憲法判例解説

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憲法判例の意訳・超訳、解説をします。

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やさしい箕面忠魂碑訴訟(最判平成5216) 

 

(事案)

 

箕面市は、大阪市のベッドタウンとして高度成長期に急激に人口が増加しました。そのため、箕面小学校でも生徒が急増し、一方で、校舎が老朽したため、校舎の増改築と校庭の拡張を計画しました。

 

箕面小学校と柵で仕切られた市所有地に忠魂碑がありましたが、この忠魂碑を移転し、その土地を小学校用地として使用するため、箕面市は、移転のための土地を購入し、そこに忠魂碑を移転・再建しました。これが、憲法203項に禁ずる「宗教的行為」であるとして問題になりました。

 

また、忠魂碑を管理していた遺族会は、毎年、忠魂碑の前で神式仏式による慰霊祭を行っていましたが、この慰霊祭に、市の教育長が参列したことも問題になり、これに対して給与を支払ったことは、憲法201項後段、89条違反が禁止する「宗教団体」または「宗教上の組織・団体」への特権付与であり、公金等の支出にあたるとして争われました。

 

(判決)

 

(1)土地購入・無償貸付・移転・再建の203項違反について

 

政教分離規定というのは、信教の自由を間接的に保障するための制度を保障したものです。政教分離原則は、国と宗教のかかわり合いすべてを禁止するものではなく、信教の自由を保障するという目的からみて、相当とされる限度を超えるものだけを禁止すると考えるべきです。

 

203項が禁止する「宗教的活動」も、国と宗教がかかわるすべての行為のことではなく、相当とされる限度を超えたもののことです。

 

相当とされる限度を超えるものとは、目的が宗教的意義を持っており、効果が、宗教に対する援助、助長、促進または圧迫、干渉などとなる行為のことです。これを判断するにあたっては、行為の外面だけでなく、当事者の意識や、一般人の評価を考え、社会通念に従って判断しなければなりません。

 

本件についてみると、第1に、忠魂碑は、もともと戦没者記念碑的なもので、神道等の特定宗教とのかかわりは、少なくとも戦後は希薄です。第2に、遺族会は宗教的活動を目的とした団体ではありません。そして、第3に、本件は、小学校の校舎の増改築のためです。

 

以上から、本件の行為の目的は、もっぱら世俗的なものです。その効果も、特定の宗教を援助、助長、促進又は他の宗教を圧迫、干渉するものではありません。

 

ですから、相当とされる限度を超えるものではなく、201項にいう「宗教的行為」ではありません。

 

(2)遺族会は宗教団体か

 

201項は「宗教団体」への特権付与、89条は「宗教上の組織・団体」への公金支出等を禁止しますが、ここでいう「宗教団体」や「宗教上の組織・団体」も、宗教とかかわり合いのある行為を行う組織・団体のすべてではなく、特権を与えたり、公金支出等を行うことが、特定の宗教に対する援助、助長、促進又は圧迫、干渉等になって、政教分離原則に反すると考えられるものを指します。

 

そして、それは、特定の宗教の信仰、礼拝または普及等の宗教的活動をすることを本来の目的とする組織・団体のことなのです。

 

遺族会は、戦没者遺族の相互扶助・福祉向上と英霊の顕彰を主たる目的として設立されたものですから、宗教的な行為をしたとしても、それが本来の目的ではないので、憲法201項、89条の「宗教団体」や「宗教上の組織・団体」ではありません。

 

(4)慰霊祭への参列は政教分離違反か

 

上記のように、第一に、忠魂碑は戦没者記念碑的な性格のものであり、第二に、遺族会は宗教団体ではなく、第三に、慰霊祭への参列は、公職にあるものの社会的儀礼として、戦没者や遺族に対して弔意、哀悼を表すために行われたものです。

 

ですから、慰霊祭への参列は、世俗的な目的であり、効果も、特定の宗教の援助、助長、促進又は圧迫、干渉等になる行為ではありません。ですから、この行為は、憲法上の政教分離規定に違反するものではありません。

 

以上のように述べて、箕面市の行為をすべて合憲としました。