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80年代に入りロックに限らず様々なジャンルの音楽を聴くようになってからは、米国や英国でどんなバンドが流行っているかなんて皆目分からなくなっていったが、そんな俺でも米国の『ニルヴァーナ』と『レッド・ホット・チリ・ペッパーズ』ぐらいは一応何となく知っていた。特にレッド・ホット・チリ・ペッパーズは「レッチリ」と略され用語として定着している感じ。来日公演も頻繁に行っており、07年と去年は東京ドームワンマンライヴ…って、バリバリのビッグメジャーじゃん。おみそれいたしました…。
レッチリが結成されたのは83年。翌年1stアルバムを英国のパンク・バンド『ギャング・オブ・フォー』のアンディ・ギルのプロデュースで発表。2ndアルバムのプロデューサーがPファンクの帝王ジョージ・クリストン。それだけでレッチリの音楽性が大方予想できるが…。メンバーの脱退や死亡があり、ニューメンバーを加えてレコーディングした4rdアルバム『母乳』(84)が全米チャート・インし人気もメジャー級になった。
それに続いて91年に発売されたのが、さっき聴いた『ブラッド・シュガー・セックス・マジック』。プロデューサーにヒップ・ホップ系の仕事で名を上げた(その後超大物に)リック・ルービンが就任。この時のレッチリのメンバーはアンソニー・キーディス(ヴォーカル)、フリー(ベース)、ジョン・フルシアンテ(ギター)、チャド・スミス(ドラムス)という面子。
トラック1『パワー・オブ・イコーリティ』は直訳すれば「平等な権力」。政治家の主張する平等なんて所詮白人至上主義だろ? そんな権力には納得しない、俺は言いたい事を言うしやりたい事をやる…という戦闘的な詞で、「ロックに政治を持ち込むな」とか主張する輩からすると、レッチリは全否定という事になってしまうが…。『パブリック・エナミ―』の『ファイト・ザ・パワー』を連想してしまうラップ・ロック。
切れ目なくトラック2『イフ・ユー・ハフ・トゥ・アスク』へ。直訳すると「もし質問があるなら」。ファンキーぽいリズムやコーラスもかなり黒人のファンク・ミュージックの影響を受けている感じ。後半から登場するギターソロもPファンクぽい。ラップはやや諦観ぽいが…。シングル・カットされたがヒットせず。
トラック3『ブレーキング・ザ・ガール』の歌詞は、ホントの兄妹の様に育った女のコに手を出して心身共に傷つけ、後悔に駆られる懺悔の歌。一転してアコースティックギターを使用、切々と唄い上げるヴォーカル。メロトロンが導入され随分雰囲気の異なる曲。米国では最高位15位、英国でも小ヒットしたシングル曲。
トラック4『ファンキー・モンクス』は直訳すれば「おかしな僧侶」。この世に聖人君子なんていない、道端(ストリート)にいる君を俺流のやり方で愛したい それが君に受け入れられるのか…という様な詞で、奇麗ごとではない愛について唄っている。イントロの凝ったギター。重いリズムセクションが印象的だ。間奏のギターソロもインパクトあり。
トラック5『サック・マイ・キッス』はタイトルからして卑猥ソングと判る。「俺のキスを吸い上げてくれ」とか「俺のスタンガン」とか露骨な比喩がいっぱい、ドラッグ体験も堂々と唄い込まれており、米国では放送禁止にならなかったのだろうか。
トラック6『アイ・クド・ハヴ・ライド』は直訳すると「俺は嘘をついていたかもしれない」。当時アンソニーは故シネイド・オコナ―と付き合っていたが、つい他の女と関係を持ってしまい、シドニーは当然激怒して彼の下を去ってしまった。今更後悔しても先に立たず…そんな心情を素直に綴っている。アコースティックギターを主軸にした演奏に途中からエレキギターが入ってきて、それがまんまアンソニーの感情の如く。
トラック7『メロウシップ・スリンキー・イン・Bメジャー』は前曲のウェットな雰囲気をブッ飛ばす様なラップロックスタイル。あまり意味もなく思いついたワードをラップしているみたいだ。コーラスも入ったりしてノリはいい。
