ヘンリー幸田氏は、日本企業の知財部門には必ずあると思われる「米国特許法逐条解説」の著者として有名ですが、あれはちょっとヘビーすぎるし古いので、この「米国特許法研究」(ヘンリー幸田/ILS出版)を買って持ってきました。
冒頭では、特許の歴史をルネサンスのベネチアにさかのぼって解説していますが、このあたり読み物としておもしろいです。さらに読み進めると、アメリカ特許制度(と実務)についてひととおりコンパクトに解説されており、けっこう使える本ともなっています。
著者の豊富な実務経験に根ざした説明には教えられるところが多く、特に特許法上のprosecution history estoppelと契約法上のふつうのestoppelの違いや、KSR事件のrigid bar/flexible barの立証責任の観点からの分析には、目からウロコでした。
特許法に限らずアメリカのロースクールでは制度の歴史と政策的意義についての議論に多大な時間が費やされますが、著者はさすがに米国弁護士だけあってそのあたりが完璧に押さえられています。
そういう意味で、LLMでアメリカ特許法を勉強しようという方(日本語文献には近寄らない方針の方は除く)が最初に読むには、まさにうってつけと思われます。