1991年3月、俺は渡米した。


性懲りもなく俳優になってやろうなんて無謀な夢を抱いて早20余年、まだまだ細々と暮らす毎日。


俳優なんて暇な時はとことん暇で時間をもてあそぶ事も多々。


気付いたら暇さえあればスポーツニュースを読む人間になっていた。


どうせならこの際アメリカのスポーツを俺なりに語ってやろうなんて思ってみた。


俺は日本で高校卒業までずっとバスケットをやってきた。


高校卒業後アメリカに来て本場のバスケットに触れ、さらにバスケットの魅力にはまってしまった。


バスケットを通じていろんな奴等と友達になった。


黒人の連中から"Speedy" などとニックネームを付けられ要注意人物に名を上げられ光栄な気持ちで満たされてた時期もあった。


今はもう40を過ぎたが相変わらず近所の公園で時々適当に集まった連中とプレーしている。


  俺が通う近所の公園の中にあるバスケットコート。この日俺が出向いた時は黒人の兄ちゃ
  んが一人ipod聞きながらシュートを打ってるだけ。俺も一人黙々とシューティングに励んだ。


そんな訳でとりあえず一番身近なバスケットについて話す事にした。


やはりアメリカのバスケットのレベルは全く違う。


俺は高校時代県大会ベスト4に入るチームでキャプテンをしていた。


ガードがポジションだったが当時県で3本の指に入るだけの実力もあった。


だから例えアメリカでも公園で遊びでしかやった事のないような奴等に負ける気などしなかった。


日本じゃぁ当然有り得ない話だ。


しかし俺の自信はあっという間に木っ端微塵に打ち砕かれた。


  初めの頃はビビッてこんな感じのグループに入って行く根性など到底なかった。唯、一言付
  け足しておくと必ずしも全員が全員上手いと言う訳でもない。ダブルドリブルを平気でする黒
  人にも遭遇する事もたまにはある。



そもそもアメリカのストリートバスケット(ここではスクール、クラブチームなどでチームとしてトレーニングを受けた事の無い人達によるバスケの総称として使う)は個人プレーが全てだ。


如何に自分で得点を重ねていけるか、そしてその結果自分のチームが勝つかという事への執着心が極端に強い。


だから公園で試合なんかすると上手い奴がいればそいつのワンマンショーで終わり、なんて結果はよくある話だ。


誰も周りの奴等は自分のお膳立てなんかしてくれない。


上手い奴等が増えると尚更だ。


とりあえずチームメートからボールを奪って無理矢理にでもネットにねじ込むぐらいの勢いが無かったらオフェンスで一回もボールを触れずに試合は終わってしまう事もある。


俺は日本で中学高校で培ったチームプレーに重きを置いたスタイルにこだわり過ぎてアメリカのストリートバスケットのスタイルに始めはなかなか馴染めずほんの数ヶ月前まで高校でオフェンスの要だったあの俺様がまともなトレーニングを受けた事の無い様な奴等の中でオフェンスで一回もボールに触る事が出来ないと言う屈辱を味わった。


パワーの違いも歴然だった。


リバウンドでジャンプしても隣で一緒にジャンプした奴に空中で押し退けられてしまう。これは日本では経験しなかった。


リング下でのボールの奪い合いは壮絶だ。


一瞬でも気を抜いたらあっという間に力で圧倒されてしまう。


しかもお国柄なのか何なのか大抵の奴等は相当な負けず嫌いだからよく気持ちでも圧倒されてしまう。


こういった屈辱を経験する内に学んだ事は、もし自分が自分らしいプレーをし尚且つ活躍したいのなら周りからリスペクトを獲得しなくてはいけないこと。


そしてその周りからのリスペクトは自分で勝ち取ると言うことだ。


それ以降俺は元々そこそこの自信があったスピードを生かして「遠慮」なんて気持ちは捨て去り失敗を恐れずどんどん自分をアピールした。


ガードとしてチームをオフェンスをまとめる事は後回しにした。


いつしかチームメートにとりあえずあのアジア人にパスしておけば後はあいつが得点してくれるみたいなゲーム展開に持っていく事が出来るようになった。


自分のペースで試合運びが出来るようになれば後は大好きなアシストパスを連発させ相手チームを唸らせる事も出来るようになった。


俺は西海岸を転々と移り住んだ。


新しい土地に引越す度にまたバスケットの出来る公園を探してまた新しいグループの奴等と試合をする事になる。


その度に自分をアピールしながら自分の新たな居場所を確立する作業の繰り返しだ。


そうやって俺はアメリカのバスケットに浸っていった。


ん~、やっぱりバスケはおもろい!


中学、高校でバスケットをやってる少年達はもしチャンスがあったら是非ともアメリカにストリートバスケットをやりに来るといいとつくづく思う。


新たなバスケットを身につける事が出来るんではないだろうか。