宇宙の「果て」はどこにある? 「中心」は?

Ethan Siegel によるストーリー •1 時間

https://images.forbesjapan.com/media/article/64536/images/main_image_8e6db0f520c852e2427371af8205b96e38878ef9.jpg 望遠鏡などの道具を用いてできるかぎり遠くまで見ても、宇宙は360度、ほぼ同じように見える。銀河の数や、存在する銀河の種類、それぞれの銀河に含まれる恒星の数、通常の物質および暗黒物質の密度、さらに肉眼でとらえられる放射線の温度は、われわれが眺める方向とは関係なく、すべて均一である。地球から観測できる最大範囲の宇宙のどの領域を比べても、その領域間の差は平均わずか0.003パーセントか約3万分の1である。

実際、われわれがとらえられる最大の差は、見る方角ではなく、地球からの距離によって生じる。遠くを見れば見るほど、宇宙の過去へとさかのぼれて、遠くの天体から放たれる光の量が多ければ多いほど、光の波長は長くなる。そう聞くと、光の量が多ければ多いほど光は偏移し、その光源である天体はさらに速度をあげて地球から離れていくと思う人が多いだろう。それゆえ、もしわれわれがあらゆる方向を探り、「宇宙のどの地点からなら、全方向が均等に後退するのを見られるだろうか」と考えれば、宇宙の中心を突きとめることができるはずだ。

だが、それは正確とは言いがたい。実際にはどのようなことが起きているのか。宇宙の中心に関する最高の科学知識を利用して、今わかっていることを見ていこう。

光速に近い速度で移動している物体が光を放っている場合、その光は観測者の位置によって異なって見える。光源より左にいれば、光源は離れていくように見え、そのため光は赤方偏移する。一方、光源より右にいると青方偏移する。つまり、光源が地球に近づけば近づくほど高周波になる。WIKIMEDIA COMMONS USER TXALIEN

光速に近い速度で移動している物体が光を放っている場合、その光は観測者の位置によって異なって見える。光源より左にいれば、光源は離れていくように見え、そのため光は赤方偏移する。一方、光源より右にいると青方偏移する。つまり、光源が地球に近づけば近づくほど高周波になる。WIKIMEDIA COMMONS USER TXALIEN© Forbes JAPAN 提供

光速に近い速度で移動している物体が光を放っている場合、その光は観測者の位置によって異なって見える。光源より左にいれば、光源は離れていくように見え、そのため光は赤方偏移する。一方、光源より右にいると青方偏移する。つまり、光源が地球に近づけば近づくほど高周波になる。WIKIMEDIA COMMONS USER TXALIEN

波長の変化

たいていの人が感覚的に理解していることだが、物体が近づくと、それが発する波動は圧縮されて、頂点と底点との間隔が狭くなるように見える。いっぽう、物体が離れていくと反対の現象が起きる。波動が伸張し、頂点と底点との間隔が静止しているときよりも広がる。われわれがこういった現象を身近で実感するのは音だ。消防車やパトカー、アイスクリーム売りの車が近づいてきているのか離れていっているのかは、音の高低から判断できる。これはどんな波動でも言えることだ。光も例外ではない。われわれはこの動きによる波動の変化を、発見者の名前にちなんでドップラー効果と呼んでいる。

ただし光に関して言うと、波長の変化は音の高低ではなく、エネルギーの高低に比例している。光の場合はこうなる。

・長波長になればなるほど、低周波で低エネルギーになり、色は赤味を増す。

・短波長になればなるほど、高周波で高エネルギーになり、色は青みを増す。

われわれが測定する天体のひとつひとつは、宇宙に存在するどんな物質もそうであるように、われわれが認識している原子やイオンを持っている。すべての原子やイオンは、光がある特定の波長のときだけ、光を放出したり吸収したりする。もしわれわれがどの原子が存在するかを突きとめ、スペクトル線への規則的な変化を計測できれば、光が実際どのように赤方偏移したり青方偏移したりするのかを算出できる。

1917年にヴェスト・スライファーが初めて発見したことだが、われわれが観測している天体のいくつかはある特定の原子やイオン、分子の吸収や放出の分光的特徴を示しているが、光スペクトルの赤い端か青い端かどちらかに規則的に偏移している。このデータとハッブルの距離測定をあわせて考えると、膨張しつづける宇宙に関する最初の考えが生まれる。つまり、銀河が遠ざかるにつれて、光はより赤方偏移を起こす。VESTO SLIPHER,(1917): PROC. AMER. PHIL. SOC., 56, 403

