』
『吹部について話してたの』
『あー、ここの有名だもんな』
音楽室の横のショーケースには賞状やトロフィーがたくさん並んでいる。
『でもすみれ、今日は仮入部ないよ?明日からだよ』
『え!そうなの?』
『担任の話きいてたの?笑』
『ほとんどきいてなかった...』
今日楽器を吹くつもりでいたすみれはガッカリした。
『てかもう帰れよ、こんな時間に女の子が帰ったら危ないし一緒に帰ってやるよ』
いつきと愛花が歩き出し、すみれは追いかける。
🎵
『ただいまー』
すみれは家に帰ると満男にきいた。
『ねぇ桜ヶ丘の吹奏楽部って有名なの?』
『うん!もちろん!最近注目してるんだ!』
『初心者でも、大丈夫かな...』
『入部するの?!』
満男は嬉しそうに言った。
『わかんない...』
とりあえず仮入部に行ってみようと決めた。
🎵
次の日の放課後
『すみれ!仮入部行くでしょ?』
『うん』
音楽室の前にはたくさんの仮入部希望者であふれていた。
それぞれ自由に話していたが、音楽室から先輩があらわれると、途端に静まり返る。
『こんにちは。
仮入部へようこそ!
まず経験者は自分のパート、初心者は各パートを回ってもらいます』
最初はホルンパートだ。
『ここはホルンパートです。ホルンというのは...』
ホルンはかたつむりのような形をしている。
中音域で一番難しい金管楽器と言われている。
『それではマウスピースを鳴らしてみましょう』
すみれはマウスピースを唇に押し当てる。
息をいれてみるが、音は鳴らない。
隣の女の子は既にマウスピースが鳴り、楽器を吹き始めている。
仮入部では、マウスピースが鳴らないと楽器にさわらせてもらえない。
『鳴りません...』
『ホルンは難しいからね、大丈夫だよ』
しかし
その日は結局サックス、トランペット、チューバを体験したが、どれもマウスピースすら鳴らなかった。
『すみれ!かーえろ』
愛花が誘ってくれたが、
『ごめん...今日は1人でかえる』
と断ってしまった。
(わたしには、向いてないのかなぁ)
暗い校舎を1人で歩いていると
『おうい坂山!どうしたんだよ?この世の終わりみたいな顔してさ』
自販機でいつきは炭酸ジュースを買ってくれた。
中庭のベンチに座る。
『そっか、音がでなかった...』
『うん』
『わたしには向いてないのかなって。初心者でも他の子はできてるのに』
『でも、なんとなく気持ちわかる気がする』
『どうして?』
『うちの姉ちゃんもうちの吹奏楽部だったからさ。同じようなこと言ってた』
『姉ちゃんさ、言ってた。
誰にも絶対運命の楽器ってあるんだって。
最初に吹いてみて、これだって思う楽器が。
姉ちゃんはそれがトロンボーンだったんだけどさ。
だから坂山にも絶対運命の楽器があるはずだよ』
『運命の楽器...か』
『うん!』
『ありがとう。運命の楽器、探してみるよ』
『おう。じゃあもう遅いし送ってくよ』
だがすみれの運命の楽器が見つからないまま、仮入部期間は進んでいく。
とうとう最後の楽器だ。
『はい、ここはフルートパートです』
先輩にアンブシュアを教えてもらい、息をいれる。
『お、鳴ったじゃん
じゃあ楽器つけてみよっか』
『やった!鳴った!』
『すごいすごい』
わたしの運命の楽器、みつかったよ
🎵
『へー、フルートだけ音が鳴ったんだ』
『うん!だからフルートに決めたの』
入部を決めたことを母、坂山ゆうと満男に話した。
『わたしも高校からユーフォはじめて、弱小だったけど大変だったわ、頑張って』
『うん!』
🎵
そして
『失礼しますっ!入部します!フルート希望です!』
『えーっと、あなた初心者だっけ?』
吹奏楽部副顧問の河谷がきく
『あ、はい』
『ふーん。初心者でうちのフルートパートは大変よ。ま、頑張って』
『はい』
河谷の言葉の意味を、すみれは後で思い知ることになる。
『新部活は4月10日から
体操服で3時50分集合、時間厳守!』
『はい!』
4月10日
愛花と一緒にすみれは音楽室に向かった。
『あー!超楽しみ!』
『でもなんで体操服なんだろ?早速練習?』
愛花はワクワクしていたが、すみれは不安でいっぱいだった。
入部したのは36人だった。
『入部してくれてありがとう
俺がここの顧問の会田たつきだ。
じゃあまず歓迎のミニ演奏会をします』
ミニ演奏会は去年のコンクールで演奏した曲や、すみれが入部を決意するきっかけとなった入学式での演奏が披露された。
『うちはマーチングにここ最近力を入れてます。ではドラムメジャーから挨拶があります』
『ドラムメジャーの山口愛菜です。
皆さん!わたしたちと一緒にマーチング頑張りましょう!』
少女たちの吹奏楽にかける3年間の物語が始まった___。