記憶5 慣れ | アダルトチルドレン時々日記

アダルトチルドレン時々日記

機能不全の家族の中で育ち、その後遺症を人生上に色濃く残し、一般常識とまともな生活を知らず、悲観的なことを言いつつ能天気な性格でふらふら気ままに流転の人生を送っております。魂の病気と共存し狂気と正気を往ったり来たりする日常を徒然なるままに書き綴ります。

好みでもなく、むしろ嫌悪感すら覚えるほど嫌いだったアイツとしばらく一緒にいると・・・ そこでいかに楽しく

過ごすかを考えるようになってくるものだ。 夕飯を食べながら共通の話題で笑い合う様になった。 

アイツが刺青の色や絵を足しに行った後はオイルなどを塗ってやったり、寝る間にはマッサージなどを

してやる様になった。 慣れとは恐ろしいものである。 少しだけだが情も湧いた。


その頃には、コーヒーを飲むとか、タバコを吸うとか、酒を飲む延長線上にコ〇インがあった。

鼻からの出血がひどくなってきたが、もうそんなのは気にならなくなってきた。 

鼻から血が流れるという尋常ではない状態は、日常的な事として溶け込んでいた。


住み始めた当初は、近所の商店街に行くにも、アイツに連絡しなければならなかったくらいだが、

次第に一人で出歩ける自由が与えられた。軟禁状態から解放された私は公衆電話から友達に電話を

かけられる様になったし、友人とも会うようになった。一人で馴染のバーに行くことも出来た。

アイツはロックが好きでギターを弾いた。どんな人生を送ってきたんだろう。 

叔父さんはかなり力のあるヤクザだということしか知らなかった。


男に殴りかかるほど血気盛んな私は、どんな男でも怖いと思ったことなどないが、アイツとだけは喧嘩を

しなかった。アイツの怖さは別格だった。 

一度、口論になり、「出て行く!」 と言って玄関に立った私は肩を掴まれて数メートル投げ飛ばされた。

飛ばされた私は、リビングから隣の寝室のベッドに落ちた。投げ飛ばされたことが恐ろしかったのではない。 

その迫力に気圧された。アイツの無言の怒りの表現は、そこら辺の男とは質が違うものだった。

これ以上怒らせたら何をされるか分からない・・・・・


アイツと居れば居るほど、ヤクザの奥底の怖さ、いや、人を殺した人間の底知れない怖さをひしひしと

感じる。 だからむやみに喧嘩を吹っ掛けなかったのだ。

クスリで命を落としてもいいが、アイツに殺られるなんてまっぴらごめんだった。

アイツの部屋にある何本もの日本刀のどれにも私の血を吸わせたくなかった。 


アイツが人を殺していなかったら・・・私は喧嘩を吹っ掛けて、とっくにこの家から出ていったであろう。

仲良くなるのはヤクザと、とっぽいホステスばかりだった。私の周りにはそんな人種しかいなかった。 

周りを見渡せばすべての人間がドラッグの匂いを漂わせていた。


暴力団新法が出来るほんのちょっと前・・・金を手にしたヤクザどもがどこでも幅をきかせていた。

私を乗せた車は信号を待つ時、2番目になったことはない。 スモークを張ったベンツはいつも脇から

トップに入り込んだ。誰も何も文句を言う人はいなかった。 

気に入らない車がいると、どくまでクラクションを鳴らし続ける。 

下っ端の奴らはガンを飛ばす野郎どもを、降りていって倒れるまで殴る。


一般人と口を利くのは夕飯の買い物に出た時の肉屋や八百屋のおじちゃんやおばちゃんだけ。 

狭い世界に入り込んでいくのが気がかりだったが、毎日のコ〇インのせいで開いてしまっている瞳孔が

バレはしないかと気になっていたので、むしろ一般人と関わらない方が楽だったのである。

私の顔色は真っ白で目の下のクマは紫色になり、鏡を見れば外に出る気がなくなった。


同じ穴のムジナとはよく言ったものだ。 

私だけは違うと思っていても、世間から見りゃ、私もきっと奴らとなんら変わりはなかったのだろう。


逃げたい気力がだんだんと、時間と同じ様に溶けていった・・・・・・・・・




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