1917年にヴェスト・スライファーが初めて発見したことだが、われわれが観測している天体のいくつかはある特定の原子やイオン、分子の吸収や放出の分光的特徴を示しているが、光スペクトルの赤い端か青い端かどちらかに規則的に偏移している。このデータとハッブルの距離測定をあわせて考えると、膨張しつづける宇宙に関する最初の考えが生まれる。つまり、銀河が遠ざかるにつれて、光はより赤方偏移を起こす。VESTO SLIPHER,(1917): PROC. AMER. PHIL. SOC., 56, 403© Forbes JAPAN 提供

1917年にヴェスト・スライファーが初めて発見したことだが、われわれが観測している天体のいくつかはある特定の原子やイオン、分子の吸収や放出の分光的特徴を示しているが、光スペクトルの赤い端か青い端かどちらかに規則的に偏移している。このデータとハッブルの距離測定をあわせて考えると、膨張しつづける宇宙に関する最初の考えが生まれる。つまり、銀河が遠ざかるにつれて、光はより赤方偏移を起こす。VESTO SLIPHER,(1917): PROC. AMER. PHIL. SOC., 56, 403

それによって得られた結果は注目に値する。最も近い天体の場合、秒速数百から数千キロメートルまでの速度に応じて、赤方偏移も青方偏移も見られる。天の川銀河のような巨大な星団の中心から離れた銀河は、最高速度でも低いほうに属するが、巨大な星団の中心に近い銀河は光速の1パーセントの速さにまで達する。

同じ範囲内のより遠くに位置する天体を見ると、銀河間の推定速度は秒速100キロメートルから1000キロメートルまでになるが、地球からの距離に比例して、すべてがいっそう赤く偏移していく。

観測によって得られた結果は非常に明解だ。概して、地球から距離があればあるほど、赤方偏移の度合いが強まる。しかし、それは光を放つ天体が、その光をとらえて観測しているわれわれに相対して宇宙を移動しているからだろうか? それとも、宇宙全体が膨張し、その結果、光が地球と観測の対象となっている天体の間に横たわる宇宙を移動しつづけているからだろうか?

伸張と収縮

天体は宇宙空間に存在して動いているという最初のシナリオは容易に理解できるだろうが、次のシナリオは少々、説明が必要だ。アインシュタインの一般相対性理論に照らすと、宇宙は粒子やほかの物質が移動する静止した“背景”ではなく、宇宙に存在する物質やエネルギーの影響を受けて膨張する、時間を有する布地の一部である。巨大な集団がある場所では布地は湾曲し、量子は直線ではなく、宇宙の屈曲に沿った軌道を移動する。たとえば日食のときに太陽のまわりで起きる光の屈曲は、重力に関して、ニュートンの万有引力の法則に異論を唱えたアインシュタインの予測が正しかったのを初めて示した事象だった。

もうひとつ一般相対性理論が証明したのは、宇宙に物質やエネルギーが均一に満ちているとすれば、ぴたりと静止した、まったく変化のない時空は存在しえないという点だ。すべての要素がすぐに不安定になり、宇宙は膨張するか収縮する。時空が伸張すると、そこに存在する光も伸張する。

・宇宙という布地が収縮すると、波長も縮む

・宇宙という布地が膨張すると、波長も伸びる。

われわれの目に届く光の特性には、宇宙を渡るあいだに受けた膨張する宇宙の影響が刻まれている。隔たりが生まれる点だ。

原理から言えば、収縮と膨張による影響はいずれも生じている。宇宙という布地が伸張すると、宇宙を渡る光は体系的に変化し、銀河や光を放つほかの天体もその伸張する宇宙を移動する。

第一原理から、われわれの宇宙がどうなるのかを知ることはできない。数学的には、ひとつの方程式には複数の解があり、それは一般相対性理論の方程式にもあてはまる。“物質”だらけに見える宇宙は、膨張していたか収縮していた可能性がある。宇宙論的な偏移を重ねあわせると、われわれが特異速度と呼ぶものや、宇宙に存在する物質が、あらゆる物質やエネルギーの根源の重力のような影響を受けて、どのように動くかを発見できそうだ。

天体に見られる変化は、どんなものであれ伸張や収縮の影響を受けた結果である。天体が放つ光がどう変化するかを測定しても、どの要素が宇宙論的で、どの要素が宇宙論的でないのかはわからない。だが、さまざまな距離に位置する数多くの天体を観測すれば、それらの平均的な傾向から、宇宙全体がどのように膨張しているかはわかる。

宇宙の「果て」はどこにある? 「中心」は?

