① なぜ今「マーガリン」が問題視されているのか


かつて「バターよりもヘルシー」と言われ、多くの家庭の食卓に並んでいたマーガリン。
しかし、近年では「マーガリン=体に悪い」というイメージが広がっています。

実際、世界保健機関(WHO)はトランス脂肪酸を「健康に悪影響を及ぼす主要因のひとつ」として警告し、2023年までに世界的に“事実上の全廃”を目標に掲げました。
一方で、日本ではまだ明確な使用規制がなく、コンビニやパン、菓子など、多くの加工食品にマーガリンが使われ続けています。

では、なぜマーガリンは「体に悪い」と言われるのでしょうか。
その理由を、化学と生理学の観点から分解していきましょう。

② マーガリンとは何か


マーガリンは、植物油に水素を添加して人工的に固めた油脂です。
常温では液体の植物油(大豆油、菜種油など)を、パンに塗れるような固形状にするため、「水素添加」という化学的処理が行われます。

この過程で生まれるのが「トランス脂肪酸」。
本来、植物油の脂肪酸は「シス型」と呼ばれる自然な構造を持っていますが、水素添加によって一部が「トランス型」に変化します。
この分子構造の“ねじれ”こそが、体内での異常反応の原因になるのです。

バターとの大きな違いは「天然か人工か」。
バターは乳脂肪からできる自然由来の飽和脂肪酸が中心なのに対し、マーガリンは化学的に加工された人工脂質です。
この構造の違いが、健康への影響を大きく分けます。

③ 悪影響の“主犯”トランス脂肪酸とは?


トランス脂肪酸とは、炭素の二重結合の位置が“反対側”にねじれた脂肪酸のこと。
このわずかな構造変化が、体内での代謝を狂わせます。

人体の酵素は「シス型」を処理するように設計されているため、トランス型を分解しづらいのです。
結果、代謝異常・細胞機能の低下・炎症反応などが生じます。

さらに、トランス脂肪酸は血液中の脂質バランスにも悪影響を与えます。
• 悪玉コレステロール(LDL)を増やす
• 善玉コレステロール(HDL)を減らす

この二重の打撃により、心臓病・動脈硬化のリスクを確実に高めることが多くの研究で示されています。

④ メカニズム

①:動脈硬化・心疾患リスクの上昇


最もよく知られているのは「心臓への悪影響」です。

トランス脂肪酸を摂取すると、血管の内皮細胞が炎症状態になりやすく、血管のしなやかさが失われます。
さらに、血中のLDLが酸化されやすくなり、動脈の壁に蓄積。これが動脈硬化の始まりです。

ハーバード公衆衛生大学院のMozaffarianら(2006)は、トランス脂肪酸摂取量が多い人は少ない人に比べて冠動脈疾患のリスクが29%高いと報告しています。
また、トランス脂肪酸の摂取が増えるほど、CRP(C反応性タンパク)という炎症マーカーも上昇することがわかっています。

つまり、マーガリンに含まれる油は「血管を老化させる炎症促進物質」になってしまうのです。

②:細胞膜の質低下と代謝異常

私たちの身体を構成するすべての細胞は、脂質の膜で覆われています。
この細胞膜の流動性が、ホルモンや栄養の出入り、シグナル伝達に深く関わっています。

ところが、トランス脂肪酸が細胞膜に取り込まれると、膜が“硬く”なります。
その結果、インスリン受容体の働きが悪くなり、血糖値を下げる力が低下。
つまり、糖尿病のリスクを高めるのです。

Ottoら(2012, Am J Clin Nutr)の研究では、トランス脂肪酸摂取量が多い群でインスリン抵抗性が顕著に高くなることが示されています。

代謝が悪くなれば、体重増加や脂肪肝、ホルモンバランスの乱れにもつながります。
「マーガリン太り」という言葉は、あながち比喩ではありません。


③:慢性炎症と脳への悪影響


トランス脂肪酸の影響は、血管や代謝だけにとどまりません。
最近では、脳へのダメージも注目されています。

脳内では、神経細胞の膜にも脂質が使われており、その質が思考・感情・記憶の働きを左右します。
トランス脂肪酸が脳に取り込まれると、炎症性サイトカイン(IL-6など)が増え、神経炎症が慢性化。

Okerekeら(2011, Am J Clin Nutr)の追跡研究では、トランス脂肪酸の摂取量が多い人ほどうつ症状の発症率が高い傾向が報告されています。
また、認知機能や記憶力の低下とも関連が示唆されています。

つまり、マーガリンを日常的に摂ることは、脳の「情報伝達の質」を落とし、メンタルヘルスにも悪影響を及ぼす可能性があるのです。


④日本の現状と海外との比較


デンマークでは2003年に、アメリカでは2018年に、トランス脂肪酸を含む油脂の使用を全面禁止。
これにより、心疾患死亡率が有意に低下したという報告もあります。

一方、日本では、法的規制はなく「業界の自主基準」にとどまっています。
表示義務も緩く、「トランス脂肪酸0g」と書かれていても、実際は100gあたり0.3g未満ならゼロ表示できるというルールがあります。

つまり、「ゼロ」と書いてあっても“実質ゼロではない”のです。

WHOは「総エネルギー摂取の1%未満に抑える」ことを推奨していますが、これは1日2000kcalの人で約2gまで。
パン、クッキー、スナックなどを日常的に食べると、すぐに超えてしまうレベルです。


⑤健康的に「代替」するには

マーガリンを完全にやめることが難しくても、少しずつ「より良い脂」を選ぶ意識が大切です。

✅選び方のポイント
• **「部分水素添加油脂」**と書かれた商品は避ける
• **「トランス脂肪酸フリー」**を明記しているブランドを選ぶ
• 成分表示の最初に「植物油脂」とある場合は要注意

✅代替のおすすめ
• バター:自然由来。少量でも風味が強く、満足感が高い
• オリーブオイル:抗酸化物質ポリフェノールを多く含む
• アボカドオイル・ナッツオイル:良質な一価不飽和脂肪酸が豊富

油を「減らす」よりも、「質を変える」ことが健康的なアプローチです。

まとめ:大切なのは「脂質の質」を選ぶ意識


脂肪は悪ではありません。
むしろ、脳のエネルギー源であり、ホルモンや細胞膜を作る大切な栄養素です。

しかし、トランス脂肪酸のように人工的に歪められた脂質は、私たちの体が本来持っている代謝システムでは処理できません。
その結果、炎症、血管障害、脳機能低下など、さまざまな不調を引き起こします。

マーガリンを避けるという行動は、「脂質の摂取量を減らす」というよりも、
「身体が喜ぶ油を選ぶ」という前向きな選択です。


🧭最後に


もしあなたが今日、朝食にパンを食べるなら——
その上に塗るものを、少しだけ見直してみてください。

それは、ほんの小さな選択かもしれませんが、
あなたの血管・脳・未来の健康を守る、大きな一歩になるはずです。