2006年に死去した作家吉村昭さんが40年前に発表した記録文学
「三陸海岸大津波」が東日本大震災以降、増刷を重ねている。
三陸沿岸を襲った3度の大津波を題材にした作品。妻で芥川賞作家の津村節子さん(82)は、
増刷分の印税を被災地に寄付している。
「三陸海岸大津波」(原題は「海の壁――三陸沿岸大津波」)は1970年、
旧中央公論社から出版された。2004年以降、文春文庫版で5万部が出ていたが、
東日本大震災後に全国から注文が相次ぎ、この2カ月間で15万部を増刷している。
吉村さんは昭和40年代、三陸沿岸で明治から昭和にかけての津波を取材。
生存者の証言などから「三陸海岸大津波」を著した。
1896年の大津波後には、高台に移転する住民が相次いだが、
「津波の記憶がうすれるにつれて、逆もどりする傾向があった」と指摘している。
特に漁業者は高台の不便さを理由に
「希(まれ)にしかやってこない津波のために日常生活を犠牲にはできないと考える者が多かった」
と記している。
これらの印税を、妻の津村さんは被災地の岩手県田野畑村に全額寄付している。
田野畑村は少年たちの集団自殺をテーマにした吉村さんの
初期の小説「星への旅」の舞台になった地。吉村さんは同村の名誉村民でもあったという。