宇宙の「果て」はどこにある? 「中心」は?© Forbes JAPAN 提供

地球から観測できるのは、半径460億光年の範囲だろうが、さらにその外に観測できない宇宙が広がっているのは確かだ。これまでわれわれが宇宙を知る手がかりにしてきたのは、宇宙の形状ではなく、観測した光が放たれてから経過した時間である。それゆえ、どこか特定の位置を宇宙の中心だと決めることはできない。WIKIMEDIA COMMONS USERS FRÉDÉRIC MICHEL AND AZCOLVIN429, ANNOTATED BY E. SIEGEL

天体間の距離はなぜ伸びるのか?

1920年代の終わりにはすでに認められたように、提示された証拠は宇宙が膨張しつづけていることを示しただけでなく、宇宙がどのように膨張するかについての予測は、宇宙はさまざまな物質やエネルギーで均一に満たされているという一般相対性理論にもとづく予測に合致していた。宇宙が何でできていて、今日、宇宙がどのように膨張しているかがわかれば、一般相対性理論の方程式を用いて完璧な予測ができる。大きさや分離距離、過去のあらゆる時点での瞬間的な膨張率の観点から、宇宙がどのようなものか、そして、未来のあらゆる時点でどのようになっているかを突きとめることができるのだ。

しかしながら、もしこれが実際に起きていることだとすると、膨張しつづけている宇宙は、起点から破片をさまざまな速度で飛び散らせるような爆発はいっさい起こしていないことになる。膨張する宇宙は、いわばレーズンの詰まった発酵中のパン生地のようなものだ。もしあなたが銀河のような重力によって結合された物体だとすれば、あなたがレーズンで、パン生地が宇宙だ。パン生地が発酵するにつれて、レーズンは互いに離れていくように見えるが、レーズンがパン生地の中で移動しているわけではない。レーズン自体が動いているわけではないが、ほかのレーズンと距離が離れていくように見えるし、近くのレーズンよりも遠くのもののほうが速く離れていくように見える。

宇宙の「果て」はどこにある? 「中心」は?

宇宙の「果て」はどこにある? 「中心」は?© Forbes JAPAN 提供

宇宙の「果て」はどこにある? 「中心」は?

宇宙の「果て」はどこにある? 「中心」は?© Forbes JAPAN 提供

膨張する宇宙に見立てた“レーズンパン”の模型。宇宙(パン生地)が膨張すればするほど、相対距離が伸びる。レーズン間の距離が開くにつれ、光はそこまでの時間に比例して赤方偏移する。膨張する宇宙から予測された赤方偏移と距離の関係は、観測によって証明された。それは1920年代に発見されたことと一致する。NASA / WMAP SCIENCE TEAM

では、この丸まったパン生地がどれくらいの大きさか、われわれはこの中のどこにいるのか、そしてパン生地の中心はどこかは、どうすればわかるのだろうか?

これは“パン生地”の外を見ることができれば、答えの出る問いだが、実際はパン生地から出て外を見ることはできない。実際、可能なかぎり宇宙を見わたせば、宇宙は3万分の1の範囲まで見事に均一である。130億8000年前に起きたビッグバンによって、われわれは全方向、最大460億光年先まで見ることができ、その最も遠い場所でさえ、宇宙は驚くほど均一なのである。これを前提とすれば、以下の問いの答えが出るだろう。

・宇宙に見立てた“丸いパン生地”はどのくらい大きくなりうるのか。

・われわれには見えない観測不能な宇宙はどこまで広がっているのか。

・観測不能な宇宙のトポロジーと接続性とは何か。

・宇宙に中心はあるのか、宇宙に果てはあるのか、われわれには観測しきれない広大な宇宙の中で、われわれはどこに位置するのかなど、われわれが把握できている範囲をもとに考えうる宇宙の姿はどのようなものなのか。

結論として言えるのは、宇宙は一般相対性理論と完全に合致しており、パン生地の外が見えない生地の中のレーズンと同様、いかなる観測者も、もし自分から離れていくあらゆるものが見えるならば「自分が中心だ」という、わかりきった(だが誤った)結論を主張できるということだけだ。

宇宙の「果て」はどこにある? 「中心」は?

宇宙の「果て」はどこにある? 「中心」は?© Forbes JAPAN 提供

だが、「自分が中心だ」というのは正当な主張ではない。宇宙における地球の位置から言えるのは、今日、観測可能な天体の中で、地球に近いものが最も進化した年老いた天体であり、それより遠くにあるのは若い天体であることだけだ。目下のところ、近いところにある天体の膨張率は、遠い天体のそれよりも低い。最も近い天体が放つ光は赤方偏移しにくく、天体の変化は、遠いところにある天体よりも宇宙論的要素の影響を受けにくい。というのは、宇宙全体に存在する天体がいずれも光より速い信号を発することができないからだ。現在われわれが観測している各天体からの光は、今この瞬間、地球に到達している光ではあるが、発せられたのは間違いなく過去だ。宇宙をさかのぼれば、同時に時間をさかのぼることができる。したがって、

・天体の過去を見ることができる。

・今よりも若く、ビッグバンに近い時期の天体を観測できる。

・宇宙が今よりも高温高密度で、膨張する速度も速かった時期の天体を観測できる。

・光は、それが放たれてから宇宙を渡り、地球に届くまでのあいだに波長が伸びていたはずだ。

しかし、もし地球から見て全方向が可能なかぎり均一に見える場所がどこか把握できていれば、現在、われわれに見えているものがひとつある。ビッグバンが残した宇宙マイクロ波背景放射だ。

宇宙の「果て」はどこにある? 「中心」は?

