幼稚園のころの夢はアイドルだった。

当然、歌って踊れる的な。歌は好きだったが、ダンスは習ったことなんかなかった。それでもなぜかなろうと、なれると思っていた。幼児の思い込みの激しさよ。おい、いいか。お前が思っているほどお前の手足は長くない。



小学生になったら、夢はマンガ家に変わっていた。

丸ペンGペンインク、どれもバッチリ揃えた。キャラクターの顔は描けた。でも服が描けなかった。そしてもちろんインクは肘にぶつけてこぼした。スクリーントーンってどうやって貼るのだ。そもそも手先が器用ではないのだ。かといって面白いストーリーを考えられるわけでもない。わたしの輝ける舞台はここではないのだ。本当に自分のことを中途半端な人間だと思う。



ライターになりたい、と言い出したのは中学生から。

周りの子たちより読書量が多かったぶん、作文を褒められることがあった。部活というホラーな縦社会にどうしても入りたくなくて、学年で2人しかいない帰宅部のうちの1人になった。ワンオブザ帰宅部。みんなより早々に家に帰って、音楽を聴いたり本を読んだりする時間を手に入れた。作家でなぜかハマっていたのが星新一。書店で売っていたものはほとんど買ったような気がする。簡潔な文章。理想的な起承転結。1本1本の話が短くて、隙間時間でも読める。ちなみにわたしはそうめんを食べながら読んだ。どうでもいい話すぎて前歯が抜け落ちそうだ。

家庭科で将来どんな仕事に就きたいか、発表しましょう!というクソみたいな授業を受けさせられたとき、正直何にもしたくねーよ、と言いたかった。でもそんなアウトローなこと言えるほど、わたしはグレた生徒ではなかった。成績が5段階で3の評価を得ている地味なわたしは、3の役割を果たさないといけない。

「縦社会から逃げた女がどんな仕事に就けるというのだろう…」

3の役割の女は考えた。

「あ、なんか書けばいいじゃん。交換日記とかおもしろいって言われるし。でも小説家とかは無理だから、なんか文章書くひと!ライター!」

こうしてクソみたいな授業をわりとアッサリと切り抜けたのである。さすが3、良くも悪くもない答えだ。


そして一応わたしにも女子高生という素晴らしい時期があった。箸が転がってもおかしい、というか、正直もう気が触れてるんじゃないか、っていうくらいに輝きに満ちながら笑っていたあのころ。でもそれだけじゃ足りなかった。楽しいことがたくさんあっても自分の心はなんだか満たされていなかった。

ここからはあるあるルートで、音楽を聴き始めた。初めてライブハウスに行っちゃったりもした。ライブ処女を捧げたclub Asiaさん、もう潰れましたか?

音楽で踊れることを知った。
音楽で笑顔を浮かべられることを知った。
音楽で涙を流せることを知った。

いろんな音楽を聴きたいと思った。
それを聴いて自分がどう感じたか、発信していきたいと思った。
それが仕事になったらどれだけいいだろうと心の底から感じた。


音楽ライターになってみたいな、なんて夢を持つようになった。


成績が5段階で3の女は、一応大学に行くことを目標としていたので、予備校に通っていた。ここで夢を思いっきりぶっ飛ばされることになる。

個人面談の際、古典の授業の先生に、

「え?あなたライターになりたいの?無理に決まってるじゃない。ほんと甘いわね。ひとりっ子?あー、だからか。」

と、謎の説教を食らったのである。
いま考えたらライターはともかくひとりっ子への偏見は消し去れ!ばーかばーか!と言い返せるのだが、当時のわたしは大人の言うことは絶対だと思っていたので、甘ちゃんのひとりっ子だしなるほど無理か、と思ってしまったのである。そしてアッサリとライターになる夢を諦めてしまう。ああ、粘り強さのないバカなわたしよ。


粘ることを知らない女は自分の能力では一般受験で大学に受からないことを早々に察し、指定校推薦でなんとか合格。キャンパス生活を送る。

ライターになりたいことなんてすっかり忘れ、高校からの音楽好きが加速しタワレコ、TSUTAYA、ハイラインレコード(誰か知っているだろうか)に通い詰める。生きるとは…死ぬとは…なんていろいろな意味で危ないことを考えるようになった。それでもやりたいことに溺れることができたあの時期は、毎日がイェイイェイウォウウォウパラダイスであった。馬鹿か。

そしてパラダイスも終焉を迎える。就活。最悪のイベント。将来のことを真剣に考えないといけない。もう家庭科の授業の規模では済まされないのだ。

成績が5段階で3の女は考えた。
ライターにはなれない。なれるわけないと言われたから。自分でもそんな実力はないと思う。
でも音楽には携わりたい。

結局CD・DVDのプレスの会社に勤めることになった。特に不満はなかった。むしろ5段階の3にしては自分が多少なりとも音楽に関われることが嬉しかった。


でもなんだかんだでその会社を4ヶ月で辞めた。まぁ、なんだかんだあったのだ。

それからTSUTAYAでバイトをしてみたり、家庭教師のバイトをしてみたり、フラフラ好きなように過ごしていた。

そこから、さらになんだかんだが起きて、バイトすら出来なくなってしまった。
なんだかんだにもいろいろレベルがあると思うが、自分でもなかなかハイレベルのなんだかんだである。


やりたいことなんてもう頭の中には残っていなかった。
1日を生きるだけで精一杯だった。


成績5段階で3の女は、なんとそのまま10年もの時を過ごしてしまった。働きもせず、結婚もせず、ずっとひとりぼっちで過ごした。どうやら勉強以外のことはてんで駄目だったようだ。そしてついに周りのひとたちに叱られるようになったのである。

叱られてから考えるような駄目な人間だけれど必死に考えた結果、自分がなりたいものになることにした。

モノ書きに、ライターになってみよう。
原点回帰。初心忘れるべからず。


あと、なにかしら書いてればライターやってるって名乗れるし。ブロガーじゃなくてライター。なる。つうかなった。今。


夢、叶える。