――犯人は誰?
この一言がきっかけで、僕らの学校生活は一変することに。
六月中頃のある日、僕のクラスに転校生がやってきた。まるで人形のように表情に一切の変化もなく、話をするときも一定のトーンで、怖い話を聞かされている気分だ。
僕自身、こういった類の話は苦手だ。不気味な雰囲気を漂わせる転校生に誰も話しかけようとしなかった。勿論僕も。
だが、どうも事は思うようにならなかった。
転校生が来て翌日の話なる。二人一組で学校周辺の地域を生徒なりに調べ、まとめて発表することになっている。
僕はペア組みを決める日、体調が優れず欠席した。なんとペアの相手が転校生だったのだ。おおよそどうしてこうなったのか見当がついていた。クラスメイトの誰もがペアを組みたくなかったからだ。
本当に最悪だ。あの時、体調を崩さなければ良かった。
クラスメイトはそそくさ教室から出ていき、僕らが残った。担任が「早く行け」と急かす。
取り敢えず学校から出ると、しばらく町内を歩き回る。転校生に話し掛けようとしたときだ。急に空模様が怪しくなってきたので、バス停の屋根下で雨宿りをすることに。
そこで転校生が初めて口を開いた。
「……散った」
「え?」
僕は思わず「え?」と聞き返す。
「……もうすぐ分かる」
転校生がなにを言っているのか理解できない。
散ったとは何を意味するのか?
段々胸が苦しくなるように感じる。雨も降り出し、余計不安に陥る。
転校生が町内を指す。パトカーが一台止まっていたのだ。
僕は転校生をバス停に残し、パトカーの止まっている方向を目指し走る。目に留まったのは黄色い線。
――事件だ……
転校生が口にした「散った」と言う言葉の意味をようやく理解した。それは人の命が散ることを意味していたのだ。
僕は目にしてしまった。死体となって異様な姿に成り果てたクラスメイトを……。
吐き気がする。今すぐこの場から立ち去りたい。
警察が聞き込みを始めると僕を呼び止める。
「君は――あの学校の生徒かね?」
あの学校とは、誰もが恐れ学校名を口に出したがらない。
この町内に暮らす人のほとんどがあのと付け足して呼ぶのが決まりだそうで、二十年前に生徒がうっかり口を滑らせたことにより奇妙な死を遂げたこと。
その事件についてだが、卒業式だったらしく終わってから間もない頃、トイレに行ったきり帰って来ないので友人が様子を見に行った。目にしたのは心臓辺りを抑えて息絶えていた彼の姿だった。
十七年生きた中で一度も心臓に問題なかった。前日に学校名を口にしていた。
これは何かの呪いだと思った卒業生はあるルールを発足した。町内全ての人が学校名を口にしないこと。
だがそれだけでも駄目だった。例え学校名を口にしなくとも二年に一度死者が出たのだ。
原因は分からずじまいだ。
そのルールを破ると、一週間以内に何らかの形で死ぬということぐらいしか分かっていない。あるいは……考えたくないことが頭をよぎる。
「……はい、そうです」
僕は刑事さんの問いに対し、簡潔に答える。
「君は事件が起こるとき、ここに居たかね?」
「急に天候が怪しくなってきましたので、バス停で雨宿りをしていました」
何処で何をしていたのか、明確に答える。
僕の話を聞くなり、刑事さんは緊張した聞き込みから解放してくれたのだ。
転校生と居たバス停へ向かったが、そこに彼女の姿は見当たらなかった。
僕は急ぎ足で学校に戻り、教室に辿り着く。ほとんどのクラスメイトは帰宅しており、教室に残っていたのは転校生の彼女だけであった。
「どうして君は、クラスメイトが死ぬって分かったの?」
疑問に感じたことを転校生に質問する。
何故知っているのか?
まさか何かしらの方法で殺したのか?
「何故?」
僕は、さらに問い詰める。
ようやく彼女は口を開いた。
「私を疑っている?」
「ああ、だって君は……」
「私じゃないよ」
「じゃあ、なんで分かったの?」
彼女の表情を伺い、嘘をついていないか確認をした。
彼女の表情は変わることなく、僕のことを真っ直ぐ見つめる。ほんの僅かだが僕を睨んだ様に見えた。
ただ、強い夕日の日差しが静寂の教室を赤く染める。