見慣れた街は、朝方の空気に冷えていた。

自宅から居候に追いやられて、当てもなくさまよう。


――…なんであんな男をそばに置いたのだろう。

勝手に金を使い、しまいにゃ女(未成年)を連れ込む様な、クズ。



…いや、ただの埋め合わせだからだ。

そうだ、幸せはいつか来る。



そんな事をぐるぐる考えていたらドンキは営業終了時間。

肌寒い外に放り出される。

中途半端に田舎の地元で時間潰し出来る場所はなくなった。



財布と携帯だけ入った小さな鞄からシガレットケースを取り出し、火をつける。


気がつけば空から小雨が降り始めていた。



「(だるい、なぁ…)」



ロングスカートの裾を持ち、その辺の店の下に非難。

サンダルを履いた足先が、冷たく濡れてる。


その場にしゃがみ込んで、どれくらい過ぎてたか。






「風邪ひいちゃうよ?」


誰だよ…男か。つうか寝てたのか。足元の吸殻は、三本。

腕時計はしてない、携帯も面倒だから見ていない。相変わらず雨は降り続けている

ただ少し、透明な傘越しに見上げた空は明るくなっていた。


「こんな時間に一人で…どうしたのかなと思って」


ぼやけた思考にじんわり染み込む様に――…

黒で纏められた服に、シルバーが数点。ミルクティーカラーのふわふわ頭。

そんな見た目と違って、その声は穏やかなトーンだった。


「…店暇なの?あなた、幹部でしょ?」


「えっ?いやっ僕まだ新人で、始めて一週間も経ってないんですよ」


こんな中途半端田舎にもそうゆう店が数店舗オープンしてるのは知っていたけど

中性的な…ジャニーズ顔とゆうか。若手人気俳優!みたいな。

はにかんだ顔は犬っぽくて、本当に誰にも愛されそうな、綺麗な子だったから。

「意外…」


ふ、と自然と笑みが漏れた。

いろいろ見た目とちぐはぐはな所と、なんか精一杯努力してるんですって雰囲気に。


「もしかして、バンドとか好きなんですか?


「なんで?」


「携帯のストラップがヴィヴィアンだし…あと、なんか空気が(笑)」


「好きっちゃ好きだけど…スタとマネージャーやってるからかも」


「自分、ベーシストなんです!」


ひときわ大きな声で彼は言い、因みに指引きですっと誇らしげに構えてみせた。


「へぇ。私も前ベース持ってたよ」


まるで犬がぴょんこぴょんこと遊んでくれる人の周りを跳ねるみたく彼の表情はくるくる変わった。
今は仕事仕事で、辞めちゃったけどね。と、ちょっと申し訳なく言い足していた。


「よかった。さっき先輩と一緒だったんですけど、先輩は…店に戻っちゃって。でも、こんな時間に傘も無しでひとりだから気になって…初のキャッチです(笑)」


そりゃー、すっぴん私服丸出しだからねぇ…。

地元にしては(顔も喋りも)かなり魅力的なホスト君なんだろうが、残念だけど、今はそういう気分でもない。
だけど何だか自然に話していたから、あと、楽器持ちってゆうのも気になるし…


「アドレス、平気だよ。番号も。今日は無理だけどね」


「ほんとですか?!やったー…じゃぁ、近いうち食事にでも行きましょうね!」


いきなり店の営業ではなく食事?とも思ったが、あのはにかみに言葉を呑んでしまった。

形式的に、名刺を渡され、そのあと赤外線でぴっ。


「なんて登録しておけばいいですか?」


「如月 春なんで…はるるでも春くんでも任せます(笑)」


店名も、言わない…夜職特有の言葉の後ろに影も。見当たらない。

まるでライブハウスや趣味の合う人種が集まる場所でのやりとりみたいで


「私は、みちるで。未知が流れるって書くんだけど」


「じゃあ未知流さんって登録しておきます!」


そんな時ふいに携帯が鳴った。

着信音でわかる、絶対命令俺様野郎から…


「…出ないんですか?」


「いろいろ訳ありで。。。」


ぶちっと音が鳴らまいか、久しぶりに普通な出会いをしていたから

余計にあれとの関係性に…違和感がした。すごく、暗く湿って重たい様な。


「仕事の話でも、なんでも…聞くだけは出来るから、連絡下さいね」


絶対ですよ?

どうゆう意図でその顔(表情)を浮かべたのか、分からなかった。

全部を知っていて、悲しげな。でもどうしようも出来なくてつらいみたいな…



「これ、預かってて下さい。それで、食事の時に返して下さい」



手のひらには、この雨で薄っすらと濡れた、シルバーネックレス。

鐘のカタチをしていて ちりん、とまだ静かな街にその音が鳴り響いた。






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