トラック8『ライチャス & ウィッキド』は「正義と不道徳」という様な意味。どうやら反戦ソングらしい。ミディアムテンポで唄われるラウド系のナンバー。飛び跳ねる様なベースのフレーズが厭でも印象に残るね。
トラック9『ギヴ・イット・アウェイ』はシングルカットされ米国ではパッとしなかったが、英国ではかなりのヒットになった。直訳すると「皆くれちまいな」となる。エロチックなワードもあるが、基本的には自由平等、差別や格差がない世界を目指そうぜというメッセージソング。グラミー賞も獲得したメンバーもお気に入りのソングで、ライヴでは常にアンコール用に演奏されてきたという。
トラック10『ブラッド・シュガー・セックス・マジック』は、タイトル通りのSEX讃歌。イントロのヘッドの部分のギターの弦を弾く音から始まるヘビーなロック。歌詞がヤバいのでわざと聴き取りにくく唄っている様だ。
トラック11『アンダー・ザ・ブリッジ』は全米2位まで上がった大ヒット曲。アンソニーがドラッグ中毒にハマり、そこから抜け出そうとして禁断症状に苦しめられた時の孤独感を唄っている。イントロの孤独感を匂わすギターのアルペジオ、嘘の感じられないヴォーカル。淡々とした演奏にコーラスなどが加わって大合唱になっていく下りが感動的である。
トラック12『ネイキッド・イン・ザ・レイン』は自然回帰をテーマにした曲で「裸で雨の中に飛び出そう」と訴える。歌詞中に児童文学の主人公「ドリトル先生」も登場。景気のいいドラミングが前面に出たミキシング。ベースもソロを取って聴かせます。
トラック13『アパッチ・ローズ・ピーコック』の歌詞に「ニューオーリンズ」が登場。カッティングのキレが良いギターに、土地柄故にホーン・セクションが加わるというアレンジで、ハミング風なコーラスも面白い。
トラック14『グリーティング・ソング』は畳みかけ風なラウドロックで、演奏力も高いしライヴで演ったら盛り上がりそうな曲だが、アンソニーはリック・ルービンに無理やりやれと言われてレコーディングした曲で気にいっていないとか。
トラック15『マイ・ラヴリー・マン』は、アンソニーとフリーの親友でレッチリの初代ギタリストだったヒレル・スロヴァクの事を唄っている。ドラッグ中毒で死んだ彼の死に即してアンソニーはドラッグを断つ決心をしたという。ストレートな追悼ソングなのだが、演奏だけを聴いているとそんなウェットな歌詞だとは思わないだろう。「ロバータ・フラックを聴きながら」という一節があるけれど『やさしく愛して』とかだろうか。
トラック16『サー・サイコ・セクシー』を直訳すると「イカれたセクシー先生」って感じか。タイトル通り下ネタ満載ソングでゴツゴツした演奏に、トラック3に続きエンディングにメロトロンが加わった8分以上にも渡る曲。
アルバム最後の曲『ゼイアー・レッド・ホット』は伝説のデルタブルースマン、ロバート・ジョンソンのカバー。これもドロドロな下ネタソングだが、屋外で録音されチャド・スミスは素手でドラムを叩いたという。スタジオに詰めての作業に飽きて遊びで屋外で演奏してみたら、悪くなかったのでアルバム収録になった…という感じかな? 異常にリズムを早くしてブルースではなく、サイコビリーぽい演奏。
初めてレッチリのアルバムを集中して聴いてみたんだけど、ファンクやラップミュージックなど黒人音楽への憧憬がありつつも、気持ちはパンクロックという感じで、ストレートに世の中に違和感を叩きつけるメッセージ風ソングもあれば下ネタに特化した猥歌、はたまた過去を悔やむ自己吐露ソングまで歌詞世界は等身大ぽくもかなり幅広い。
単に悪ぶってるだけのバンドとは違って演奏力は高いし(特にベーシストは図抜けたテクがある)、確かに人気が出ておかしくないバンド。これを聴いて俺も大ファンになった…とまではいかないけれど、レッチリは90年代という時代の要求とシンクロしたバンド…という事は理解できた。
大ヒットした本アルバムによってレッド・ホット・チリ・ペッパーズは世界的スケールのバンドとなり、21世紀に向けて驀進ロードを歩む事になるのであった…。