宇宙の「果て」はどこにある? 「中心」は?© Forbes JAPAN 提供

ビッグバンの残光は、赤い側が平均より3.36ミリケルビン高く、青い側が平均より3.36ミリケルビン低い。これは概して、一定の方向に進む光の速度の約0.1パーセントの速度の宇宙マイクロ波背景放射の静止座標に対する地球の総移動によるものとされている。DELABROUILLE, J. ET AL.ASTRON.ASTROPHYS. 553(2013)A96

宇宙のあらゆる場所で、正確に2.7255ケルビンの均一な放射線が見られる。その温度は、われわれがどの方向を見るかによって、数十マイクロケルビンからおそらく数百マイクロケルビンの差がある。しかし、相対するふたつの方向において、一方がもう一方よりも温度がわずかに高いことがわかっている。これをわれわれは宇宙マイクロ波背景放射の双極子としてとらえている。

このきわめて大きな約±3.4マイクロケルビン、あるいは800分の1マイクロケルビンの双極子はなぜ生まれたのだろうか?

その答えを得るには、宇宙における地球の動きに関する議論のスタート地点に戻るのが一番だ。もし、「自分はこの位置で、ある一定の速度で動いているから、目にしている放射線の背景が実際に均一になるのだ」と考えれば、宇宙には静止座標が存在することになる。われわれは自分たちの位置を維持するために、光速に近い速度で動くことになるが、わずかなずれが生じる。この双極子成分は秒速およそ368±2キロメートルの速さ、あるいは速度に呼応する。われわれが自分自身をまさにその速さで「押しあげる」か、現在の速さのまま約1700万光年移動するかすれば、あくまで夢想的ではあるが宇宙の中心と言える場所に留まり、宇宙論的展開を眺めている気分になれるはずだ。

宇宙の「果て」はどこにある? 「中心」は?

宇宙の「果て」はどこにある? 「中心」は?© Forbes JAPAN 提供

対数目盛りで計ると、地球に近い宇宙は太陽系と天の川銀河だ。しかし、そのはるかかなたに数多くの銀河や大規模な宇宙のクモの巣、さらにはビッグバンの直後に発生したモーメントがある。われわれには、現時点で地球から460億1000万光年先にある宇宙の地平線の向こう側を観測することはできないが、いつの日か宇宙がもっと姿を見せてくれる日が来るだろう。今日、観測できる宇宙には2兆の銀河が存在するが、時間とともに、観測できる範囲は広がり、おそらく今はわかっていない宇宙の真実が明らかになるはずだ。WIKIPEDIA USER PABLO CARLOS BUDASSI

問題は、あなたが宇宙のどこにいようと、あなたは時間──ビッグバンから現在に至る時間──のどこかの瞬間に存在しているということだ。光が放たれると、その光はあなたが観測しているものの相対運動と宇宙の膨張によって進路が変わってはいるが、あなたは目にするものすべてをあるがままに見ることができる。

住んでいるところによっては、ある方向に秒速何百、あるいは何千キロメートルで進む動きに応じた、宇宙マイクロ波背景放射の中の双極子が見えるかもしれないが、あなたがそのパズルのピースになってしまえば、まさに地球からとらえられている宇宙──見えるかぎり全方向が均一な宇宙──の中心にいることになる。

ビッグバンから今に至る時間という観点から言えば、宇宙は地球を中心に広がっており、われわれが観測できる距離には限界がある。われわれがとらえられる宇宙は、実際の宇宙のごく一部でしかない。宇宙は大規模でありうるし、折り重なっている可能性も、無限である可能性もあるが、われわれにはわからない。確実にわかっているのは、宇宙は広がりつづけているということと、宇宙を駆け抜ける放射線は波長がどんどん伸び、それにつれて密度は低くなっているということ、そしてより遠くにある天体のほうが年老いているようだということだ。宇宙の中心はどこにあるのかという疑問は実に深淵だが、それに対する現実的な答え──宇宙に中心はない──はおそらくあらゆる答えの中で最も深淵な結論だと言える。