ヒート』夢の競演!アル・パチーノVSロバート・デ・ニーロ、2大スター ...

 白昼のロサンゼルス。ニール(ロバート・デ・ニーロ)率いる強盗団は完璧な作戦の下現金輸送車から麻薬カルテルのマネーロンダリング請負人・ヴァン・ザント所有の無記名債券を奪取するはずだったが、新たに強盗団に加わったウェイングローが警備員を射殺。ウェイングローの粗暴な性格はチームに有害と判断したニールはウェイングローを始末しようとするが逃げられてしまった。事件の捜査を担当するヴィンセント・ハナ(アル・パチーノ)は執念深い捜査が身上…。

 

 70年代以降の米国映画界に偉大な足跡を残してきた名優アル・パチーノとロバート・デ・ニーロが『ゴッドファーザー PART2』(74)以来二度目の共演…ではあるが実際の所共演と言っても『ゴッドファーザー~』では二人が顔を合わせるシーンは全くなかった。だから本作が初の正式共演という事になるのだろう(この後も共演作はある)。81年に『ザ・クラッカー/真夜中のアウトロー』で劇場映画デビューしたヒットメイカー、マイケル・マンが89年に監督したTV映画『メイド・イン・LA』を劇場映画用に拡大ヴァージョン化してリメイク。プロの強盗団のリーダーと鬼刑事が己の執念をかけて対決するサスペンス・アクションで目論見通りヒットを記録。

 

 ヴィンセントは強盗団一味であるマイケルの炙り出しに成功、それを手掛かりに強盗団のメンバーが判明。しかし首領と目されるニールの動向だけはなかなか掴めなかった。執念深く捜査を進めるヴィンセントだが私生活では三度目の妻ジャスティンとの仲は破綻寸前な上、妻の連れ子のローレンの行動もヴィンセントの悩みの種だった。ニールはヴァン・ザントに証券買取りを持ちかけるが、ヴァン・ザントは承諾する振りをして殺し屋を差し向け交渉は決裂。そんなささくれだった日々を送るニールがふとした事で知り合った若い女イーディと深い関係に。ニールはこれを機会に強盗生活から足を洗う事を考えるが、仲間たちはそれに対し…。

 

 刑事と強盗犯という対照的な立場にある二人がお互いの立場を認め合う様になる…というシチュエーションが本作の売りだろう。対峙関係にあった二人がコーヒーショップで面と向かって腹を割って話すシーンが本作最大の見どころで、フイクションである事を越えて二大俳優が実際に会話を交わしているだけで歴史的な重みがある。しかしだからといって刑事が捜査に手心を加えたり強盗犯が更生したりする展開にならないのは、さすがハリウッドのヒットメイカーならでは映画哲学めいた物を感じさせる。その一方刑事の破綻寸前の家庭描写のシビアさや強盗犯のらしからぬロマンス的展開は、幅広い大衆受けを狙ったサービス精神とは思う。

 

作品評価★★★

(ギャング役がお似合いだったアル・パチーノの荒み切った容貌に比べ、闇社会をくぐってきたロバート・デ・ニーロの方が堅気ぽく映るのも演出の狙いなのか。大ベテランのジョン・ヴォイドや『レオン』の子役でブレイクしたナタリー・ポートマンといった「大物」の脇役演技も印象的)

 

映画四方山話その612~忘れ難き男ジョン・カザール

映画】狼たちの午後|shukua|note

 アル・パチーノ&ロバート・デ・ニーロラインで思い出されるのはジョン・カザールという脇役俳優だ。まだ映画マニアになって日が浅かった頃日本の脇役俳優はTVドラマとかで観て既にかなりの知識があった俺だが、洋画関連の脇役知識はほぼゼロだった。そんな俺が初めて認識した脇役が『狼たちの午後』(75)で観たジョン・カザールだったのだ。

 実話を映画化した『狼たちの午後』で、ジョン・カザールはホモセクシャルで恋人の性転換手術の費用欲しさに銀行に押し入ったアル・パチーノと行動を共にする強盗犯に扮している。人質を取って銀行に籠城しTVニュースに報道され、俄かスターみたいになってノリノリな部分もあるパチーノに比べ、カザールは「俺はホモじゃない」と終始不機嫌で、陽性なパチーノに比べると対照的に陰気キャラ。警察もパチーノの方は扱いやすいけどカザールはキレたら何をするか分からない厄介な存在とされ、結局銀行に突入した警察隊にカザールだけ射殺されてしまう。主犯でないのに損な役割を担わされる不運な男だった。

ゴッドファーザー : 作品情報 - 映画.com

 映画デビュー作『ゴッドファーザー』(72)でカザールが演じたコルオレーネ家の次男フレドは、気が小さくギャング組織を仕切るには不適応とされ家族の庇護の下で生かさず殺さずの生活を余儀なくされている影の薄い男。そんな周囲の自分を見る目に対する反発もあったのか『ゴッドファーザーPARTⅡ』(74)では組織の首領であるパチーノ扮する弟マイケルに自分もできる男だと示そうとした結果、組織を裏切る事になってしまう。

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 絶縁関係だった弟から戻ってきてもいいと言われて喜んだフレドが組織の掟の為弟の指示で殺される展開は『PARTⅡ』の白眉だろう。甥(マイケルの子供)と遊んだその直後に自分が処刑されるとは露とも思っていない彼がボート上で銃殺されるシーンは、死が暗示されるに留まる描写の分だけ余計痛々しい悲しみに被われていた。パチーノの苦悩演技が様になっていたのは、実生活でもお互いが無名だった頃からカザールと親友関係だったという事がフィードバックしたからではなかったのか?

ディア・ハンター」:戦闘を描くことなく戦争を描いた、ベトナム戦争 ...

『ディア・ハンター』(78)でのジョン・カザールはベトナム戦争に従軍する事になる主人公のデ・ニーロを始めとする製鉄所で働くグループの一人として登場。『狼たちの午後』の時と比べまた随分と影が薄くなったなあと思ってしまったが、それもそのはずで既にカザールの体は癌に蝕まれた状態。しかし本人の希望とデ・ニーロやまだ一般的には無名だったメリル・ストリープらの協力(カザールを降板させるなら自分たちも降板するとデ・ニーロとストリープが主張)もあって出演はOKに(出番は減らされた可能性はあるが)。しかし癌の転移により映画公開を待たずして死亡。メリル・ストリープはカザールの私生活上のパートナーでもあった。

ジョン・カザール様 | 時は止まる君は美しい

 享年42歳という若死だったジョン・カザールが生前出演した作品は僅か五本。注目され始めた矢先の死は悲しいが、その五本の出演作が何れも高い評価を得ている得ているのが救いではある。